第三十八話 天上より降り注ぐ黒きプライド
開幕の狼煙が上がったのと同時に、戦士三名はそれぞれ異なる場所に転送された。広いようでそうでもないこの荒廃した街が戦いの舞台となる。
確かに次元を越えて先程とは違う場所に飛ばされたようだ。先程立っていた場所とは土の固さが違う。だが、相変わらず死んだような風景が見えることに変わりないため、結華にとって人生初の転送の実感は薄いものとなった。
いきなりの本編登場となり、これまたいきなり日常離れしたおかしな展開に入って行くのにも柔軟に対応してみせた結華だが、実は色々と思うことがあった。
まずはゆるりと自分のキャラ性を掘り下げるよりも前に、他所の世界からやって来た女神がでしゃばって話の流れを作ったこと、結華はそれに憤りを感じていた。
「この私と同時にあんなゲテモノが出てきたら、情報がごちゃ混ぜになるし、下手をすれば女神の印象が残るばかりで私が空気になるじゃない。キャラは一人ずつが目立つように小出しにするのが定石なのに、私の登場ときたら随分と雑だった。このままでは終われない。頭のおかしい女神も、あの女もここで蹴落とす!」
生き残ること。それを念頭に置いた状態の乙女はとにかく強く、怖い。強き想いは、当然にして強い力を産む。現在結華は溢れんばかりの大いなるパワーに満ち溢れている。
結華が想いを力へと変換する作業を終えた頃、数十メートル先から大きな音がした。
遠くても物がデカいから良く見える。元々崩れかけていたビルが、大きな音と共に派手に倒壊しているのが分かる。
「あれは……そうか、あの女ね。自分はここにいるっていう位置情報を自ら見せつけてこちらを誘い込む。極力手間を省いて物事を済ませたがるあの女らしいアクションね」
あの女とは皆ご存知みっちゃんのことだ。みっちゃんのプレイスタイルにも随分強きなものが見える。
「いいじゃない。乗ってやろうじゃないの」
結華は崩れるビルを目指す。
乙女達が戦場で命を燃やす一方で、男子たちは変わらず元の場所にいた。
「あッ!ビルが倒れている!大丈夫なのか、みっちゃん、結華……」
セピア特製バリアに両手をつけて勇は心配を口にする。
「まぁ大丈夫だろう。二人共作りが丈夫だしな、はいココ!」
権之内は攻めたいソコに攻撃を打ち込んだ。
「アウチ!ゴン、お前っておバカな感じを出していても、この手のゲームは弱くないよな」
「ふふっ、まぁな。頭の作りが違うよな」
権之内と一世は、暇潰しに良かろうと思ったセピアが置いていったオセロ的テーブルゲームを楽しんでいた。天界製のオセロは、盤面が白と黒ではなく、金と銀で埋まるものだった。
「お前らってホント、どこまで行っても呑気だな」
結華の歩く道にあるのは砂と瓦礫のみ。瓦礫を越えての移動となると歩きにくい。
瓦礫が鬱陶しいと思って結華が一歩を踏み出したその時、天上から地上に落ちる不自然な影があるのに気づいた。
なにか妙な気配がする。結華は思わず一歩下がった。そこで目の前に銃弾が降り注ぐのを確認した。着弾によって弾けた砂粒は、結華の脚線美を汚して行く。
被弾から免れたものの、自分に向く殺気はまだ止まない。結華は回れ右して駆け出した。それを追って、銃弾の着弾位置も動く。結華の影は蜂の巣状態になる。向こうの狙いは悪くない。
結華は最寄りの廃ビルに飛び込み、頭上からの攻撃をなんとか凌ぐ。安心は出来ない。結華はそのままフロアの奥に駆け込み。階段を見つけると上へと登っていった。途中の踊り場には、ガラスがはまっていない窓がある。風と砂が吹き込み放題となり、踊り場の床には砂粒が溜まっていた。
窓の横に立つと、覗き込むように外に目を向ける。空を見れば、地上10メートル程の地点に人と思われるものが浮遊しているのが確認出来た。背中に翼が生えた人だ。間違いない、あの女神だ。事前に何の宣言もなく、自分だけ飛行能力を使っている。しかもよく見れば、両手に銃を持っている。ルール説明をしていた時には片手にしか持っていなかったのに。
「あのクソ女神め、空は飛ぶし、二丁目を出すし、フェア精神をまるで知らないみたいね。下民よりやることが下卑ているわ」
何もない空に人が浮いてるのは、男子達の場所からも確認出来た。
「あ!汚えなあの女神!自分だけ飛んでやがる」
勇は届かぬブーイングを暗い空に向けて飛ばした。
女神はあちこちを見回している。乱立するビル群の一つ一つは、かなりスペースを詰めて建てられていた。なので、上から見れば結華がどのビルに入ったのかは分からなかったのだ。
女神はこちらに気づいていない。奇襲をかけるなら今だ。
結華は銃口を女神に向ける。距離は決して近くはない。だがコントロールのことを考えると、自分ならイケるという謎の自信があった。結華は引き金を思い切り引いた。
銃声が響き渡る。まっすぐ伸びた銃弾は、調子よく女神を目指している。途中でパンと弾けて、黄色い粒は白き塊へと変化を遂げた。そこから更に銃弾は加速する。
「よし!」
我ながらコントロールはしっかりしている。このまま行けば女神に当たると思った結華は歓喜の声を上げた。
だが、それはぬか喜びに終わる。弾丸はみるみる勢いを落とし、女神に届かず落下していった。コントロールは良かったのだが、飛距離の面で駄目だった。
こうなると次は女神の目が光る。女神は廃ビルの窓際に立つ結華を確かに視界に捉えた。
「ヤバッ、バレた」
結華は反射的に横飛し、窓から姿を消した。
結華が踊り場に転がり込むと、空から降り注ぐ銃弾は窓枠を通過してビルの床を射抜いた。打ち込まれたものには、まだトウモロコシのままのものとポップコーンになったものが混在していた。ポップコーンの大きさも違う。小さいのは日本のお店にあるのと同じくらい、大きいのは人の手のひらを越えるサイズだった。
銃弾は次々と休み無く撃ち込まれる。これは銃が二丁あるからのスピードではない。結華の持つ銃には無い連射機能が、女神の持つものにはしっかり搭載されている。そして自分の銃では向こうに届かなかったのに、向こうは同じ距離で楽々とこちらに届くこの飛距離の長さ。銃の性能がまるで違う。
「ふふっ、そうしてまるで地球害虫Gのようにコソコソと逃げ回るのがあなたにはお似合いね。お~ほっほ!」
地球害虫Gとは『ゴ』で始まり『リ』で終わる4文字の憎きアイツのことである。女神は逃げ隠れする田舎娘を天上より見下ろすと高笑いを決め込んだ。
「おのれぇ……どこまで汚いんだあのクソ女神ぃ……」
己はチート能力を手にし、後のことは無視する横暴な女神のことを、結華は心底憎く思うのだった。




