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第五十七話 選ばれし者達に仲間入りしたい者達

 男と女、子供と大人、愛と欲望、光と闇、希望と絶望、有力と無力、始まりと終わり、相反するものを含めたあれもこれもが揃う大いなる街、それが「ホメコヌス」だ。


 現在ホメコヌスには、勇者のお供として魔王討伐に一役買うであろう戦士達が次々と集まっていた。ここにある冒険者協会がそんな猛者達に集合をかけたのだ。

 ここには既に世界中の猛者達が集まっている。あとは勇者の降臨を待つのみだった。しかし彼らは知らない、勇者がいつまでもこちらに来る気がないことを。

 それはそれとして、とにかく彼らは勇者のお供になるべく奮起するだけなのである。


 内装も外装も大変立派な冒険者ギルドには、多くの者が集まっている。その中には、戦士でもなんでもないけど、ただ強者のご尊顔を拝見したいがために足を運ぶ野次馬共の姿もちらほら見られた。

 日常を脱した活気ある風景が見られるのだから、好奇心旺盛な上に暇な奴程この手の集まりに顔を出さずにはいられない。これが野次馬根性というやつだ。

 野次馬根性逞しき民Aと民Bは、屈強な戦士達の中にあって見た目的に浮かないよう、とりあえずのフェイクをかます。ここに平服で来ると冷やかしだと一発でバレると思った二人は、その気もないのに最寄りのショップで冒険者用防具の一番安いものを購入して装備してきた。最安値ということは、性能としても最弱といえるものだった。


「おい、あそこを見ろよ!」

 民Aは相棒の民Bの肩を叩くと、フロアのテーブルでココアを飲んでいる男を指さした。


「光魔法の天才、ライトネス向井だぜ!すげぇ、本物は初めて見たぜ!」

「おいA、声がデカイっての、静かにしろや」

 ミーハーなAは、有名な戦士を前にしてかなり興奮しているようだ。

「ヤツの操る光魔法は、どんな照明器具よりも強く、明るく、そして優しい光を放つという。元々奴は子役としてテレビで活躍し、舞台照明に関しては自分でもプロデュースしていたという。大きくなると出役は引退し、テレビ番組の裏方として照明担当をしていた。その経験が魔法の精度の高さに出ているんだなぁ。スターもやり、裏では地道に会社員もしていたって点に共感と好感を持つことが出来るなぁ」

「そうか、その業界では叩き上げってやつだな。俺達も絶賛叩き上げられている途中だから、希望が持てるってもんだ」

「そうだなB。結局コネで入ったポッと出のクソよりも、基礎を固める作業を怠らず盤石な状態に持っていった者こそが真に強く、後々まで生き残るんだ。なんだかんだで社会の真実はそこに辿り着く」

 こんな事を語り合う二人の職業が何なのかは誰も知らない。


「うむ?しかし、ライトネス向井には一緒に子役をしていた兄がいたんじゃなかったっけ?兄はどうしたんだろう」

 Bは兄の存在を思い出そうとするが、記憶はそこまでとなり、彼が兄の行方を知ることはなかった。


「あ、ライトネスに声をかける女がいるぞ!あれもきっと只者じゃないんだろ?」

「ふふっ、よく聞いてくれたなB。これまた大物の登場だぜ。まさか奴までここに来るとは」

 次なる猛者の登場にAはもっと興奮していた。


「久しぶりねライトネス。相変わらず部屋の端っこでちびちびとなにかしらのあま~いドリンクを啜るのが好きなようね」

「ああ、甘いものは静かに啜って楽しむに限る。お前もどうだ?サービスで何でもドリンクが飲めるぜ」

「ふふっ、私はコレよ」言うとその女は、ハチミツドリンクを取り出してガブガブと飲み出した。


「見ろよあの女、ライトネスに気安く口を聞いて、あんな……むせ返る程甘そうなものを飲んでいるぜ」

 Bは甘いものが苦手なので、女があんなものを飲んでいるのを見るとやや気分が悪くなった。


「あの女がかの有名なエミコ・ネクストシーズンだ」

「なに?エミコが名前なのは分かるが、ネクストシーズンとは何だ?」

「Bってば、何も知らないんだな。説明しよう。いや、させろ」 

 Aは知っていることをベラベラと喋って博識ぶりををひけらかすことが大好きな困った奴だった。


「エミコは元々カリスマ占い師として活躍していた。その道でも伝説的な人物になっている。そんな彼女がある日、富豪のおっさんを占った時のことだ。ホラ、見てみろ。いい尻をしているだろ?」

「なんだ急に?まぁ確かにいい具合に丸みを帯びた張りのあるマーベラスヒップだとは言えよう」

 Bは尻好きという殊勝な心がけを持つ男である。


「そうそう、そんな尻をそのおっさんに一撫でされるというセクハラ事件にあったんだ。そこで事件はもう一段階膨らむ。尻を触られて反射的に手が出たのだが、エミコの鉄拳はものすごい破壊力を持っていておっさんを半殺しにした。それまで割とお嬢様育ちだった彼女は、手をパーにしようがグーにしようが、とにかく人を殴るという行為に出たことがなかったのだ。だから知らなかった、己に潜んだ怪力を」

