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第七話 とりあえず轢いてみよう

「もし、御仁」 

「へぇ?俺かい?何の用だい、お兄さん」


 とある昼下がりのこと。町外れの路肩に停まるトラックの運転手に話しかけたのは、異世界から来た謎の男ゴライアスだった。こんな所で銀髪碧眼の男に会うと思わなかった運転手は、驚きを表しつつも応対を続けた。


「あそこに学生の集団がいるでしょう?」と言うとゴライアスは数メートル先を指差した。

「ああ、いるねぇ」


 ゴライアスが指差す先にいたのは、数名の生徒と共に下校していた神名勇だった。仲間達とわいわい賑やかに通学路を歩いている。


「で、先頭の方に一等馬鹿面なのがいるでしょう?ターゲットは彼なんだ」

 運転手は運転席から顔を出して集団を覗く。


「ああ~。あれは神名さんのところのお坊ちゃんだね。え?ターゲットだって?」

「なんだ、知ってるんだったら話が早い。じゃあちょっと突っ込んでいて来てくれないかな?」


 こんなに急ハンドルを切って会話の流れが変えられると思わなかった運転手は、口をポカンと開けたまま黙ってしまう。


「どうしました御仁?」

「どうしたもこうしたも……」


 相手の物言いは爽やか、表情も柔らかいものだ。それでも言動にサイコパスなものを感じた運転手は、やはり怯んでしまった。


「あのね、お兄さん。あんたの出で立ちを見るに、外国から来た人みたいだけど……よそじゃどうか知らないけどね、ここ日本じゃ、トラックで他所様の坊っちゃんを撥ねたら、次には自分の首が刎ねられるのよ」

「つまり、身の保身からそれは出来ないと?」

「当たり前だよ。それににね、あの坊っちゃんの家は、ウチのお得意先だから。お得意先を潰すような愚行に走る商売人がどこにいるってのさ?というか、何の恨みがあってそんなことを頼むのさ?」

「恨みなんてとんでもない!むしろこれから彼に感謝するためにも、ここで一度生を転がしたい」

「はぁ?何を転がすって?とにかく兄さんの相談は聞いてやれないよ」

「なるほど。哺乳類の中でもより己の損得を考えて行動するのが人間だと聞く。こちらの学びは間違っていなかったようだ」

 ゴライアスはブツブツ言って納得しているようだった。


「……ところでお兄さん。あんた、胴より下のそれはどうなってんのさ?」


 運転手が窓からを顔を出してゴライアスの下半身があるはずの部分を見ると、そこには何もない。ゴライアスは丸い形のゲートから上半身だけを覗かせていた。ゲートからは、微量の怪しい光が発せられているのが確認出来た。


「なんだいこれは?今時流行りの5Gだとか何とかいう技術かい?最新のテレビ電話みたいな?」

「え?これ?これは、こっちの世界とそっちの世界を繋ぐゲートでして……と言ってもそちらには良く分からないことだよね。ははっ」

 ゴライアスは呑気に説明すると、これまた呑気に笑い出した。


「あっ!感づかれたようだ!それじゃ御仁これで失礼する。無理なお願いをして悪かったね」

 その言葉を残すと、ゴライアスのゲートはトラックの後ろに周り、運転手から遠ざかって行った。


 ゴライアスが去ると、その直後に運転手の目の前を通過したのは勇だった。


「コラ待て!てめぇ!まだこの辺をうろついていたのか!この異世界変態野郎めがぁ!」


 怒声を飛ばしてゴライアスを猛追する勇の後ろ姿を見送ると、運転手は休憩を終えてトラックを発車させた。

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