第六十一話 餅は餅屋、米は米屋 side A
大きなお祭りを開くにあたって細かな準備は必須なこととなる。多くの者は参加者として気楽な気分で祭りに関わるだろう。だが忘れてはいけない、そんな多くの参加者を楽しませるための祭りには、必ず縁の下の力持ち的な参画者の存在があることを。
今回の祭りでその重要な役割を担うのが勇とセピアだった。二人は文化祭実行委員として日々活動することになる。
放課後の生徒会室には、たくさんの書類を目の前にして困った様子の勇の姿があった。華やかな文化祭の裏では、このような地味な事務的作業をたくさんこなす者があることを多くの生徒は知らないでいる。
「なあセピア。お前も会計の書類とか、何か出来ることないのか?」
「私は女神よ。そろばんを弾いて何を計算しろっていうの?」
「だから、これから始まる文化祭で動くあれこれの金の計算だよ」
「嫌よ、そろばん弾きだなんて。女神のイメージと最もかけ離れたアイテムの一つね」
女神学校でも少々の算術を学ぶことがあり、その時にはそろばんを弾いての授業もあったのだが、この女神はその授業の成績が大変悪かった。そのため、彼女がそろばんに抱く嫌悪感はなかなかのものになっていた。
「でも安心してよ勇。私は勇に仕事を押し付けて過労死させるようなことはしないわ。この女神の持つ強大な力が、下界の者の生活の面倒の一つや二つ解決できないでどうするっ話でしょ」
「で、何をしてくれるのお前は?」
「ふふっ、餅は餅屋、米は米屋。であれば、こんな事務的作業をこなすのが得意な連中もいるのよ。それに任せるってわけ」
「いや、餅の話は聞くけど、米屋は聞かないなぁ。てか学内作業を外注するのか」
「いいのよ。内だろうが外だろうが、使えるものは何でも使えばいいの。で、私がちゃんと使うことにしたから。もうちょっと待って、時間が来るわ」
16時25分になった。すると生徒会室の黒板が光り始める。
勇は思わず目を向ける。
黒板一面が、ゴライアスやセピアがたまに使う異世界ゲート化していた。そこに人型のシルエットが浮かぶ。シルエットは徐々に薄くなり、最後には女の姿が見えた。
「来たわね。さすが業界のプロ。依頼した時間の5分前行動が取れているわ」
「こんにちわ。依頼を受けて参りました闇の美人秘書マユミです。プロジェクト終了までの間よろしくお願いします」
なんと異世界ゲート越しの対面となった相手は、あの闇の美人秘書マユミだった。一部ではかなり有名な人物だ。
(だ、誰だぁ~!)
目の前に姿を見せた女は、黒のスーツでバッチリ決めた出来るOLといった感じのファッションだった。赤い縁のメガネは、自身を理知的に見せる効果を出していた。でも、よく見ると口の横に白いクリームがついている。
「おいセピア、口の横についてるあれ、ホイップクリームだろ?大丈夫なのかこの相手は?絶対さっき菓子食ってたよな?」
勇は音量を絞ってセピアに言った。
「ちょっと、闇の美人秘書、お口の横にクリームがついていてよ」
「なっ!!ああ!さっき食べたショートケーキの!!」
闇の美人秘書は手の甲でごしごしと唇をこすってクリームを落とした。
一見仕事が出来るしっかり者のような気もするが、どこか抜けている感じも今見られたわけだ。大人しそうに見えなくもないが、多分面倒な女の要素も隠れているような気がする。なによりセピアが引っ張って来るような奴だからいまいち信用出来ない。
というのが、勇が美人秘書に持つ第一印象だった。
「ゴホン!それではセピア様。こちら、受けた依頼はしっかりこなす所存でございます。指示をお願いします」
「ああ、このクソ面倒な会計報告?だかなんとかいう書類作業をサクッと片付けて頂戴」
女神は本来実行委員である自分が行うはずの仕事を全て闇の美人秘書に任せることにした。
「おいセピアお前なぁ。自分で仕事をするって気はないのか?」
「あればこんな女呼ばないでしょ?大丈夫だって、闇の美人秘書への依頼料金まで学園の経費で落とすなんてふざけたことはしないから。闇の美人秘書依頼料は私持ちよ!」とか言いながら女神は勇の肩に置いてウィインクを飛ばした来た。
「十分ふざけてるんだよお前は。てか、さっきから連発している『闇の美人秘書』って単語……これに違和感を抱いて仕方ないのは俺だけなのか」
俺だけなのであった。




