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第五十三話 タコを持ったアイツはおかしくて愉快な同級生

 秋。夏の次に訪れる泡沫の季節。それが秋。

 とにかく暑い、逆にとにかく寒い。日本ではこのどちらかが占める時期が長いと思う。四季とは言ってもきっちり四等分だと体感しないものだ。

 秋はとりわけ短く、すぐ終わる。だからこそ愛しく思うものだ。


 そんな秋にはどういう訳か余計に腹が減る。我々人類は哺乳類の仲間であり、他の仲間達をみれば冬眠する者も多く見られる。今の人間は冬眠をしない。寒くても皆学校に行く。学校に行く子ども達の親は会社に行く。おまけの話をすると、一部は四季問わず冬眠と大差ない生活をしている者もいる。そうして地球は回っている。そんな地球の歴史のどこかになら、我々の祖先が冬眠をしていた時期もあっただろう。その名残から、冬前になれば本能的にたくさん食べてエネルギーを蓄えようとするのかもしれない。

 秋には腹が減るのだ。学校の帰り道にも、帰宅後の晩飯を待てずに何かを買い食いしがちになる。とりわけ、たこ焼きの香ばしい匂いなんかには引っ張られて仕方ないのである。


 一同は通学路の途中にあるたこ焼き屋の屋台の前にいる。


「ちょっとちょっと勇、アレは何かしら?」

 セピアは帰り道にも勇に同行し、そしてあれこれと興味あることを質問してくる。こうしてこちらの世界の情報を集めているのだ。おバカに見える部分が目立つこともしばしばあるが、彼女は確かな勉強家でもある。


「赤い謎の生物。足が8本もあって不気味。でもどこか愛嬌があるとも言える。これが世に言うキモかわいいってやつよね」

 セピアはたこ焼き屋の看板に描かれたタコのイラストを指さして評論を始めた。


「で、お店の中を見れば、あの生物とよく似た鉢巻おじんがいるじゃないの?これはどういうコンセプトで何を売るお店なのかしら?店主とあの生物は親戚かなにかなの?」

 セピアは看板のタコと鉄板の前の鉢巻のタコとを交互に指さして勇に問う。


「アホ!でかい声で言うな。聞こえるだろうが。いいか、あの赤いのはタコっていう海に住んでいる生物で、細かく種類分けすると軟体動物っていうやつに分類される。あのタコを細かく切り、小麦粉を水で溶いた衣に包んで焼いたのを美味しく食うんだよ。で、鉢巻をしたのはお店の人でどこもかしかも俺達と同じ人間だ」

 勇の説明は懇切丁寧だ。


「さすが勇者。文武両道、質実剛健ってのが勇者の心得よね。持ちわせた知識による説明も御手の物ね」

「これで褒められて誰が嬉しいんだよ」


「よし、じゃあ勇。ちょっくらアレを買って私とシェアしましょうよ」

「お前と何かをシェアするのを常とする人生はお断りだ」

「ふふっ、砂糖のように甘いフェイスから出る言葉が、それとは逆の塩対応なのね。シャレの聞いた言動も素敵ね勇!」

 バカを言いながらセピアは勇の脇を突いてくる。


「こいつぅ……ろくなもんじゃない女神なのに、図太さだけは下界の者には真似出来ないものがあるなぁ」

 ウザいのだった。


「じゃあ勇君、私とならシェアする?」

 みっちゃんが提案する。


「え?ああ、みっちゃんとか?う~ん、まぁ、どうしようかな」

「はっきりしないなぁ。だったら一世君としちゃうよ」

「あ、俺か?光栄だな~。でも今日は金持ってないんだ。たこ焼きはきっちりシェア出来るけど、お金の方は無理かなぁ~」

 一世の懐事情は厳しい。そして懐事情厳しき者とは、あれこれをシェアしたがらないのが乙女の事情だった。


 一同はたこ焼きを買うのか買わないのかで話し合う。

 そんな中、向こうの通りから大きな声で勇を呼ぶ者があった。


「お~い、勇、いさむぅ!間違いなくお前は勇じゃないか。探してたんだぜ、マイ探しもの勇~!」

「うるせぇなぁ。静かに近づけよ」

 離れた段階から既にうるさいのに、近づく間にもっとうるさくなる権之内の語りが聞けた。


「あ?なんだお前ら?たこ焼きを食うかどうかで相談してたのか?だったら解決!ほら、コイツで宴会にしようぜ!丁度勇の家に持っていく所だったんだ」

 

 権之内はビニル袋を持っている。とても磯臭い。袋の上部分から吸盤のついた足が覗いている。


「権之内!これはタコじゃねえか!」

「御名答!今日あがった活きが良すぎて困っちまうやつだ!ほら、お前んち行って焼いてやるよ。粉とダシくらいはあるだろ?」

「ああ、キャベツも青のりも紅生姜もソースもマヨネーズも全部ある」

 勇の家庭は食材の準備が良い。たこ焼き器は権之内がかつて勝手に持ち込んで置いて帰っていた。


「はっは!さすが神名家のキッチンだ!じゃあ台所くれよ、こいつをサックリ捌いてやるさ」 

「おい、台所は貸すだろう。豪快なやつだな。簡単にあげたりしないの」

「はっはっ、じゃあ今回は借りるだけにしとくか」


「うわぁ、なにコレ!うねうね動いてる。これを権之内が料理するの?」

「ああ、そうだ。女神の舌もビックリな美味いタコだぞ」

「にしてもお前、こんなに活きが良いのをビニル袋って……クーラーボックスとかなかったのか?」

「はは、ビニル袋に勝るもの無しってね。運ぶならこいつで十分」

「いやどこで聞いた格言だよ。ビニル袋より上ならいくらでもあるだろうが」

 権之内は考えていないと出ないような謎な言葉を、何も考えていない感じでスラスラ話す。勇は日々コレにツッコミを入れさせられることとなる。


「すごいなぁ。でかい!これだけあれば、たこ焼きワンパック分なんてものじゃない。たこ焼き何個分のタコになるか……」

 一世は早くもヨダレを垂らしている。

「丁度金がないところにゴンがナイスアシストだな!しかし、店の前でこんなのを持って誘いをかけるなんて営業妨害っぽいね」


 言われてみればそんな気もする。だから勇は先を急ぐことにした。今日は皆でたこ焼きパーティーに決定だ。


 家に向かう途中にも、この軍団はとにかくうるさい。よく喋る連中なのだ。

 勇もふと思ったことをみっちゃんに話してみる。


「なぁ、みっちゃん。思い出さないか?」

「え、何を?勇くんが私の家に泊まった時におねしょして泣いたこと?」

「だ~違うっての!それもう俺が成人するまで二度言わないでくれよ!」

「ふふっ、その後ならいいんだ」

「いや、よくないけど……この恥のことも大人になれば笑い話として受け止めれるようになる気がする。今は絶賛思い出すと恥ずかしい過去なの!てか、よくそれが急に出てきたもんだな」

「はっはっ、可愛い想い出だからね。で、改めて何が?」


 勇は、一世とふざけながら前を歩く権之内の背中を見る。そして彼が手に持つタコにも目線を落とす。


「あいつと初めて会った時のことだよ……」

 

 勇は、こんなに近い権之内の背中に遠い目を向けた。

 

 勇は思い出す。一世に次ぐおかしくて愉快な同級生との出会いを……。

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