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第四十六話 女神の家庭訪問

「お~い!勇、いさむ、いっさむ~!」

 いつも通り、一世は訪問の合図を庭から二階の勇の部屋に向かって飛ばす。とってもうるさい。

 うるさい声を受け、勇は力強く窓を開けると、これまた力強く言葉を返す。

「うっせぇ!」

「ははっ、いたいた。女神様、あそこが勇の住む部屋なんだ」

 一世の隣を見れば、女神セピアの姿があった。


「お前なぁ、もう4桁に届くくらいには言ってるぞ。来たなら玄関のピンポンを押せっての。それからご近所さんの優しさに甘えるなよ。毎度毎度お前がうるさいのを優しくスルーしてくださっていることを忘れるな。ここだから許されるが、もっと荒んだ都会でそんなことしてると、ご近所さんからタコ殴りだからな!」

「はっは、どこのイカれたバイオレンスシティの話をしてるのさ~。それより、女神様を連れてきたぞ~

「勇~。降りてらっしゃいよ」

 女神は手を振っている。

「ふざけたヤツだなぁ。なんで俺が降りんだよ。来たんならお前が上がってこい!」


 次の瞬間、女神は空を飛んで勇の窓の前にいた。

「うわぁ!速っ!」

「来てあげたわよ勇」

 女神は二階窓から侵入してきた。


「ここが勇の部屋。勇者本拠地ね」

「ねぇよそんな肩書」

「ふふっ、勇者が一体どんな所でどんな暮らしをしているのか、それも調査しなきゃね」

 女神は図々しく部屋に上がり込むと、部屋のあちこちを見て回る。


「で、ここに秘密のアイテムがあると」

 女神はベッドの下を覗いた。

「おい、やめろ。何してんだお前は」

「ははっ、女神様、そんなの無駄無駄。そこにはもう何もありゃしないっての」

 

 セピアは一世を見て言う。

「じゃあどこに?」

「あったのはあったけどね……ねぇ?」

 一世は勇を見る。

「うん、そうだな。みっちゃんに処分されたもんな」


 その昔、といってもちょっと前、男子が喜ぶその手のムフフなお宝が部屋にあった。しかし、みっちゃんに見つかって処分されてしまった。ちなみに持ち込んだのは権之内である。


「なるほど、なるほど。ここには色々ワケがあって来たのだけど、まずはそんな残念なボーイズのために、お姉さんが素晴らしい土産を置いて行こう」


 ゴライアス同様、セピアもまた異次元に通ずる謎のゲートを操る。円形の小さな異次元空間を開き、そこに手を突っ込んで、また手を抜くと、手には綺麗な本が握られていた。


「はいコレ、多感な青春のお供にどうぞ」

 勇はそれを受け取る。

「ん?なんだ?異世界美少女100選……」

「何ぃ!異世界美少女!しかも100選!」

 勇が読み上げた素敵なタイトルを聞いて、異世界も美少女も好物な一世が派手に反応した。

 

 一世は勇から本を奪うとさっそくページを繰る。

「ああ!女神様も載ってる!スゲェ!」

 一世は本に写るものと、目の前にいるものとを見比べる。


「確かに確かに。女神様はやっぱり女神様って言うくらいだから、女神的な美を宿している。性格はちょっとキツイけど、なんだかんだで綺麗だなぁ」

「一世……あなた、とっても正直なのね」

「ははっ、そうであれってのが両親の願いなもんで!」

 一世は本に夢中だ。

 女神セピアには、品性に欠ける点が大いに見られるが、顔とスタイルだけはまともだった。これで見た目も駄目なら困るよね。


「うわぁスゲェ!ハーピーに人魚!おっぱいがすげぇエルフもいるぞ!耳の尖り具合も最高ッ!これは一度指でつついてみたい!」

 一世の持つ予てからの願望とは、エルフの尖った耳をツンツンすることだったのだ。

 

