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第五十一話 勇とみっちゃん

「あ~よく寝た!」と言ってもまだみっちゃんの右頬は枕に沈んだままだ。

「もう晩ごはんの時間も近いだろ」

「えっ、そうだね。すっかりそんな時間か……」

 みっちゃんは枕に頬を接地したまま、目線だけは勇に寄越すと笑顔を見せる。


「なんだよ、笑ったりして」

「ふふっ、おかしいなって思って。勇君の布団で寝たからか、勇君の夢を見た」

 この言葉を受けて勇の胸はドキンと強めの音を打つ。


「へぇ、俺の布団効果かな?」

「うん、そうかも。勇君の匂いがするもん」

 みっちゃんは枕を抱くようにして、顔全体を埋める。


「やっ、やめろって!」

 こういうことをされると嬉し恥ずかしい。そして居たたまれなくなる。なので勇はみっちゃんの肩を掴んで早く起きるよう指示する。


「はっはは!良いもんだ、幼馴染のベッド!」

「なんだよ、寝起きのおかしなテンションかよ」

 みっちゃんはベッドに座る。そしてベッドをポンポンと叩く。

「立ってないで座りなよ」

「俺の部屋だぞ。なんで偉そうなんだ」

「まぁまぁそう言わず。私達の仲じゃんか」

 みっちゃんは妙なテンションで笑う。だから勇はちょっと怯んだりもする。

 二人切りの空間は珍しいことではないが、なぜか今はちょっと緊張する。そんな自分の反応に戸惑ってしまう勇だった。


 みっちゃんは笑うのを止める。

「久しぶりに話をしよう。二人で」

「ああ、まぁ……」

「最近は二人だけってこと無かったでしょ。色々日常が賑やかになったもんね」

「確かに」

 勇はベッドに座る動作に入る。

 自分のベッドなのに、今はもう一人使っている者がいて、それが同級生の女子で幼馴染。その条件が勇の違和感ある行動を招く。


「なんでそんなに遠いのさ~」

「え、そうか?」


 意識していない感じを出すも、本当は意識して距離をとってしまった。勇の慎重、またはちょっと臆病な所が出てしまう。


「まぁなんだ、二人切りだから……あんまり近づきすぎは良くないっていうか」

「なんだよ、はっきりしないな」

 みっちゃんはグイグイ迫る。

「はっきりしないでいいんだよこういうのは」


 みっちゃんはクスリと笑うと提案する。

「でもその距離は不自然。話をするんだよ。距離感は大事。じゃあ、お尻一つ分開けて、近くにどうぞ」

 みっちゃんは再びベッドをポンポンと叩く。


「じゃあ……」

 勇はまた尻を浮かせて移動に入る。


「えっと……あれ、一つ分ってのはみっちゃんの尻か?俺のか?」

「もう!男のも女のもそんなに変わんないだろ!テキトーでいいんだよ、こだわるなよ!真面目かよっ!」

 勇の意外性ある真面目なところが出たのが面白かったみっちゃんは、ノリよくツッコミ、勇の横っ腹を軽く叩く。笑顔を乗せてのアクションだった。


 緊張しない丁度いい感じの距離を取って二人がベッドに並んで座った。


「勇君に初めてバレンタインのチョコをあげた時のこと、夢に見た」

「ええ!」

 急にそんなことを言うので勇は驚いた。


「そういやパリの実食べたな~。チョコの匂いするし、カスも机に転がってる」

「ああ、みっちゃんが起きないからさ。時間を待つために、そんなに腹も減ってないけど食べたんだ」

「へぇ、うら若き乙女をおかずにデザートと洒落込んだってわけ。いい趣味ね」

「やめろい!どっちもデザートだろが!……え?」

「えっ?」

 

 どっちもが「?」な顔になった。そして二人してなぜか恥ずかしくなる。

 シャレのつもりで言った今のは失言のような気もすると勇は後悔した。


「いや……なんていうか、おかずよりもランクを上にしてあげようかと思ってデザートな。みっちゃんもそっちのが嬉しいだろ?」

「うん……まぁ……」

「ああ、みっちゃんも食べろよ。まだ買ってるんだよ」

 勇は一回机まで歩くと、追加のチョコ菓子を持って来た。


「ふむふむ……美味しいなぁ」

 みっちゃんはチョコが大好きなので、晩飯前でもペロリと食べてしまう。


「で、最近どんな感じ?」

「なにが?唐突に何を聞きたいんだ」

「勇君、コミュニケーションだよ。切り口は何でもいい。ただ話すことに意味がある」

「そうか。だったらまぁ……なんか周りが騒がしくなって、うるさくなって、面倒い……」

「でも楽しくもあるよね」

「そうかもな」

「……女神に鼻の下伸ばすなよ」

 みっちゃんはあえてボソッと呟いた。


「ないっての!それはないから!だからもう二度とフォーク投げてくるなよ」

 

 みっちゃんは先日自分の投げたフォークが開けた窓ガラスの穴を見る。


「はっは!投げた物はフォークだったけど、球種で言うとストレートだったと」

「冗談言うなや。まじでビックリしたわ」


 笑って少しだけ無言の間を待つと、みっちゃんが口を開く。


「楽しいよね……」

「え?」

 勇はみっちゃんの横顔を見た。


「こうして二人で話すと楽しいよ、私は」

「……うん」

 勇は答える言葉が他に見つからない。


 みっちゃんはいつも分からない女だと思える点が少なくないが、今日はそれがもっと多めだった。


「勇者に選ばれたけど、どうするの?」

「行かないって言ったろ」

「絶対に?」

「ああ、俺には関係のないことだってば」

「ゴラちゃんもセピアも勇君じゃないとダメだって言ってるよ」

「みっちゃんは……俺が行くのがダメってことはないのかよ」

「……」

 今度はみっちゃんが返答に時間をかける番だ。


「ふ~ん、不思議な会話の流れなったなぁ。その答えはどうしたものか……どういう意味の問いだろうか、返答は慎重な方が良い気がするぞ」

「やめろ。心の声をわざわざ口にするな。あ~もう、恥ずかしい!」

「はっは~」


 みっちゃんは楽しそうだ。勇もそうだ。

 二人だけの心地良く、優しい時間が流れて行く。


 この二人の間でしか生まれない特別な空間と時間がある。会話の中で、二人は互いにそれを実感していた。そしてそれが大切なことだと思った。

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