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第四十七話 妹であることだけでフルウェポン状態

 犬を見れば可愛い、猫を見れば可愛い、猿を見ても、鳥を見ても、大体何を見れば人が「可愛い」と言うのかは想像するのに難しくないことだ。


 ではここで新たに問おう。妹とは、果たして可愛いのかどうか。


 人類を代表してこの私が答えを言おう。しっかり可愛い。


 そう、妹は可愛いのだ。


 一流大学で一流テキストを用い、一流の教授から学んだ一流の学生だろうと、妹がいない者なら一生その真意の理解に辿り着くことは出来ない。それが妹の持つ可愛さだ。妹がいるならそれだけである意味勝ち組なのだ。


 私にもあたなにも、そしてその他有象無象の中にも、妹を持つ者が多くいるだろう。その例に漏れず妹を持つ者がここにも一人いる。我らが主人公にして異世界勇者の神名勇じんみょういさむがそうだ。


 勇には結華という名の「豪快」を具現化したようなとんでもない妹がいる。この妹もまた、兄のフィルターを通せばしっかり可愛いのだ。そう、結華は可愛いのだ。それだけ理解しておけば大丈夫だ。


 まず自分が母より産まれ、しばしの遅れを取って自分よりも幼く、か弱き女の命が産まれる。それが妹だ。

 それを暖かく見守り、大事に育てる。それが兄の務めだ。これが出来ない以上、戸籍上でどんな扱いであれ、真に兄と呼ぶには足らない情けない存在として、妹愛好家から侮蔑の念を飛ばされることになる。  

 兄としての勇には、他人から侮蔑される要素はない。彼は妹を可愛がる良き兄、良き人間だ。


 勇は義務教育突入時から高校三年生になった本日まで使い続けている自室の机に肘を突いていた。そして部屋の真ん中に置いてある卓袱台に目を向ける。そこには権之内と結華の姿があった。

 結華は学校の英語のテキストを開き、権之内がそれを教えている。

 え!権之内が他人様に学問を教えている?と初見の方なら意外に思うだろう。彼は確かにおバカだが、英語が達者なのだ。


「で、だな妹よ。ここがこうなって、ゆえに最後はこのようなオチになる!」

 アホっぽい説明だが、彼には英語を常用していた過去がたっぷりあるからして、しっかり正解を言い当てていたのだ。


「へぇ、権之内ってやっぱり英語だけは出来るんだね」

「いいや、あとはしりとりとか鉄棒がめっちゃ強いぜ」


 しりとりはともかく、鉄棒が強いってどういうことだよと思うだけで口には出さない勇だった。


「これで帰国子女っていうんだから信じらんないよね」

「ははっ、よく言われる」


「へぇ、権之内って帰国子女だったのか。それは初耳だな。君はなんでまた外国暮らしをすることになったんだい?」

 どこからともなく部屋に入り込んだゴライアスが尋ねた。玄関から入るのが面倒なので、異次元ゲートを開いてここにやって来たのだ。


「お前、また登場が急だな」

 昨今ではゴライアスもセピアも急にやって来るようになった。非日常も数日続くと日常として慣れてしまう。勇は自分が異世界野郎共に順応しつつあることに今一度戸惑いを覚えるのだった。 


「俺は小学校時代はアメリカにいて、中学からは日本に帰って来たんだ。親の確固たる教育方針ってのに基づいてそうなったんだよ」

「へぇ、君のような破天荒な人物の親が持つ偉大なる教育方針ってのは一体どんなもので?」

「そう難しいことじゃないさ。中学で英語の授業があるだろ?で、俺は居眠りしているところを、教師に起こされ、問題を解いてみろといきなり当てられるだろ?そんな時、アメリカで日常的に英語を使っていた俺は、授業を聞きもしないのにサクッ正解を答えてしまう。居眠りしてるくせに問題はすぐに答えるし、テストの成績が優秀。その感じが格好良いと思った親は、それがしっかり実現できるよう、英語の本場で俺を鍛えた」

「あれ?簡単なようでいて、聞くと二転三転してよく分からない難しい教育方針なのかもしれない」

 ゴライアスは親子揃って謎の人物のようだと混乱した。


「はっは~、お陰さまで、親の狙い通り、居眠りしていても英語のテストはクリア出来るんだよねコレが」


「そうそう、そんな訳で権之内は、英語としりとりと鉄棒だけは達者なんだ」

「おい勇、他にもあるっての。ゲームの『ペトリス』とか『ハイウェイウォーカー』とかもめっちゃ強いぞ」

 こんな感じで権之内貴一という男に出来ることは多数ある。


「ところで、なんで俺の部屋で結華の勉強をするんだ?」

「はぁ?お兄ちゃんの部屋でやるのがいいんじゃん」

「え、そんなもの?」

「そうなの!だったらお兄ちゃんは、権之内と二人きりで私の部屋でやれっていうの?こんなのと二人だったら何されるか分かったものじゃないって心配はないの?」

「いや、まぁ、それはまぁ……どうだろう」

 こんなことを言われると兄は困ってしまう。


「はっは~、確かになぁ、この俺が何をしでかすのか、自分でも未来が見えないぜ」

 権之内は可能性の塊過ぎるから、その可能性がどのような未来へと分岐するのかは、自分でも他人でも予測出来ないのだ。


 結華は兄の部屋の雰囲気が好きだった。ここにはよく遊びに来る。というか兄自体のことが好きだった。兄から得られるものは安らぎに他ならない。それは、勇が真に兄として日々振る舞うからこそ勝ち得た信頼だった。


「結華ちゃんは勇と同じ学校を目指すのかい?」

「うん」

「そうか、でも惜しいなぁ。せっかく入学した時には勇はいなくなった後だもんな。おまけにこの僕と登校する楽しみも無くなってしまう。だからと言って目指す気持ちを弱めることはしてはいけない。未来は明るいだけだ」

「別にゴライアスと一緒に登校することなんてどうでもいいし。それに異世界野郎になんか説教めいたこと言われたくないんだけど」

「ははっ、さすが勇の妹。物言いにおいて、歯に衣着せるって術を知らないや」


 妹が高校に上がる時期になると思えば、勇は時が過ぎゆくことを実感するのだった。自分の成長だけでなく、他人の成長をも見ることも、時間の経過を知る一つの指標となる。


「でも、お兄ちゃんとは一緒に通ってみたかったってちょっと思うけどね」

 結華はちょっと頬を赤くして言う。


「ははっ、勇、妹のリクエストに答えるためには、俺達揃って留年を決めるしかないな!」

「権之内は残らなくて良いのよ。私に英語だけ教えたら、さっさとどこへでも卒業すればいいんじゃない」 


 勇はこうして妹や友人達が他愛もない話で盛り上がるのを見るのが嫌いではなかった。


「でも、お前が無事に異世界に帰ってくれる道はなんとか見つけないとな」


 ゴライアスのことにはやはり違和感を抱く勇だった。

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