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第六十四話 勇者無き世界での魔王の生活ってどんなの?

 特撮モノには格好良い正義のヒーローがいて、その対局には待ったなしのワルワル軍団がいる。二つの勢力がぶつかり合う構図がこの手のジャンルの基本設定だ。ヒーローだけ、またはワルワル軍団だけのどちらか一方しか存在しない世界なら、熱いバトル展開が始まらない。

 悪があってこそ正義が輝き、逆に正義があってこそ悪が輝く。正反対の要素を持つ二つの勢力だが、作中においては互いが互いの引き立て役になっているとも言えるだろう。このような奇妙な関係性が見えるのも一つの真実である。


 悪の魔王ドブジルは、真に自分の中の悪を輝かす待望の人、つまりは勇者が姿を見せないことに焦れていた。


「勇者、まだ来ないなぁ……。トリヒコーヌ、侵略の方はどうなっている?」

「はっ!抜かり無く進行中。というか、侵略に待ったをかける勢力が無いゆえ、面白い程に仕事が捗っています。ぶっちゃけたことを申しますと、やることをやってしまって部下も暇になっているくらいです。そんなものだから、昨今では組織内でトランプ、麻雀などの楽しい賭け事が流行る始末」

「そうか、風紀の乱れはいかんけど、何をするにも適度な娯楽は必要。むしろそれこそが明日をフルスロットルで働きぬくための燃料補給になるものな。でも賭ける金額はほどほどにな。そのように注意しといてくれ。組織内での揉め事はマジ勘弁だから」

「はっ、確かに言い聞かせておきます」


 統制の取れた良きチームであることは、組織の頭として常に意識すべきことだ。悪者であっても、チーム仕事に関しては高いモチベーションを維持するのがこの用意周到な魔王である。


「トリヒコーヌ」

「はい、なんでしょう?」

「お前さ、そうして天上に逆さにぶら下がってるけど平気なの?頭痛くなったりしないの?」

「はい、我ら怪鳥人にはそういった不都合はありません。このまま寝て起きても出来ます」


 トリヒコーヌは、魔王ドブジル城の会議の場においてもコウモリのように天上にぶら下がることを基本としている。


夢笛むてきザウルス」

「はっ、我が魔王!」

「お前の方は調子どう?」

「我らが勢力の管轄でも何も問題はありません。まず人間が全く近づきません」

「暇じゃないのか?」

「……部下の中にはそう言う者もいます」


 魔王軍勢が調子良く侵略作戦を展開する中、勇者はもちろん、その他の冒険者も目立った活動をしていない困った状況になっていた。


「いや、調子よく行ってるならいいんだ。これが逆だったら困るし。だがな、こうもハイペースに事が運べるとなると、逆に退屈な感じもするよな」


 あろうことか魔王は、反対勢力の台頭がないことに物足りなさを感じていた。圧倒的強者の立場にある者は、迫る敗北のスリルがないことに退屈するのだった。今の魔王、並びに配下の者達の心がそうだった。やるべきことをやリ終えた者に襲いかかる次なる問題は、この退屈という凪の時からの脱出だった。


「と言っても、そこは向こうの出方次第だよな。しかし、こうも魔王軍の侵略がある中、もっと頑張って何とかしようと抗わないものなのか?それでいいのか人間達よって思っちゃうよな?」

「はぁ…」としか返しようがない四天王メンバー二人だった。


「で、今更だけど、数少なくね?」

 魔王は自分を含め部屋に三人しかいないことについてツッコミを入れる。


 特に何か建設的な結果に繋がることもないくせして定期的に開かれる魔王城の会議には、魔王並びに四天王メンバー、そして魔王の側近でもある闇の美人秘書の計6人が顔を揃えることになっている。今日は半分が欠席している。


「四天王の内、ダークネス向井は有給休暇を取っています。そして、自称闇の美人秘書マユミも同じく有給休暇で出勤していません。二人共しっかり前もって届けを済ませていると聞いています」トリヒコーヌは同僚達の勤務状況について報告した。


「あ、確かに。聞いたわソレ。今思い出した」

 魔王にはうっかりなところもある。


「まぁ良い良い。休むことは大事。決まりとしてある物を使って休みを取っているんだから問題ない。で、もう一人、いや一体はどうした?」

 魔王は四天王最後の一人もとい一体のメカ戦士ピコットミコットVer.8のことを言っている。


「ピコットミコットVer.8なら、現在ピコットミコットVer.9にアップデート?とかなんとかするために部屋に籠もっているとか。一つの進化の儀式のようなものらしく、これを行っている内は大体二時間程は動くことが出来ないとか言ってました」

 メカに詳しくないながらもトリヒコーヌは知っているだけの都合を話す。


「そうかそうか、アップデートは……まぁ大事だよな。定期的に来るもんだよな」

 魔王は納得の態度を見せた。


「それより魔王様。聞いた話ですが、あの秘書とダークネスの野郎は、重要な会議にも参加する魔王軍の一員でありながら、よそで副業をしているとかいないとか。魔王に誠心誠意仕えることを怠り、よそで仕事をするとはなんて奴らだ!」

 夢笛ザウルスは同僚の副業問題について是非を問う。


「まぁまぁ、そうは言ってもウチは副業禁止令なんて出してないから。あいつらは問題なくここでの仕事を済まし、正式な手続きを取って休んでいる。その休みの間のことまで口出しすることは出来ない。それが組織の頭として持っておく理解だ」

「そんなものですかい?」

「そんなものだ。クリアな組織作りをするなら、そういうところに気を遣うんだよ。部下のプライベートの充実を確保すること、それによりここに帰って来てからの作業効率アップに繋がるってもんだ」

「さすが魔王。心がけが下位の者とは違うようで」トリヒコーヌはクリアな仕事環境の完備に務める上司の心意気を称えた。


「よし、じゃあ今日の報告とかはコレで終わりでいいな。最後に夢笛ザウルス、お前の得意な夢心地に浸れる笛の音を聞かせてくれ。今日はお前の演奏をもって締めとしよう」

「はぁ……リクエストとあらば、喜んで一曲、などとケチを言わず、アンコールもアリでワンステージお届けしましょう」


 夢笛ザウルスの素晴らしい一曲が部屋に響く中、会議は無事終了したのだった。

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