第六十八話 冴える乙女レーダーの索敵結果
今日も放課後の生徒会室では、勇達が文化祭実行員会の仕事を進めていた。
「勇、ここの発注数はコレで間違いない?」
「ああ、ちょっと多めに思うかもしれないけど、都合があってこの量でちゃんとあってる」
「あ、そうだったの。だったらごめんなさい。なんだか余計なこと聞いたみたいで」
「いや、いいんだよそれで。何か気づいたら何でも報告を入れ合う方が良い。重大なミスならそれで問題が解決する。さっきみたいに実はいらぬ心配で済んだと分かったなら、それはそれで皆安心出来るだろ。だから遠慮せずに何かあったら何でも言ってよ」
「うん。そうね、ありがとう勇」
「いいっていいって」
勇とマユミは、あちらとこちらの世界を繋ぐ異次元モニタ越しに微笑み合う。
「ねぇあなた達。あなた達ってば、なんか仲良くなってない?」
業務に参加してはいるものの、丁度おサボりタイムに入っていた女神セピアは、なんとなくの気づきを遠慮苦なく口にした。
これを受けてマユミはぎくりとし、不自然に背筋が伸びた。
「な、なにを言うのですか。今や私達は良き仕事を完成させるために協力しあう良きパートナーの間柄のはずです。それは初日と比べればそうもなりますよ。ねぇ勇」
「そうだな。マユミとの付き合いも長くなったしな」
勇の方にはなんら動揺が見られない。
「いや、そうじゃなくて。女神の、いえ乙女のレーダーが反応するのよね。果たしてそれだけの仲の深まり方かどうかってね」
「何言ってんだよポンコツレーダーしか内蔵してないくせに。そんなもので一体何が索敵出来るんだか。
お前はサボってここに寄る回数が少ないからマユミとまだ距離を感じてんだろ?だったらちゃんと仕事しに来いよ」
「いや、その呼び方や気安い口の効き方の変化、そしてあの闇の美人秘書がビジネスライクとはいえ、あんなに表情を崩した笑顔を仕事相手に振る舞うものか……怪しいわねマユミ、怪しいわね勇……てか勇の物言い、ちょっと酷くない?」
女神は勇とマユミを交互に見て程々に傷つく。
マユミは全身に冷や汗をかいてしまう。作業が止まり、口も動かなくなる。
「お前のような怪しい者に怪しまれたくないわ。いいか、マユミはお前と違ってちゃんとマナーを覚え、その上で俺たちに接してきただろ。正しい態度で良いのだが、そんな風にかしこまった態度で来られるとやり辛いんだよ。だからもっとラフに、そして楽にしてくれって俺から頼んだってわけ」
「ふ~ん、本当にそれだけのこと?そういえば私の留守率もなかなか高いものになってきたから、二人の時間も増え、距離を詰めるのに良いイベントをお手軽に発生出来る条件が整っていたのよね~」
「あのなぁ。その留守率の上昇をなんとかしろ。反省しろ!お前はわけのわからん推理をする前に実行委員としての態度を改めろ」
「勇ったら、もうすっかり私を叱りつけるポジが確定したわね。荒い言葉で言い責められる、そんなに嫌いじゃないわ」
「こいつぅ……。こいつに限ったことじゃないが、俺の周りにいる人間達ときたら、どうも人からもらう注意の言葉が響かない作りになっているようだ。厄介だぜ」
振り返ってみれば、自分の身近には人の言うことをあまり聞かない困ったさんが多いと気づく勇だった。
「あ、ちょっと演劇の方で来てくれって連絡が入ったんだけど」
セピアはスマホを見て言う。
「ああ、行け行け。問題起こすなよ」
「じゃあ行ってくるね」
セピアは退室した。
女神にあのようなことを言われた後に二人きりになるとマユミは緊張するのだった。
ヤバいヤバい。色々アレでも相手は女の神と書いて女神。仮にも女であれば、冴える乙女の感覚からそれとなくソレを察知するものだ。ソレとは、一般的にも私個人のポリシーとしても職場に持ち込んでは行けないとされるもの。つまりは、かけがえのない乙女な想い。
私は態度を改めないといけない。確かにここ数日続くこの副業は胸トキメクものがあって楽しい。だがどこまで行ってもこれは仕事であって遊びではない。そんなことが分からない年齢でなければ、経験浅き社会人でもない。
「ちょうど良いし休憩にするか」
「はぁい!!」
勇に笑顔で話しかけられると声まで弾ませてしまうマユミだった。このように己の内側から漏れ出る乙女を抑え込むことは大人になっても難しい。




