第七十八話 救い救われ
文化を一日で語るなんてとてもじゃないが時間が足りない。倍の二日あってもまだ全然足りない。足りないは足りないでもけてなるたけ文化の良さを伝えたい。そんな想いから、閃光帽蛇高校の文化祭は二日間に渡って開催されるのだ。
一日目のハイライトはすっかり終わり、第一の宴は締めに向かう段にあった。
「ふぅ、疲れた。しかし盛況だったな」
運動場に作られたテントの下に横になって権之内は言った。もう一般のお客さんは帰ってしまい、そろそろ片付けを始める時期になっていた。
「ああ、意外にも意外だが、あれで本当にウケてたな」勇は言葉を返す。
「俺考案のオフサイドトラップ仕掛け体験、普通にお客さんとのPK対決も盛り上がったな。俺たちのクラスの出し物『素晴らしきサッカー文化伝授教室』は大成功だったな」
「そんな名前の出し物だったのか?初めて知ったぞ」
「加えて、俺が作ったパネル資料『モスラ・ルイルイの歴史』も好評だったな」
「お前、ちょっと古い選手が好きだよな」
「ああ、ヤツの影響でカレーを一杯食う人生になったぜ」
疲れの中、二人は秋の気持ち良い風を全身で感じる。そのためしばし無言の時が続く。
「勇よぉ」
「なんだ権之内」
「俺はさ、嘘が下手なんだ。それより前に、なるたけつきたくないとも思っている。特にお前には何でも隠さずオープンでいたいと考えている」
「んあ?お前、何の話だ?」
「こんな話だ。ってことが分かるよう続きを話すから聞いてくれるか」
勇はそれまで楽にしていた姿勢から胡座をかき、背筋を伸ばして権之内を向いた。
「うん、聞くよ」
「日本に来てからしばらく、俺の中には俺らしくないちょっとの影差す想いがあったんだ。このサッカーに関するアメリカ時代の想い出の中に、燻るものとまでは言わないものの、ちょっと考えてしまってそれで落ち込む、みたいなものがあったんだ」
「うん……」
「サッカーは楽しい。その想い出が一番だが、それ以外にも人間的に深い気付きが得られた楽しいだけじゃない想い出もある。俺はな、サッカーが好きかどうか迷っていた時期があったんだよ。でも、日本に来て勇に会って、それから一世のバカやみっちゃんや他のヤツらと関わる中で、心に引っかかっていた何かがスッキリ取れたんだ。つまりなんて言うか、救われたんだよ。勇や皆との出会いで心が救われたんだ」
「……」
「下手くそな語りだな。すっかり何もかもが伝わらないと思う。言ってる意味が分かんないかもしれない。ただ、勇に助けられた。お前は数学が得意だけど、打算づくで動くのはそうじゃないだろ?」
「あ?まぁ、どうだろう。考えたことないな」
「はっは!それを考えないのが得意でない証拠だ。俺を救うつもりなんかお前にはこれっぽっちもなかったんだよ。ただ普通に生きていた。その中で知らぬ間に俺を助けていたんだ。お前にそのつもりはなくとも、俺は助けられた。だから感謝する。ありがとう、勇に会えて良かった」
「え?何だ?」
勇は権之内が差し伸べた手を見て何だと思った。
「シェイクハンド、日本では握手!」
「知ってるってのそんなこと」言うと勇は権之内のゴツゴツとした大きな手を握った。
「どんな話か分かったか?」
「さぁな。でも俺もお前と会えたことは良かったと思うよ。面白かったからな」
握手した二人は微笑みあうのだった。
「お~い!二人共ぉ~何をそんなところで男同士手を握り合ってるんだ~」
向こうから大きな声を上げて一世が走り寄ってくる。
「バカ!そういうのじゃないんだよこれは!」
勇はちょっと恥ずかしくなって慌てて手を離す。
「はっは!いやな、勇ってば男らしい見た目の割に手は女みたいにすべすべしてんのよ。それを確認してたってわけさ」
そんなことは全く無いのだが、権之内はおバカな一世のノリに合わせておバカな回答を行う。
「え!そうなのか!どれ?俺も男にして女の肌質を持つその手の感触を確かめて見ようじゃないか」
一世はいやらしい手つきで勇に向けて両手を伸ばす。
「気持ち悪いことを言うんじゃないよお前は!触るんじゃねぇ!」そう言うと勇は逃げ出し、一世はそれを追いかけるのだった。
権之内はそれを笑顔で見ているのだった。
そんな権之内を訪ねてくる大きな男の影があった。
「ヘイ、ゴン」
権之内は久しく聞かない懐かしい声を聞き、背後を振り返った。




