第七十四話 女三人寄れば謎のノリも生まれるもの
現在、フラッシュコブラシティに住む多くの人間が平和な夕刻を迎えている。そんな中、神名家の庭には、中学生の少女と女神が取っ組み合うという平和にはちょっと遠い景色が見られるのだった。二人は互いの両手を合わせることで激しく押し合っている。
「おのれ田舎娘のガキ!秋の風を全身にまとって気持ち良く空中浮遊していたこの女神のささやかな時間を無粋にもそんな100円ショップのボールごときで打ち崩すとはどういう了見だぁ!」
女神は一息に不満をぶちまけた。深く一歩踏み込み、結華を後退させる。
「残念でした!一個300円もするんだよ!」
塀の向こうからみっちゃんの声がする。結構高いテニスボールだったようだ。
「な~にを言うのかしら。どうせお空の上でぼぅ~としているだけの無駄時間でしょ?」
結華も負けじと強気の言葉を吐くと女神を押し返す。
「そのちょっとの無駄時間が、この厳しき社会を生き抜くための英気を養う貴重な時間になるってことがガキには理解出来ないようね」
「何言ってんのよ。あんた文化祭の準備サボってばかりでお兄ちゃんの仕事増やしているって、しっかりお兄ちゃん本人から聞いてるんだからね」
「へえ!勇はこの魂のパートナーである私のことを品の無い妹にまるで自慢話のように聴かせているのね。ふふっ、あなたは兄ののろけをしっかり聞いて自分の魅力の無さを痛感することね!」
「何を言ってるんだ!あんたの仕事ぶりがポンコツだって愚痴ってるのよ!」
「ふふっ、愚痴を言うのも愛情表現よ。勇くらいツッコミ気質な男には、ダメ出し出来るくらいの女がツボなのよ」
「謎のポジティブ決めてんじゃないわよ!お兄ちゃんに迷惑かけんな!」
「だから、そのためのサポートとしてあのマユミを派遣したんじゃないの」
「なに!マユミ?」
マユミという知らない名を聞き、結華は手の力をスッと抜いた。強く結華を押していたセピアは、押した分返って来る力を失ったため体勢を崩して派手に地面に転倒してしまった。
「マユミって誰だ!」
「いたぁ…‥急に力抜かないでよ」
「マユミって誰だ!」
結華は二度問う。
「あらら、マユミのことは紹介していない。勇はなぜマユミの情報を伏せたのかしら」女神はニヤニヤして言う。
「マユミって誰だ!」
次には別方向から三回目の同じ問いが飛んで来た。
セピアと結華が塀の上を見ると、塀をよじ登ってこちらに越えようとするみっちゃんの姿が見えた。
「マユミって誰だ!」
みっちゃんは塀の上に立ってもう一度問うのだった。
「……パンツ見えてるから降りなよ」と結華は注意するのだった。
ちょっとした騒ぎから落ち着つくと、三人は並んで縁側に座った。
「そのマユミってのは何だ、どんな女だ?」結華が乱暴に問う。
「そうだ、そうだ。教えろ」みっちゃんも知りたがっていた。
「ああ、マユミってのはね、一流の闇の美人秘書よ」
「なにぃい!闇の?美人秘書だぁ?」
聞いたことがない言葉並びに激しく疑問を持つ結華だった。
「うん。彼女は皆から見ると異世界人ね。こっちとあっちをモニタで繋いで、それで色々仕事を手伝ってもらっているってわけ。さすがプロだけあってしっかりした仕事をしてくれるわ。我らが女神協会で割り出したやり手のエージェントだもの。そこは間違いないわ」
「なんだ、そんな協会あったのか」
「で、そのマユミと勇くんってどうなの?」
「あらら、みっちゃんもそんなに気になる?もしかして大事な幼馴染の勇が異世界美人秘書にお熱を上げないかって不安?」
「いいから、教えろって言ってんだろうが」みっちゃんは凄んでセピアの両肩を強く掴んだ。
「痛いっての。これが宣材写真よ」
セピアは女神協会より支給された端末、こちらの世界で言うところのスマホ的機械の液晶にマユミの顔を映した。
「まぁ、闇の?の要素は知らないけど、美人……の範疇ではあるのかな。ブスではない」というのがみっちゃんの評価だった。
「この女、お兄ちゃんになんか色目使ったりしてないよね。見るからに年下好きな感じのする女なんだけど」
「え?見るだけでそこのところの趣味が分かるの?まぁ大丈夫なんじゃない?二人で仕事することも多いけど、異世界モニタを挟んでのことよ。それでイチャつこうなんて無理な話でしょ?それにこんな秘書よりもっと素晴らしい女神がいるんだからさ。それを思えば、画面に映った女の存在なんて些末なことよ」
女神は自分のことをどこまでも高く評価しているのだった。
「セピア……あんたってマジで図太いよね」
「ありがと」
玄関の扉が開く音がした。勇のお帰りだ。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃん帰ってきた」
「あ、何してんだお前ら」
勇は過去に揉めたことがある女子三人が並んでいるのを不思議そうに眺めた。
「……何してんだお前ら」
なぜかもう一度言った。
「お兄ちゃんまぁまぁ、ここに座って!」
結華は勇が縁側に座るよう、後ろから彼を押すのだった。
「え?何だよ」
勇が座るのを確認すると、女神が動いた。
「じゃあ私、勇の隣!」女神は勇の右肩にくっつく。
「私はこっちだ」みっちゃんは勇の左肩にくっつく。
「ああ!謎の女共にお兄ちゃんの隣を占拠された!どっちか、いやどっちも退けろ!」
結華は謎の女共を引き剥がそうとするが、二人共それに応じない。
「じゃあ私はここだ!」結華は兄の膝の上に決めた。
「ちょっと、おいおい、なんなの?お前ら何がしたいんだ?」
色々考えてたけど勇にはその答えがまるで分からない。
「はっははは!」
よく分からないノリの下、女子三人がなんとなく示し合わせてこんなことをしたのだが、三人共何だかよく分からい面白さが襲ってきたことで笑うのだった。女子特有のノリは当人達にも予測出来ないタイミングで生まれ、そのノリは男子には分かりづらかったりするものだった。




