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第七十七話 出来なかったそれが出来たあの感動はいつまでもプライスレス

「ゴール前のココ!ここがセンタリングを受けてバシッと決めるのには最高のポジションだ!」

 権之内はペナルティエリア内最高のポジションを指さす。そこにはマットが引かれていた。


「で、あちらに見えるのが、最高最強のパス職人の異名を持つ平成後半に誕生した男、そう我らが神名勇でござ~る」

 ゴールから数メートル離れた位置にいる勇を指さして権之内は紹介を済ませる。


「あの職人がココに最高のセンタリングをくれる。それをドカンと決める!さぁやってみよう!」

「やってみるって、大丈夫なのかい権之内君?」

「先生、それを実証するために忙しい立場の先生にわざわざお越し頂いたわけです。わざわざお越し頂いたからには、きっちり実りある仕事をして帰ってもらった方がきっと今日の晩飯が美味くなる。お互いにね」

「前田君、君は一体何を言い出すんだい。と想ったけどなるほど、一理ある」

「ご理解頂いたところで、さぁゴンやってみよう!」

 担任はゴール前のマットの上に立っている。その担任を真ん中に挟んで権之内、一世も立っている。


「お~い勇ぅ~、パスをくれパスを!最高最強のパス職人に恥じぬマジ最強ミラクルなやつを~!」

「なんちゅうバカな注文をしてんだアイツは!」

 権之内のオーダーを受け、勇は絶妙にして最高最強のセンタリングを上げた。


「よし今だ!いくぜ一世!」

「OK!ゴン!」

 二人は担任を持ち上げる。瞬間、担任の足はマットを離れ、宙を高く舞う。


「行け!先生!」

 権之内が合図を出した時、担任は宙返りを決め込む段に入っていた。くるりと持ち上がった足はやがて降りて来る。降りて来た足は、見事勇の出したパスボールにヒットした。これにてオーバヘッドキックが決まった。ボールは一直線にゴールを目指し、綺麗にゴールインした。


「うわぁ!びっくりした!」

 担任はスタっと着地を決め、数秒ぶりに帰ってきた地上を踏む感覚を噛み締めていた。

「お見事!先生、ナイスゴールですよ!そしてナイスゴールまでの道のりを必然的なものとしたあのパスもスゴイ!勇もナイス!」一世は拍手した。

「なぁ先生いいだろコレ?漫画では見たことがあるけど実践は難しい、危ない、ていうか普通に蹴ればいいから意味なくない?とか言われるばかりでやる者の少ないオーバヘッドキックを経験出来る一流アトラクションがコレだ!感想を聴かせてくれ!」

「うむ、最初こそ何を言ってるんだこの子達はと想ったが、何を言ってるのかはそれをしっかり体験することで理解してあげないといけないんだな。まず一つ、教育的気づきが得られたよ」

「そいつはとっても良かった!で?感想は?」

 権之内はすごく感想を聞きたがる。

「そして君が欲しがるこれの感想ね、いや~良いねコレ!漫画やアニメでたくさん見たけど絶対に真似できないアレをさもやってのけた特別感がある。これってバク宙の要素もあるよね。これもまた味わったことのない感覚があり、見たことのない景色が見えて良いね。スッとしたもんね。頭上に地面があって、足が宙を向く、こんなアンビリバボーなことは私生活にはないドキドキだ。このドキドキもまた文化だ」

「先生、文化に繋げたいがためになんかこじつけてないか?」

 担任の発言の信用度も100%ではない。なので勇は疑問を口にするのだった。


「先生、次のはもっと良いぜ!サッカーってのは蹴ってゴールにぶちこむのが全てではない。攻撃する者があれば、守備に回る者もいる。お次は守備の要のキーパー体験だ。11人いて10人は好き勝手にフィールドをうろちょろできるが、キーパーは基本的にはここに固定の珍しい役回りだ。そこを体験すれば、サッカーの真髄を見ることにもなる」

「お前、さっきからダラダラと絶対に無駄な前置きが多いんだよ。サクッと説明して先生に伝えろよ」

 同級生の不手際を厳しく指摘するいつもの勇の姿が見えた。


「よしいいか先生、次はシュートにおいても『まるで足が手なのか?』とかつて対戦相手に言わせた程職人のテクを持つあの勇が、先生からゴールを奪うためにいい感じのを蹴ってくるから。それをワンハンドなりツーハンドなりでとにかくがっしりキャッチするんだ」