「それからどうなった?」

「彼女は占い師の仕事道具のカードやら水晶玉やらを片付け、拳一つで人生を切り開く武闘家に転身したんだ。ネクストシーズンってのは、ジョブを新たにしたことからついた通り名だ。例の脱獄囚達を主役にしたシリーズものドラマのネクストシーズンを見るよりもっと楽しみになるのが、あのエミコの新しき人生ってわけだ。まったく、人生の分かれ道ってのはどこに隠れているのか分からないものだ。もしかすると、こんな俺達にだって、己も他人も知らない何かすごい才能があるかもしれないぜ」

「ふふっ、それもいつ見つかることやら。死ぬまでに発見できるといいがな」



「おっ、次も誰か来たぞ!おいA、もちろんお前ならあれも知ってるんだろ?」

「ああ、奴もまた有名人だ」


 次なる男がライトネス向井、エミコ・ネクストシーズンに声をかける。

「君たちも集まったか、唯一の光魔法の使い手、そしてこちらは唯一の女流格闘家。それぞれ我が唯一の友よ。また会えて嬉しいよ」

「唯一の友が二人もいるのって、唯一の矛盾点じゃない?」

 エミコはくすくす笑いながら男に指摘した。


「ふふっ、それもまた唯一のこの世の真実。この世のあらゆることはだいたいが唯一なんだ。ライトネス、君が飲んでいる唯一の甘き汁をこの僕も味見したいものだな」

「その唯一は俺が飲んでいるからもうないわけだ。それからこれはココアだ。甘き汁って表現、なんだか品がないから止めろよ」


「なんだあいつ、やたらと唯一を言いまくっているな。キャラ設定に無理がないか?」

「オンリーワンの怪物ハジメ・ユイノ(唯野一)。それが奴の名だ」

「奴にはどんなエピソードがあるんだ?」

「奴の行動理念においてのプライオリティ、それはオンリーワンであること」

「なんだそれ?どういうこと?」Bは混乱してきた。


「例えばヤツの装備品を見てみろ。あれはそれぞれが二つ目無き一点物だ」

「何?それはすごいなぁ。この世に一つしかないすごい装備なんだな」

「いや、そうとも限らない。オンリーワンの怪物が重視するのは、他と比べて性能が一番優れるということではない。それが唯一の品かどうかに重きが置かれる。よって、オンリーワンであっても、ナンバーワンではない。それが奴という男だ」

「……すごいんだかすごくないんだか……謎だな」

「謎として議論に上る存在であること。そこが一つのすごいことなんだよ」

 数多の冒険者に対して持つAの理解はちょっとすごいことになっている。


「あっ、次に来たあの男を見ろよ!あれがワンフィンガーウインドのノリコシだぜ!」

「いや、知らんなぁ」

「奴は両手の人差し指からのみ微風を起こすことが出来るんだ。スゴイだろ」

「いや、そのすごい能力でエミコのスカートをめくってパンツ見てんだけど」

「ふふっ、長旅ともなれば女人のスカートの下は蒸れて暑い。ああして暑さを取り除いて癒やす役目を行える」

「いや、癒やすどころか、エミコが荒れ狂ってぶん殴って吹っ飛んで……伸びだなこりゃ……」

「まぁ冒険するなら山越えとかで暑い思いをするからな。ヤツの能力は危険な冒険に癒やしの風を運ぶ。ああして仲間同士で戯れて癒やされる場作りも出来ていいだろ?」

「いや、ノリコシ半死状態になってるから」


 ノリコシがエミコを怒らせて間もなく、大きな音を立てて入り口ドアが開いた。その者は注目を集めるため、故意に強くドアを開け放ったようだった。冒険者たちもAもBも含めた全員が入り口に立つ男を見た。


「あっあれは!今最も熱い男、ペペペぺぺぺッペインターイソロク!」

 Aは声を荒げてその男の名を呼んだ。


 現在世の話題を呼ぶ男ペインターイソロクの登場を迎え、一同は活気づく。


「あれは俺だって知ってるぜ。あの忌々しい災害とまで言われたエターナルモシャリシャスの異常発生をビジネスチャンスに変え、ペンキ塗りから最強のインフルエンサーまで上り詰め、果てにはその人生をも自分色に塗り上げて伝説となった男。それがペインターイソロク。まさか奴が見れるとは、ここに来てよかったぜ」

 あのBまでもを唸らせる伝説の男の登場となった。


「ふふっ、ついに来たぜホメコヌス。勇者様の力になりたい猛者がこんなにいるとは、思わず俺も武者震いしちまうぜ」

 やっとたどり着いた目的地がここだ。ペインターイソロクは満足した顔で武者震いモードに入った。


「数多ある営業を片付けて到着が遅れた。だが、これでやっと俺も勇者様に力添えすることが出来る。勇者様、安心して下さい。このペインター、必ず勇者様を支える強き槍にでも刷毛にでもなってみせましょう」

 ここに到着するまでの苦難の道を振り返ったペインターイソロクは思わず涙しそうになった。だが、真に苦難の入り口となるのはここからだ。ペインターイソロクは心新たに人生を踏み出すのだった。


「す、すげぇ!こんなすげぇ連中を束ねるもっとすごい勇者がこの後には控えている。この冒険に同行して紀行文でも出せばベストセラー作家の仲間入り必至だぜ!これからはそっちの準備をしないとな!」

 Aは有名人がポンポン出てくることに大興奮していた。そして未来に希望を持った。


「お前色々大丈夫かよ」とBは心配するのだった。

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