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第七十九話 過去との再会、今との出会い

 権之内が振り返ると、そこには今へと繋がる過去があった。


「アレク!」


 そこにいたはのアメリカ時代の戦友アレクだった。


「ゴン、久しぶり」

「へへっ、俺の方はたまに夢で会ってるぜ」

「……相変わらずどう返せばいいか困った内容を言うんだな」

「まぁ夢に見たことは本当だけどな」


 アレクは権之内の隣まで歩み寄る。


「良い企画だったな。見てたよ。やっぱりサッカーが好きなんだな」

「じいちゃんが言ってた。初恋の相手ってのは、ジジイになっても覚えているもの。ジジイになって自分の記憶と答えわせするといいってな」

「そうか、初恋はサッカーだったか」

「まぁな。ジジイにはまだまだ遠いピチピチの俺だが、それでも今あるだけの過去を振り返れば、やっぱりサッカーが好きだ」

「ふふっ、やはり」

 アレクは笑い出す。


「俺もゴンが去った後に日本に来た。今は日本の学校でボールを蹴ってる。サッカーは国境を越えたグローバルな競技だと話には聞いて知っていたが、実感すると感動するものがあるな。日本人もサッカーが大好きと来ている」

「そりゃそうだ。日本人に限らず人間はドキドキすることが好きなんだ。その点サッカーは優秀な娯楽でもある。見てもやっても面白い!」

「ゴンのこと、最近周りで有名になってたんだ。ゴンは最近あちこちに出没しては色んなヤツとボールを蹴っていただろ?」

「ああ、そうだな。この企画にたどり着くためには頭も必要だが、そこは相棒が補ってくれる。俺はサッカーの感覚をしっかり掴むため、たくさんボールを蹴ることにしたんだ。はっは~!」

「俺の知り合いがさ、変な男が来て暴れまわってるって言っててな。それで、よく知らないゴンとボールを蹴っても楽しかったってさ」

「サッカーは国境だって越えるんだ。だったら学外くらい余裕で越えるさ。この街の皆でボールを追って楽しめるってもんだ」

「ゴンはとにかく楽しむことに真っ直ぐ。アメリカ時代から変わらないな」

「おいおい、最近はちょっと変わった。ちょっとだけサッカーも上手くなったぜ!」

 権之内はグランドに駆け出す。そして転がっているサッカーボールに足を置く。


「アレク!せっかく来たのに俺達の出し物を体験してないんだろ。それじゃ勿体ない。ちょっと蹴って行けや!」

 権之内はアレクに軽めのパスを出した。


「あそこ、目指してみろ!」そう言って権之内が指さしたのはゴールだった。

「ハハッ、そりゃいい。行くぜ!」


 アレクはドリブルしてゴールを目指す。

 権之内はそれを止めにかかる。

 アレクの足さばきは器用で、そのテクニックは常人の持つ範疇を軽く越えたものだった。アメリカにいた頃から権之内は豪快に、対して相棒のアレクは丁寧で細かいプレイスタイルを持っていた。

 権之内も応戦するがなかなかボールを奪えない。

 アレクがターンを決め込めば、権之内も透かさず追撃する。

 攻防を続ける内、権之内に一瞬の隙が見えた。それはアレクにとってゴールへと続く道が完成した時だった。アレクは猛烈に加速して権之内を振り切ると、ただゴールを目指した。しかし、権之内も一度抜かれたところでそのまま守備の手を休めることはしない。

 権之内はすぐにアレクと肩を並べる。そこから更に前に出ると、スライディングタックルを放った。

 迫る巨漢の攻撃をアレクはジャンプでかわす。足と共に、ボールも地面を離れる。器用にアレクの右足爪先に吸い付くようにボールも一緒にジャンプに成功していた。大地に帰ってくる間も惜しいアレクは、そのまま空中でシュート体勢に入る。

 アレクの足から放たれた高速シュートは見事ゴールネットを突き刺した。


「アウチ!やられた!」

「ふぅ、さすがゴン。豪快なプレイだが、動きはピカイチだ」

「ははっ、まぁ今のスライディングは半分くらい避けられる前提のものさ。アメリカからこっちへ来て修練を欠かさなかったのなら、俺のスライディングくらい避けて当然ってもんだろ?」

 権之内は負けたけど笑顔を見せる。楽しかったからだ。


「負けた負けた。向こうでコーチも言ってたな。ボールはやっぱり友達なんだって。そんで浮気はしない。燻ってボールを蹴らなかった時期があった俺がいて、いつもボールと一緒だったアレクがいる。友情は時間だけのものではないが、それでも何年も会わないダチより、日々一緒だったダチを選ぶわなそりゃ」

 権之内は旧友だったサッカーボールをアレクと取り合った結果、会わない日が長かったために振られてしまい、ボールはアレクを選んだのだ。


「ゴン!」

 スライディングタックルを放ったまま地面に横たわる権之内にアレクは手を差し伸べる。

「今度こそ一緒にボールを蹴ろう。高校を出たらチームに入らないか?」

「は?なんだいそりゃ」

「高校を出て、大学でも良いし、プロを視野に入れたチームでも良い。とにかく一緒にやろうぜ。ゴンくらい才能があるんだ。勿体ない」

「アレク。お前、俺にすまないとか思ってるのか?」

「そう思わない程無神経じゃない。でも、過去のことを悔いての誘いではない。純粋に今のお前とまた蹴りたい」

「だよな。アレクは過去のことを面倒臭く引っ張ったりしないよな。前向きアレクだ」

「学校の仲間達と楽しくチームでサッカーをしてたじゃないか……」 

「ああ、良い仲間に出会えたんだよ。日本にも変わったヤツ、面白いヤツがわんさかいるぜ。まぁまたサッカーをやるかどうかはちっと考えさせてくれや」

 ゴンはアレクの手を取って立ち上がった。


「ところでゴン。俺、日本語ちゃんと喋れるよ。ずっと英語で喋ってるけど、そんなのだとホラ、ゴンの仲間がびっくりしてるぞ」

 アレクは権之内の後を指さす。


「うわわ!ゴンが謎のアメリカボーイとアメリカ語でベラベラ話してる。いつものゴンじゃない~!!」

 権之内が英語で話すのを聞いた一世は、いつもと雰囲気が違いすぎることにビックリするのだった。英語をアメリカ語なんて言うあたりにそのビックリ加減が出ている。


「はっはー!だよなだよな。日本に来て日本の学校に行ってりゃ、そりゃ日本語ペラペラだよな!」

 権之内は日本語でそう言うとケラケラ笑うのだった。


 権之内はこの日を終始清々しい想いで過ごした。

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