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第五十八話 俺は文化に生きる

 10月に入った。

 この時期に高校生を忙しくさせてくれるのが文化祭の準備である。

 文化とは、我々人類の暮らしを円滑にし、有意義にもする。普段何気なく触れているそれのありがたさをいちいち気にかける者もそういないだろう。なぜって日々の生活を送るのに忙しいから。

 だからこそ今一度文化について考えよう。そんな理念の下、生徒達が最高の想い出を作れるよう設定されたのが文化祭なのだ。学校という機関はバカではない。行事でやることには、いちいち何かしらの意味があるのだ。


 開催までだいたい一ヶ月の準備期間がある。ここでしっかり準備してこそ、文化祭を真に楽しめるというものだ。準備も片付けも本番も、なんならその後も、人生はいつだって文化という祭りの中にある。

 さあ若者よ、青春を、この国の文化をしゃぶり尽くせ!



「というわけで、文化祭の出し物を決めなければなりません。このタイミングでゴライアスくん、セピアさんの使い所によってはかなりパワーを発揮するであろう人材が二人もプラスされた。このクラスは文化祭を戦い抜くに十分な若さと戦力がある。先生は君達に期待しかしません。では皆さん、腹を割って語り合うことで、皆さんの信ずる文化とはコレだ!という青春の作品を見せて下さい」

 教室内に点在する若き命一つ一つに激励を飛ばすと、担任は教壇を降りて教員用のキャスター付きの椅子に座った。


 ここからは生徒同士で話せという合図を受け、さっそく意見を発したい者があった。

 バンと強めに机を叩き権之内が立ち上がった。


「先生よぉ、それならもう答えは出てるんですよ」

「ほう、ではどうぞ権之内」

「サッカーだ!」


 皆が権之内に注目し、「え?」とでも言いたい顔をしていた。勇はしっかり口に出ていた。

 

「それはなんでまた?」担任が問う。

「まずスポーツってのは、もう~どうしようもなく文化だ!いつだって俺達の心にあるのはスポーツ魂。スポーツに胸ときめかせ、血液まで沸騰させたなんてことは、多くの者が経験済みのはずだ。五輪なんて見てみろよ。人間がろくに服も着ていないような時代からアレをやってるんだぜ。衣服の文化が弱かった時代からも、人々が心を強く持って作り上げ今日に至るのがスポーツという文化だ!」

「して、なぜサッカーを?」

「中でもとりわけ熱いからだ。腕を封じて足で戦う。この不自由さが逆に面白みになっている。球を蹴ってデカイ網にぶち込む。教え込めば猿だって覚えられるような基本ルールのシンプルさも良い。文化に複雑性はいらない。良い文化程、理屈抜きにフィーリングで良さが分かるってもんだ。なぁ勇!」

「うるさい、俺に振るな」

 権之内の席は教壇に近い教室の前の方、対して勇の席は後ろの方でかなり距離がある。それまで目が合っていた訳でもないのに、この距離でいきなり話を振ってきた権之内に対して勇は普通に返す。権之内の意外性ある行動の対処にも慣れたものである。


「俺はバスケ部員だが、本業はサッカーなんだ。文化として売り出すならスポーツの中でもサッカーだ!」


「ねえねえ勇、サッカーて何?」

 3つくらい向こうの席にいてもセピアは普通に大きな声で勇に質問を飛ばす。

「ちょっとお前黙っていろ。先生、いいですか?」

「どうぞ、神名くん。ここでは君を含めた皆が主役だ。先生の許可なく有意義に討論すると良い」


「おい、権之内。夏の球技大会は楽しかったよな」

「ああ、今思い出しても胸ときめく楽しさがあった。俺とお前のワンツーで、隣のクラスの名キーパー老山津おいやまずから得点をもぎ取った興奮は未だこの胸に」と言って権之内は胸に握り拳を当てる。


「で、なんで文化祭でもまたやることがダブるんだよ。お前サッカーがしたいだけだろ」

「いいや、サッカーがしたいという思いは確かに含まれる。だが、真の目的は、ガキの球蹴りを文化にまで昇華させたこの競技の素晴らしさを世に発信することにある。球技大会と文化祭の区別くらい、この俺にも、あの一世にだってちゃんと分かるさ」

 権之内はバカ代表として一世を巻き込んだ。

「おい、人を指さしてまるでバカのように言うんじゃない」と一世は意見したが、顔は笑っていた。


 このやりとりを見て担任は拍手した。


「素晴らしい。決定を待たずして感想は早いが、権之内くんの持つスポーツへの、文化への愛と理解には素晴らしいものがある。文化祭でまるで運動会のようなことをするという一見矛盾したトンチンカンなアイデアが、君の言葉と熱を持ってすればしっかり納得が行くじゃないか。これぞまさに文化だ。そして権之内くんをはじめ、君たちがあれが良いこれが良いと言って一つの答えにたどり着くその過程もまた、人間同士が産む共存、共生とかいった一つの文化だ。文化としてサッカーを上げる是非を問うそれを行う君たち皆が文化の申し子なんだ。先生は感動している。映画のテイタニックを見たときのようだ」という担任の目には一粒の涙も見えず、完全に顔が笑っている。


「先生、やっぱりあんたは話が分かる。文化も分からないような硬い頭じゃ、その責任ある場所には立てないよな」

 権之内は教壇の中央にある大きな机を指さして言った。そこは教師の戦う場のフロンティアでもあった。


「このクラスの担任って、やっぱり只者じゃないよね勇」

 勇の前の席のゴライアスが言った。

「ああ……」


「よし!じゃあ俺達の文化はサッカーだってことでいいよな皆?」

 権之内は後ろを振り返って言い、皆の同意を欲しがる。


「まぁな。確かにサッカーは揺るぎない文化。それは言い訳が出来ない。文化でなければ一体あれは何なんだって話だ。よし、やろうじゃないか。サッカーこそ我らのクラスがプッシュしたいイチオシ文化だ!つっても俺としてはアニメや漫画とかのオタク文化こそが最上位のものだと思っているけどな」

 オタクだけどスポーツにも理解のある一世は同意した。 


 しかし、残りの者はそうではなかった。なんだかおかしなテンションになっている奴らを前に呆然状態の者も何人かいる。


「良く分からないが、僕もサッカーというものを学びたいな」

 ゴライアスはサッカーに興味を示した。


「私は勇がサッカーするなら一緒にしようかな」 

 セピアはこの議題に関して自発的に思考し意見する気がなかったので、勇の決定を自分の決定とすることにした。極力思考することをサボりたがるのがこの女神の性質だと言える。


 クラスの出し物がちゃんと出来るのかどうかを思うと、勇はやや不安になるのだった。

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