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第七十一話 お母ちゃんは皆の心の最終防壁

 しばらくの呼び出し音の後、マユミ心の駆け込み寺へと電話が繋がった。


「はい、もしもし」

「もしもし、お母ちゃん!お母ちゃん!」

「ちょっと、母ちゃんを連呼しないでよ。娘が出ていったことで、ちょっとでも独身時代の若き感覚を取り戻せた感じだったのに、そんなにお母ちゃんお母ちゃん言われると、すごい勢いでリアルが襲いかかって来るじゃないのさ」

 

 そんなに老けて何を言ってんだこのババア!

 どの方面の心のポジティブでアンチエイジングを図ってるんだよ。


「ねえお母ちゃん、今ちょっと良い?」

「あぁ?今って、あんた今何時だと思ってんのよ」

「何時って、え~と、14時半よね」

「ああ止めてよね、その24時間で計算するの。なんか嫌いなの。私は朝も昼も1~12で数えたいの」

 

 マジ面倒くせぇ!


「う、うん……じゃあお昼の2時半ね」

「そうよ、とんでもない時間よ……サスペンスの再放送のいよいよクライマックスに来るところよ」

「あ、今見てるんだね」

 後ろでめっちゃテレビの音がする。


「うん、つうわけで忙しいから」

「いや待ってってば!娘の電話をそれで切るとかあんまりよ。てか私が買ったHDD内蔵BDレコーダーあるでしょ?とりあえずサスペンスはあれに録画して電話に集中してよ」

「なによ、家を出ても面倒をかける子だね」

 

 母はサスペンスの録画を済ますとまた受話器を手にした。


「で何?母さん暇じゃないのよ」

 いや絶対暇だろうが!とはツッコめないのが今のマユミの心情だった。

 とりあえず下手に出て話を聞いてもらおう。


「あのさ、ちょっと相談ていうか。いや、めっちゃ相談なんだけど」

「あんたって相談を持ちかける時の会話の切り口がいつもそれだったよね。プスス、成長ないんだぁ~」

 うぜぇ!なんだそのOLみたいなウザいノリ。もうババアだろうが。とは思ってもやはり困った時に頼れる母なので、娘は娘として大人しい態度でいるのだった。


「あのさ、まぁ仕事のこと。知ってる子のことなんだけどさ」

「いいよ、ズバッといいな。母ちゃん相手に話の遠回りはいらないよ。田んぼもビルも突っ切る勢いの最短ルートで進めな」

 この受け答えは頼もしい。こんな感じで母は、リアルに足を使ってどこかに向かう時でも考えられる最短ルートを突っ切る。まるでイノシシに近い行動パターンを持っていた。


「例えばなんだけどね、まずその子は悪の魔王の下で働いているの。で、ある日の休日、ちょっといいなぁって思える相手を見つけるの。そしたらその人が魔王の天敵の勇者だったの。こうして対立する二つの勢力の間で揺れる乙女の柔なハートは、何とかして心落ち着ける安らぎの場を求めるの。さぁ彼女はどうするのが良いと思う?」

「ぷはっ!何その例え。例えがめちゃくちゃ過ぎてウケる!」母は爆笑していた。

 なおマユミは自分の就職先について「イカしたオフィスに決まった」としか親に言っておらず、まさか魔王の下で働いているなんてことを母は全く知らない。


「ちょっとお母ちゃん、爆笑してないで考えてよ」

「いやいや直球の謎話だったから、まさかこの内容とは予想つかず、笑いのツボのガードもお留守だったは……プススス!」

 母はまだ笑っていた。


「まぁさ、義理立てってのがあるよね。元々は魔王軍でお世話になってるんだし。勇者側につくのもちょっとねぇって感じ」

「はぁ……そうなのかな?」

 ということは、お母ちゃんは勇でなく、魔王ドブジルを選べというのかしら。


「つってもねぇ、まぁそんなの結局分っかんないわ!だって魔王とか勇者なんて知らないし、会ったこと無いし、何のこっちゃって感じ!あっっはは!」

 

 おのれババア。娘がこんなに悩んでいるのに、めっちゃ笑いやがって!


「でもさ、その子がめっちゃ悩んでいるんなら、その子が自力で解決するしかないよ。その答えを見つけるのが難しいんだろうけど、過程事態は極めてシンプルなのさ」

「え?それはどういう?」

「二つあるどっちがより良いのか。それは、その子の心の針が向いた先にあるのが答えよ」

「お母ちゃん……」


 なんて単純明快なのだ。母の答えはシンプルにしてズバリ正解だ。己の悩みの解決に直結するものではないが、解決に向かう道しるべとしては的確な意見が得られた。


「あんたしか見えないでしょ、その針の先ってのは。向いた方を誰の正解でもなく、あんたの正解として信じて進みなさい」

「お母ちゃん……お母ちゃん……やっぱり私お母ちゃんがお母ちゃんで良かった。マジで最高のお母ちゃんだわ!」

「ふふっ、独身時代をいくら回顧しても、私ってば悲しいほどにお母ちゃん気質なのよね。我が身から滲み出る母性の塊が憎らしいわ」


 やっぱり何言ってんだこいつ。

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