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第三十七話 そして始まる女神ゲーム

 目の前に広がるは荒廃した世界。

 黒き雲が覆う空はどこまでも続き、視力の限界まで遠くを見たって晴天の青は隙間程も見えない。

 お肌に悪いであろう冷たく乾いた風が吹く大地には、自然の息吹をまるで感じない。人っ子一人見当たらず、耳を済ましても生命の呼吸が聞こえることはない。死んだような土地だ。それは例えとして言うには現実味がありすぎるものだった。

 死を感じさせる大地にも、かつては新築として輝いたであろうがビル群があった。かつて輝かしい歴史があったことが伺えるだけに、命を感じない廃ビルが乱立する景色に心痛むものがあった。どのビルも壁が黒くくすんでいて、かつてどんな色をしていたのか分からない。朽ちた外壁には亀裂が走り、窓ガラスが割れているものも多い。

 平和な現代の日本のどこを探せばこんな終わった世界を見ることが出来るのだろう。でも安心して欲しい。ここは日本ではない。


「どこだここは!なんじゃこりゃ!まるでどこぞの世紀末救世主様の伝説を描いた世界のごとく、荒廃が過ぎるだろうが!」

 先程まで喫茶店でお茶していたのに、瞬き一つすると、目の前の世界はとんでもない変化を遂げていた。そのことに驚いた一世は、世紀末の絶望感を口にしたのだ。


「おう、それかあれだな。オリンピックを前にバイクでかっ飛ばすアキオだかノリオだかっていう漫画みたいな感じにも見えるな」

 いつだったか一世に借りて読んだ漫画の世界を思い出しながら権之内が言った。


「はぁ~だいたい分かったぞ。あの女神の力で、俺達は謎世界に飛ばされたんだよ。そうとしか思えない」

 起きて見る白昼夢にしては時刻が遅く、しっかり眠って夜見る夢にはまだ早い。そもそも自分はまだ布団に入っていない。そして異世界から来たわけの分からない訪問者がいた。そんな状況から察して、こんなことになったのは女神セピアのせいに違いないと我らが冴える主人公は言い当てた。


 勇、一世、権之内は三人寄って立っている。その周りは四方を透明なバリアが覆っていて、三人は閉じ込められた形になっていた。

 それとは違い、一緒に喫茶店にいた女性三名は皆自由に動けるようになっていた。三人それぞれが目にはゴーグルをはめ、手にはライフルを握っていた。

 状況が急におかしい。これには勇も何事かと混乱した。


「ふふっ、お母様が言っていたわ。下民が舐めた態度を取ってきたなら、コテンパンにのしてしまいなさいってね」

「女神の母親ってのは随分と物騒な物言いをするのね」

 謎の状況に追い込まれても結華は臆することなく応戦する。

「おだまり小娘。あなた達は田舎娘の分際で、天上に住まう女神である私を舐め腐ってくれたわ。だからこの女神ゲームで黙らせるのよ」

「へぇ。で、この鉄砲を持ってやるゲームがそれって訳?ルールは?」

 おかしなことになっても動じた様子が見えないみっちゃんは、ゲームと聞いて内容が気になるようだ。なにせ彼女はゲームが好きなのだ。


「この銃はモノホンの良いものよ。でも私はもちろん、あなた達だって仮にも乙女。血生臭さい合戦は避けようじゃない」

「なにが乙女さ。おばさんの間違いじゃない?」

 結華は何も始める前から既に好戦的態度に出る。こうして相手を威嚇し、同時に自分の士気をも高めているのだ。彼女は一般人ながらも戦闘の心得がある。

「やかましいガキね。黙って聞きなさい」可愛い女神様の口も荒れるのである。

「これに入っているのは鉛の弾丸ではなく、エターナルモシャリシャス、つまりあなた達の世界で言うところのトウモロコシの粒よ」

「はっはは~。トウモロコシを撃ち合うっての言うの?」結華は笑ってしまう。

「そうよ。この恐ろしきトウモロコシを打ち合うのよ」

 

 女神達、加えてゴライアスが管理する世界では、殺人的なまでにトウモロコシ的植物が繁殖しすぎていた。

 増えた物はなんとかして消さねばならぬ。人々はこれに頭を使うのだ。消費の方法として、まず食うことが上げられるが、地元民は知恵の塊のような知力高き者たちばかりなので、それ一本道だけでの消費方法には終わらない。

 娯楽にも理解ある人々が住むため、この増えすぎたトウモロコシ的何かは、そちらの方面でも使われることになった。現地でもいわゆるサバイバルゲーム、縮めてサバゲーブームがが隆盛を極めていた。

 本物は怖い、でもおもちゃであればバンバン撃ち込みたい。人々の持つこの意識は、あちらの世界でもこちらの世界でも共通していた。そんなこんなで、トウモロコシ的な植物はおもちゃの銃の弾として有効活用されることになった。

 銃の引き金を引けば、火薬の力で弾が発射される。火薬により熱を受けて発射された粒は、銃口を飛び出てターゲットに被弾するまでに、もう一段回弾けてシャイニングパチコン、日本で言うところのポップコーン的なものへと変化を遂げる。一発で二度楽しい銃撃戦は、瞬く間に人々の間で流行るようになったのだ。


「バンッ!」という銃声は、乾いた空気を伝って荒野全体に響き渡った。

 打ち出された粒は、空気中で元のサイズよりも大きな白き塊へと変化を遂げ、廃ビルの壁をぶち抜いた。


「ふぅ、これが異世界性トウモロコシ銃の威力か。すごいね」

 女神から説明を聞くと、居ても立っても居られないみっちゃんは、ビルに向かって試し打ちをした。


 男子三人は呆気にとられている。朽ちたとはいえ、銃弾はコンクリートをぶち抜いたのだ。危ない。


「確かに血が吹き飛ぶことはないわね」

 何処かに頭のネジでも落としてきたのか、勇者の妹もまた勇敢なもので、崩れたビルの壁を見て言った言葉はそれだけだった。


「ふふっ、安全に、そしてとことんまでにやり合わないとね」女神はほくそ笑んで言った。

「女神のくせに、大衆の遊びを好むとは、あんたどんな趣味してんの?」

「天上の者が、例え娯楽であっても下民に劣って良いものですか。下民に出来ることなら、天上の者である私も当然出来るってわけよ」

 女神は楽しいことが好きなのである。


「ルールは簡単。こいつを打ち込んで相手を倒すだけのこと」戦闘モードに入ったため、女神の口調も段々と荒れてくるのだった。

「あれ喧嘩じゃなかったの?喧嘩ならルールは不要だけど、まぁゲームならルールが必須よね」

 怖っ!幼馴染が言う喧嘩とゲームの線引を思うと、勇は怖くなるのだった。


「じゃあ開始よ。スタート時に三人ともランダムに別々の場所に転送されるから、あとは相手を探して倒す。それだけね」

「ふふっ、良いじゃない!なんだか一世が良く見ているクソアニメみたいな展開じゃない!」

 諸々の設定がクソなアニメに見られる、リアル性あるゲームという要素だけは結華の気に入るところとなった。

「おい、結華ちゃん酷いじゃないか!アレは良いものだぞ!ヒロインがめっちゃ可愛いんだぞ!」

 結華にこき下ろされた作品の唯一の良き要素を口にした一世だった。


「じゃあ行ってくるね勇君」みっちゃんは笑顔で手を振りながら言った。


 妹も幼馴染もこの状況を大変楽しんでいる。そのことに大きな不安を抱える勇だった。

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