第四十三話 平和なだけな俺達の宴
「うまい!うまいぞぉ~!これが噂のプァンケェーキか!」
ゴライアスは思わず巻き舌で発音してしまう程に、初めて食べた噂のパンケーキの美味さに感動していた。
「みっちゃんの部屋に転がっていた雑誌に載っていた。飾り気が無く、それでいて丸みを帯びた愛らしき見た目に魅入るものがある謎の製菓、それがプァンケェーキ!」
ゴライアスのウザい食レポはなおも続く。
「未知との遭遇に舌が震え上がっている。いや、遭遇してものを知ったからには、既知との逢瀬になったわけなのか。これは、僕の舌とすこぶる相性が良い。長老達に持って帰ったら、カルチャーショックの電撃にひっくり返ること間違い無しだ!」
「シロップをかけるともっと美味しいよ」そう言ってみっちゃんは甘くて美味しい透明の蜜を勧める。
「面妖なとろとろ汁がある。これをかけて今一度食ってみよう!」
面妖なとろとろ汁、もといシロップをドバドバとぶっかけた後、ゴライアスは二口目を食した。
「マァァァベラァス!覚えたての米国言葉が飛び出る!」
米国のことも最近は勉強中のゴライアスだった。
「うむうむ、美味なり!ふっくらさっぱりな食感が、このトロトロ汁を滲み込ませ過ぎたことにより、しっとりぬるぬるべちゃべちゃになって舌触りが新たになった!」
とてもリアルな内容のリポートなのだろうが、なんだか汚い。
「ていうか甘~い!いやぁ、僕は甘いものを食べる習慣がないというか、天界の食事にこういった甘々な味付けの物は少ないから新鮮だ!」
「こっちのホイップクリームも一緒に食べると、きっとすごい感動があると思うよ」
みっちゃんはニコニコして白く泡立つクリームを指差した。
「なんだこれは?白くモコモコした謎なる何か。見た目では一体何をどうしてこんなものが産まれたのか、どんな味なのか、何も予想出来ない」
クリームを初めて見た生物の反応はこんな感じらしい。
「ぬぬっ!うまぁああい!」
「うるせぇ!!!」
ゴライアスは再び美味さから来る雄叫びを上げる。それがやっぱりうるさいので勇が突っ込んだ。
「パンケーキごときで感動死にする気かお前は」
そんな風に乱暴にパンケーキを語るが、勇はパンケーキが大好きだった。既に食い終わった後である。
「だいたい何をお前はしれっとメンバーに加わってんだよ。7人もいて狭いんだよ」
女神空間から一同が帰って来た後、女子達は一悶着を終えて小腹が空いたので、メニューの追加注文を行った。それらのメニューが珍しくて仕方ないゴライアスは、後学のためにも食って行くことにしたのだ。
一世と権之内も一度は帰ろうとしたが、なんだかんだと楽しく喋って過ごしている。
「それより勇者、あなたやっぱりスゴイのね、逞しいのね。女神的にポイントが高いわ」
勇の力を思い知ってからの女神は、勇に取り入るがごとく態度を変えた。
「おい離れろ。お前の狂気的キャラ性は忘れないからな」
擦り寄る危険人物の女神を引き剥がす勇だった。
みっちゃんは思わぬ戦いに出てカロリーを大量に消費したため、その補充のために抹茶パフェを食べていた。
隣に座る結華は、それを羨ましそうに見ている。
「ん?結華ちゃん、欲しいの?そういや抹茶スイーツ好きだったよね」
「別に、そんなのじゃ……」
結華は頬を赤らめて否定するが、欲しがっているようにしか思えない。
「はい、あ~ん」
みっちゃんがスプーンを寄越す。
先程まで敵対していた女からの施しだが、スイーツ好きの乙女の衝動を抑えることはなかなかに難しい。そんな訳で結華はスプーンを口に迎え入れるのだった。
「美味しい?」
「うん……」
「はい、じゃあおかわりね」
「うん……」
結華は二口目も食べる。もう食べたい衝動にかけるブレーキはない。
食いつきが良い結華の顔を見ると、食べるのに夢中でクリームを頬につけてしまっていることが分かる。
「もう、結華ちゃん、ついてるよ」
みっちゃんはお手拭きを手にすると、笑顔で頬を拭いてあげた。
「ありがと、みっちゃ……お姉ちゃん」
これまで粗暴な一面が目立った結華に見る態度と言葉とは思えない。結華がすっかり大人しくなってしまった。
「どうゆうこと?小娘達は敵対関係じゃなかったの?」
セピアは不思議に思って尋ねる。
「ふふっ、女神様、人間の、特に女同士の付き合いは色々複雑なんだ」
一世が口出しする。
「二人は元々仲良し。みっちゃんは結華ちゃんを可愛がり、結華ちゃんも可愛がられるままに愛を享受する。そんな平和な女子同士の関係がベースにある。だがしかし!」
「だがしかし?なんなの?」
「勇が絡むとああなる。お兄ちゃんのことが好きな妹がいて、そんなお兄ちゃんと仲の良い幼馴染の女子がいる。妹はお兄ちゃんと仲良しな同級生が相手となると、色々と複雑な想いを抱くものだ。そうして拗れた想いが、みっちゃんに対してたまに発動するあの粗野で粗暴な感じのモードってわけ。まぁこれに関しては、とにかく色々あるから起きる不思議現象としてまとめるしかない」
「へぇ、小娘の社会も複雑なのね」
「君がたまに豹変しておかしいことになるのも、複雑にして愉快な心境からじゃないのかな?」ホイップクリームを頬につけながらゴライアスが呑気に突っ込んだ。
「甘いものや軽いものもいいけど、ここらで一つガツンと牛丼かカツ丼でも行きたいな。なぁ勇?」
権之内はお店自慢のサンドイッチを豪快に食いあげた後だった。
「いや、もう帰ろう……しかし、牛丼は良いかもなぁ……」
うるさい連中を前に疲れた勇の腹は、肉を求めいたのだった。