「へえ、神名君は足だって手のように扱う器用さがあるってことなんだね」

「さすが先生、学問の申し子は理解が早い」

「おい、誰の足が手だって?そんなこと言われたこと無いわ。だから頭の痛くなる無駄話ばっかりするじゃないよお前は」

 勇は自分の得た評判をまるで知らない。権之内の話は本当なのか、それとも瞬発的に今産まれた嘘なのか、それは権之内にしか分からない。


「勇が右端を狙って蹴るから、先生は逆の左側に走る」

「え?逆にかい?」

「そう!するとジャンプして、ゴールポストを蹴る。その反動でボール目掛けて一直線に飛び上がってキャッチ!」

「ちょっと待てよ。それは確かいつだか姉さんの読んでた漫画にあった三角飛びっていう空手の心得を混ぜたスーパーキーパースキルじゃないのか」

「御名答!あ、先生には姉貴がいるんだな。いいじゃん」

「しかし権之内君、先生は野球こそ一齧りしているが、サッカーと空手は全くの門外漢なんだよ」

「え?なんだって?門番?まぁキーパーってのは大きな門を守る門番ではあるわな」

「先生、ゴンの知らない言葉で喋っちゃ駄目ですよ。相手に合わせて語彙力を乏しくしなきゃ」

 

 勇は説明を交えて三人が無駄話をしているのを見ている。

「なんちゅう会話してんだアイツら」 

 学生と教師の日常会話には珍しい展開を見た勇の感想がこれだった。


「よし!行くぞ。先生、とにかく勇が蹴ったらさっき指示した行動を」

「わかった権之内くん。やってみるよ」

 

 勇がボールを蹴る。担任はボールが目指すゴール右部分とは真逆の左側のゴールポストに走る。そしてジャンプしてゴールポストに両足を接地させると、次には逆サイド目掛けて力一杯飛び上がった。

 担任が飛んだ瞬間、空中に異世界ゲートが開きゴライアスとセピアが姿を見せる。二人は担任の体を掴むと、そのままボール目掛けて担任を移動させる。これにより担任一人の力では全く叶わなかった三角飛びキャッチが見事成功した。


「ハハッ!すごいなコレ!体が一気に軽くなって大ジャンブしてちゃんとボールが取れたぞ!」

「そりゃそうよ先生。私達二人が重力を無視して先生を引っ張ったのだもの」

「セピアさん、ゴライアス君、君達はそんなところに隠れていたのか。急な登場だからビックリしたよ」

「先生、ナイスキャッチでしたね。どうです名キーパーを体験した気分は?」

 セピアとゴライアスは、自分達の仕事が無事成功したことに満足そうだった。

「いいね、これ!一度はやってみたかったけどまず無理なスーパープレイが出来て漫画の人物のような気分になれる。適材適所っていう要素も見られた。空中浮遊が達者な二人に良い配置にもなっている」

「ははっ、先生、この企画は俺が考えたけど、人間をどう使うかっていう配置については頭脳冴える勇が考えたんだ!スゴイだろう!」権之内は勇のことも含めて威張る。

「いやいや、良いチームの良き仕事だ。いいね、サッカーは文化。君達が伝えたいことが分かったよ」


「先生、いい汗かいた後はドリンクをどうぞ!」

 セピアは担任にドリンクを渡した。

「ありがとう。あ、これも企画の内かな?」

「これは俺の提案なんですよ先生。サッカー部といえば、可愛いマネージャーから美味しいドリンクを手渡ししてもらえるご褒美があるでしょう。そこで性格にはちょこっと難ありだけど顔はとってもイケてる女神様からのドリンク提供という締めを用意したんです」

「前田君はプレイ自体とは別にサッカーのその後のことも考えたんだね。いいね、文化だね」

 担任は一世を向いて親指を立てた。


「先生も自由すぎだな。自由もまた文化、とか言う人なんだよな」

 変な企画だが、今この場にいる皆が笑っているのでまぁ良いかと思う勇だった。


 この企画は文化祭当日に訪れた一般の皆様からまさかの大好評を取ったという。

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