第五十話 夢の中でも外でもないどこかにいる奴ら
フラッシュコブラシティの端っこに狭い空き地がある。
こんなところに集まる連中は暇な奴らと相場が決まっている。本日はどんな暇な面々が集まって無為な時間を過ごしているのか見てみよう。
近くの工場から運ばれたものなのか、どういった経緯でいつからそこにあるのか謎な白い土管がドカンと真ん中に置かれただけで、その他に空き地を飾るものは無い。土管の上に腰掛けているのは三人の男子だった。
三人共既にお馴染みの顔といったところだろう。土管の向かって左側に一世、真ん中にゴライアス、右側に権之内が座っている。
ゴライアスは自分の胸の前あたりに、携帯端末くらいにサイズを絞って四角い異次元ゲートを開いた。ここにはテレビのように見たい場所の映像を映すことが可能だ。彼が業務用に用いるアイテムで覗く景色とは、勇者に関するものなはず。そこに映っていたのは勇の部屋だった。
勇の部屋の布団ではみっちゃんが寝ていて、勇は今自室に帰ってきたところだった。
男子三人で、勇のちょっと怪しげな動向を見守っている。
「勇、いさむぅ、どうすんだお前!」
権之内はなにやら興奮気味に唸っている。
「あ、みっちゃんが起きた!勇ってば、何か仕掛けるならチャンスだったんじゃないのか?」
一世も勇のこととなるとやや興奮気味だった。
「むむぅ……ところでさぁ、この二人って一体どういう関係なんだい?」
ゴライアスは皆が気になるところを質問してみる。
一世と権之内は顔を見合わせる。なにか確認しあっているようだ。
権之内が口を開く。
「ずっと一緒に育ってきた幼馴染で、お隣さん同士の仲だ」
「いや、それは調査済み。それ以上の情報は?」
「ゴライアス、そう焦るな」
そう言うと一世はゴライアスの肩に手を置く。
「焦るな。あの二人のびみょ~な関係についてはな、周りが簡単にタッチしてはいけないってのが、勇を知る人々にとっては暗黙の了解になっている。勇はその話題には敏感に反応し、それでいて寡黙で通す。これがどういうことか分かるか?」
「いいや、よく分からないなぁ」
「だろ?俺もだ」
「ちょっと一世、だったらその話はどこにどう落ち着くんだよ」
「俺もそれを探している」
「君ってばやっぱり変だね」
「まぁそう言うな。思春期の男女がかなりお近づきになっての話題だ。どう決着を付けるのかは難しいんだ。常識人で通っているこの俺の返答が変になるのも分かれ」
「君を常識人だと思っている人はそういないよ」
一世は結局何も語ることがない。そしてゴライアスの物言いが何気に酷い。
「勇にとってみっちゃんは特別なんだ……と思う」
権之内は落ち着いた表情でそう言うのだった。
「僕が初めて勇を訪ねた時も二人はこの部屋で一緒だったんだ。変わった関係だよね」
「うむ、ありふれた関係の外ではあるのだと思う。俺が言えるのはココまでだな。俺が勇と会ったのは中学の頃からだ。それよりずっと前から二人は一緒だから、それ以前のことも含めたことは分からん」
「こんな覗きのような、というかまんま覗きをやるのは良い趣味ではないが気になることではある。ゴライアス、続きを見れば何か分かるのではないか?」
一世は画面を指さす。
みっちゃんは目を覚まし、勇と何かを話しているようだ。
ここで映像が乱れ始める。黒い線がいくつも入るようになり、次には砂嵐のような映像になる。これでは何も見えない。
「おいどうした!ゴライアス、横を殴ってみろよ。直るかもしれないぜ」
昭和家電の臨時メンテ方法を勧める権之内だった。
「違う違う。これは……そういうことか。いいか、これは覗きをしまくるスケベアイテムではない。個人のプライバシー、またはよりパーソナルな事情にツッコんだ映像、音声であると判断された内容は映せないことになっているんだ。他人が見れるのはココまでってこと、それが上からのジャッジだ」
「はぁ?なんだって?日常会話にここぞとばかりに横文字をぶっ込むのは止せやい。何を言ってるのか分かんなくなるだろ!」
「権之内、君は仮にも帰国子女だろ?横文字の本場で勉強したんじゃないのか?」
「日本語とミックスして喋られると混乱するんだよ!」
「お~い!皆何してるの?」
頭上から声がするので三人が顔を上げると、困った女神様が舞い降りて来た。
しかも片手に大根、もう片手には人参を持っている。スーパーに並べる時などにはカットする葉の部分も丸々残っている。
「男ばっかりで集まって何してるんだよぉ」
女神はものすごく気安く声をかけてきた。
「男ばっかりが集まって出来る楽しいことに決まっているだろ。君こそなんだ、そんなアイテムを持って空の散歩とは変わってるね」
「ああこれ?ゴライアス、聞いてよ。この白き大地の恵と赤き大地の恵、それぞれがあの憎きエターナルモシャリシャスの仲間なんだって」
「ああ、こっちの世界ではトウモロコシね」
「そうそう、トゥモローコロシ。で、それと近い物らしいから、コレを持って帰って研究すれば何かとっても良いことが起きるんじゃない?」
「知らないよ。どうしたのそれ?」
「畑でコレを引っこ抜いているおじんがいたんだけど、腰を痛めて作業が出来ないって困っていたの。そこで、この徳高き女神がサポートしてあげたわけ。屈強な足腰を持つのは女神として必須要素だからね。もうホイホイ引っこ抜いたわよ。その御礼にどうぞと言って献上してくれたわ」
「前から思っていたけど……君ってば女神に向いていないんじゃない?」
「へぇ、女神様って足腰が強くないといけないんだ」
所詮駄女神が言うことを真に受ける一世だった。
「にしてもコイツは良い大根と人参だな。どっちもおでんにぶっ込むと良いぞ!」
権之内は女神の取得物の品定めをしていた。




