第三十六話 女三人集まれば揉めるに十分
「で、NBMの企みをいつまでも放っておいたら国が転覆するだろ。そこで登場するのが、国民のほとんどに内緒になっている正義の秘密機関『正義の南原突撃隊』通称ナントツなんだよ。そのナントツのホープがこのダンディ、牛蒡葱味噌ノ助!」
一世は綺麗に磨かれたテーブルに牛蒡葱味噌ノ助を置いた。
「で、またまたの秘密事項なんだけど、他の隊員も知らない味噌ノ助オンリーの能力が……」
「変身するんだ!」とここで結華がズバリ正解を言い当てる。
「御名答、そうして味噌ノ助が変身した姿がコレ、正義の覆面『ゴッド味噌マン』なんだ!」
次に一世は、味噌ノ助の変身後の姿であるゴッド味噌マンをテーブルに置いた。ちょっとダサい。
「人類存亡をかけて『正義の南原突撃隊』と『ナカヌマ・バーニングマグナム』の死闘が描かれる濃密な30分×全104話の物語が楽しめる本作の名物キャラをカプセルトイ化したのをさっき回して来て全部揃えたってわけ。来月にはガチャ第二弾もリリースだから、また一生懸命回さないとな。肩がこるぜ」
「へえ、何気に二年も放送したんだ。人気作だったんだね。この手の作品って普通一年で終わるよね」
「そうそう、みっちゃん良い気づきだな。この作品はそれだけ愛されったってわけ。今度BD-BOX貸してやるよ」
「いや、それはいい」
一同はまたガチャ関係の話題で盛り上がっている。
一世の好きなオタク作品に対して、一同がたくさんの興味を寄せることはない。だが、一生懸命語る一世の話自体にはちょっとの興味を抱くのである。内容云々よりも、その人間が喋っている事自体を楽しみ、暇潰しとするのだ。気心の知れた者同士の雑談とはこんな感じである。
「お前ら、この期に及んでまだその話を続けるのか。また異世界から訳の分からないヤツが来たんだぞ」
女神セピアの存在が明らかになった流れからまた雑談を始める連中を注意する勇だった。
「あら随分ね勇者。この女神セピア、出どころから社会的地位まで、しっかり世に知れた確かな人物よ」
「いいや、なんだろうがそっちの世界から来た者は全部得体が知れないんだ」
まさかナンパを始めてこんなものが引っかかるなんて思いもしなかった勇は、目の前の女神に難色を示すのだった。
「ああ、そうだそうだ、女神様だよな。にしてもスゴイだろ、後光差すマジモンの可愛い女神様だぞ。フワフワと空にも浮かんでスゴイだろ。今日は俺が一番の成果を上げただろ?だって異世界から来た女神様なんだから!」
一世は女神ゲットを誇ってみせる。
「ふふっ、私のありがたみが分かる人間もちゃんといるのね」
「え、でもパチもん臭いんじゃないその女?」
「何を言うのかしら小娘。口の利き方には気をつけまくって欲しいわね」
結華の失礼な物言いに女神は反論した。
「いやいや、俺の捕まえて来た相棒の妹だって捨てたもんじゃないだろ?だってこいつはまなみさんの血を色濃く引いてるんだから、未来に可能性がある。そのウチには街を歩けば皆が振り返る美魔女だぜ。今は咲くのを待ちきれないギュッと詰まった蕾って感じの良さがないか?」
「権之内……私のことを高く買っての一言なのかもしれないけど、素直に喜べない。色々キモいから」
妹は引いている。
「なによ勇者、あなた勇者のくせしてこんなうらぶれた地まで出向いて田舎娘ハントなんかしてたの?」
「してねぇよ、人聞きの悪すぎること言うなや」
「まぁ年頃だもの。田舎娘を求める気持ちも分からなくはないわ。でも勇者にはメス共を魅了する生まれ持ってのスキルがあるだから、ハーレムなら楽勝に築けるでしょうに」
「ないってばそんなチートスキル」
「そういえばお兄ちゃん、ナンパしてたんだよね。それで言うとお兄ちゃんがゲットしたのは……」
