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第五話 答えはNO!

 神名勇は、自分に差し出された手に目線を落とした。細く白い五本の指は全て自分に向けられている。その手は勇の手を求めていた。しかし勇の答えはこうだった。


「嫌だ」

「え……」と言ったきりゴライアスの口はポカンと開いたままになる。


「嫌だ」

「ん~と……勇者よ、我が手を」

「嫌だ!」

「今の話、聞いてたよね。それでNO?」

「ああ、その上で嫌だと言っている」

 勇の答えは、はっきりとしたものだった。


「神の名の下に選ばれし勇ましき者、神名勇の名が勇者であることを表しているではないか。そんな男が勇者として冒険に出ずしてどうする?物語が始まらないじゃないか」

「知るか。それはお前の物語だろう。俺の物語はそんな訳の分からない世界ではなく、ここで展開するんだよ」そう言って勇は床を指差した。


 出鼻を挫かれた。全く予想しなかった展開を前に、ゴライアスは当惑の色を見せる。


「君が来ないとトウモロコシの大群はどうなると言うんだ。いいから来たまえよ」

「うるさいな!何を言ってるんだこの壁男は」

「ふむふむ、ああそうか。魔王の軍勢とトウモロコシに恐れを抱くこともあるよな。大丈夫だ。いいか、君は我々の世界にある最強最高の勇者レーダーで選ばれているんだ。君という男が向こうの世界で持つ力は、君たちの世界で言うところのチートに値する。ファンタジー世界のRPGでちまちまレベル上げをやるようなことなんて一切ないんだよ。それに君、勇者を支援する組織として我々がバックについているのだから、それはもう安心してゲートをくぐってくれたらいいんだよ」

 そう言うとゴライアスは、顔だけを覗かせていたゲートに顔を引っ込め、やや横にずれて「どうぞこちらへ」とでも言わんばかりに両手でゲートの奥を指差した。


「あのなぁ、そんな怪しいゲートを誰が……」

「おお!そうかそうか!君には地球での生活があるものな。その点だって我々はすべて考慮しているのだよ。だって他所の世界から人様を呼ぶんだから。安心したまえ。君が向こうに行って100年経っても、こっちでは1秒たりとも経っていないってな感じで時間のことは保証できるんだ!」

「いやだからなぁ……」

「ああ!他にも最初から武器も最強、レベルも最強、金もあれば頼れる旅のパーティーメンバーも用意しているし、なにより君が男を磨く面倒無くな~んもしない間から女子にモッテモテのハーレムになるっていうまるでバグのように都合の良い展開も用意できているんだ。それくらい君には勇者の素質があるんだよ。あとは安心してこっちに来て、サクッと魔王とトウモロコシ滅ぼしてくれたら問題ないから」

「だ~~!いい加減にしろ!だから行かねぇって言ってんだろうが!とっとと帰れ、この異常者!」叫ぶと勇は再び木刀を強く握って振り上げた。


「うぁ、危ない!」


 危険を感じたゴライアスは瞬時に逆側の壁に移動した。今度は勇の背中側の壁からゴライアスの顔が覗く。


 勇は棚の上に置かれた殺虫スプレーに手を伸ばした。細く伸びたノズルの先はゴライアスに向いている。 


「プシュー」と音がすると、ゴライアスの顔は白い蒸気に消えた。


「ゴホゴホ!うわぁ!なんだこれは!」


 スプレーを顔面にもろに食らってゴライアスは咳き込み喚いた。大量噴射によって出来た霧が晴れた時、ゴライアスの顔はもう壁にはなかった。


「ふぅ、とんだ闖入者がいたもんだぜ。この木刀は今度権之内に持って帰ってもらわないとな」


 一仕事終えた勇が振り向くと、そこには笑顔で彼を見る我らがヒロインみっちゃんの姿があった。


「で、勇君。さっき隠した本、あれは何?」

「え……今それ必要なこと?」

「うん、必要」

「……」


 僅かな沈黙が勇にはえらく長く思えたのであった。

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