「ふふっ、勇」

「なんだよ?」

 セピアは勇に擦り寄る。


「異世界に来れば、美少女100選だって全部あなたの手中に収めることが出来るわ。なにせあなたには神だってビビるチート並の、でもしっかり合法の範囲のとんでもないパワーがあるのだもの。異世界に行けば、なんでも勇者の力で思い通りよ。それはこの私にも言えること」

「……」

 胸が当たるくらい、セピアは勇に寄る。


「さぁどうだ勇。選ばれし勇者といえども、中身は選ぶことなく男であれば皆が持つスケベ心で一杯なはず。仮にも男子なら、あなたはきっと私の色仕掛けの誘惑に抗えない」

「だが、抗う!」

 勇はセピアを押しのける。


「お前なぁ、ピンクの誘惑をするつもりが、黒い本音が全部漏れてて色々台無しになってるぞ」

「はっ、私としたことが!溢れんばかりの策略が脳内を巡るのものだから、それが口から溢れてしまったみたい」

「おい、女神ってのはどんな構造になってんだ」


「まぁまぁ、黒いこともピンクなことも無しに、サクッと私と一緒に異世界冒険に行きましょうよ。きっと、絶対に楽しいから。勇も異世界美少女の良さを知った方がお得よ」

「いいや、俺はそんなのいいから。間に合ってるから!」

 セピアは勇の腕を取って強引に説得に出る。策略も何もあったものではない。


「離れんか!異世界女なんてどうだっていいんだよ!」

「なんですって!この私も含めてのことなの?」

「うん」

「まぁ!これは一大事!この私レベルに何も反応しないというなら、それは勇者どうこうの前に、男子としての諸々の機能が万全ではないのじゃないかしら。これは更になんとかしてあげなくては!女神的に、スパークすることを忘れた男子の体の記憶を復活させてあげなくては!」

「いや、覚えてるわ!」

 

 「女」の「神」と書いて女神を名乗る以上、女の神秘を見せつけなければ、それを持ってして男に神がった女の良さを教えてやらなければ。そういった謎の使命に燃えるセピアだった。


 二人が揉めるのをよそに、一世は勇のベッドの上に寝転がって美少女図鑑を読み耽っている。とても楽しそうだ。


 そんな感じで騒がしくも平和だった勇の部屋の雰囲気を一変させる出来事が起きる。

 一瞬のことだ。部屋の窓ガラスを抜け、外部から銀色の閃光が走っった。それは窓際にいた勇とセピア、ベッドの上の一世を通り抜けて部屋の扉に直撃した。


「……」

 それまで言い合いをしていた勇とセピアが黙る。

 

 狙撃か?何事か?

 二人に緊張が走った。


 部屋の扉を見ると、銀色のフォークが刺さっている。静止したフォークがそれまでどういう軌道を辿ったのか、勇は目で追ってみることにした。

 閉じた自室窓ガラスを貫通してフォークはやって来た。ガラスが割れている。

 窓のもっと向こうの世界に目を向けると、また窓があり、それも割れている。二枚の窓ガラスを貫通してあそこに刺さったようだ。もうひとつの窓とは、お隣さんに住む幼馴染の部屋についているものだった。

 お隣さんの部屋の窓の向こうを見ると、みっちゃんがこちらを見ているのが分かる。

 彼女が手に持つ皿には、3分の1程残ったショートケーキが乗っていた。食べている最中にこちらに気づき、攻撃してきたのだ。


「……そっちの窓は、開ければ良かったのでは……」

 勇は素直に思ったことを口にした。


「ごめんなさい。なんか、虫が飛んでいた……ような気がして、持っていたフォークで退治しようとしたら、ちょっと力入りすぎちゃった」

 窓越しにみっちゃんは説明し始めた。笑顔だった。


 それを受け、勇の心臓は強く音を打った。怖かったのだ。


「あ~、やっぱり異世界ハーレムってすげぇな!異世界好きの永遠の憧れだわ~」

 一世は何も気づかず、ずっと異世界美少女を楽しんでいた。

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