結華の目線はみっちゃんに向く。
「はぁ~、なんで隣町まで来て隣の家に住んでいる女をナンパなんかしてるの?効率悪いでしょうが」
「だから違うっての、そういことじゃないって。みっちゃん、信じるなよ。このバカ共が勝手に始めたことだからな」
「うんうん分かってるよ。それよりも結華ちゃん、隣の家に住んでいる女なんて他人行儀なことなんて言わず、昔みたくみっちゃんお姉ちゃんって呼んでくれていいのよ」
「ふんっ」
結華は笑顔で詰め寄るみっちゃんから顔を背けた。
「お兄ちゃん、まだこの女が良いの?」
「え?まだとかもうとかでなく、みっちゃんの良さは今も昔も変わらずでは?」
妹の急な話題転換にあたふたした勇は、自分でも何を言ってるのか分からない答えをつい口にしてしまう。
「あ、そういやみっちゃんと結華ちゃんは、ちょっと訳ありなんだっけ。忘れてた」
一世はなんとかするよう権之内に目線で合図を出した。
「ふぅ~、じゃあ我らがメインヒロインを引き当てたってことで、今回のことは勇がチャンピオンだな」という結果を口にして、権之内はナンパの話題を終わりに持っていった。
「え、なんだか良く分からないけど、私がその田舎娘に諸々劣っているという不名誉な評価を下されたってこと?」女神セピアは食って掛かる。
「いやいや、天上の女神様なんだから、地上の民と同列にして比べるなんてことしませんってば。なぁ皆、女神様はめっちゃ可愛いだろ?ちょっと性格キツそうだけど、そこもまた良さだと思わない?」
一世の口から余計だけど正解な一言が追加された。
「それなら私も異論があるわね。この何を考えているのかよく分かんない女と、羽根を生やした色物女にこの私が劣ると?」妹も簡単には譲らない。
「あら、私が何を考えているのか分からないって?結華ちゃんにはオープンに接していると思うけど?」
「じゃああんた、ウチのお兄ちゃんをどうしたい訳?いつもニコニコして一緒にいるけど、あんたの本心ってばどこにあるの?」
「どうもこうも、ただあるがままにいる勇君を尊重しようって考えよ。ねぇ勇君?」
なんだか怖くなった勇はコレに答えることが出来ない。
「あ~もう!やっぱり訳わかんないことしか言わないじゃない!」
「止めてよね。こんなしょっぼいカッフェで田舎娘が男のことでギャンギャンやり合うなんて品がないわ。これだから田舎娘は……」
とにかく女神は田舎娘をディスりたい。
「なにさアンタこそ一番訳わかんないのよ。はやく天上に帰れば?それから何、カッフェって。私、通ぶってピザをピッツァとか、メイクアップをメイキャップて言うヤツにイラつくの」
妹は大変荒れた思想を持っている。
「何を言ったところであなた達田舎娘など私から見れば拙い命に過ぎないわ。それよりも勇者、大人の魅力ある私の方がずっとイケてるわよね?」
「ちょっと静かにしてろパチもん女神。それから、自分でイケてるとか言うやつはだいたいイケてないんだよ」
「やばいなぁ、楽しい喫茶店での一時が、どういうわけか修羅場になっているような気がする」
権之内の目には、阿修羅と帝釈天とよく分からない女神が対峙する謎の画が見えていた。
「よし、じゃあ帰るか一世」
「そうだなゴン。そろそろちびっ子ウェルカムな夕方のアニメ枠が開放される。俺も教養として見なきゃ」
なんだか面倒になりそうと思った二人は、そっと席を立とうとする。
勇はそれを許さず、二人のズボンを掴むのだった。
「おい、二話前に俺達は日本の桃園三兄弟だって言ってたよな?三兄弟は何をする時も一緒なんだよ。この面倒の中に俺を置いて帰るのは許さん」
「ふふっ、その桃園が日本には無いだろ?あれはジョークで無効だってばさ」
一世は自分が言った過去の適当を、今もまた適当で流そうとしていた。




