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第三十四話 硬派な俺達に出来る軟派なこと

 勇はいつも以上の喧騒に包まれていた。


「おう権之内待ったか?」

 

 静かな土地にある自宅を離れてわざわざ喧しい街中に移動したのはこの男に会うためだった。権之内から呼び出しがかかり、集合場所は街中にある噴水前に指定された。


「気遣いさんなお前だからそれを聞いてくるんだよな。だが愚問だぜ勇」

「え、愚問?」

「例えお前が俺を5分待たせようが、50分、いや5時間待たせようが、俺は『待っていない』としか答えない。答えは一つに決まっている。だから愚問なんだ」

「権之内……お前のそういうところ、男らしいんだろうけど……やっぱりうざいよ」

 権之内は気取った態度で語り、痛いツッコミを受けたが、それでも怯むことなく気取ったままだった。


「あれ?一世のやつは?」

「ああ、あいつならホラ、あそこでガチャガチャを回している」

 噴水前から見えるおもちゃ屋の表にはガチャポンが置かれている。そこに集う子供達に混ざり、一世もガチャポンを楽しんでいた。


「やったぜ!サイコクイーンが出た!」

 どこかのクソアニメにでも登場するのであろう悪の女幹部を見事引き当てて小躍りしている一世だった。それを周りの子供達は不思議そうに見ている。


「おおすごいなぁ、こうして下から見れば、パンツもちゃんと実装されているぜ!」

 パンツと聞いて気になった様子の男児が一世に寄ってくる。


「なんだい僕?見たいのか?仕方ないなぁ、でもこのことはママには内緒だぜ」と言って一世は右手人差し指を立てて口元に当てると「しー」のポーズを取る。おまけにウインクもしてみせた。うざい。


「おいコラ!」

「痛ッ、ああ勇ぅ!勇じゃないか!ホラ見ろよ、サイコクイーンのパンツ」

 このようにパンツパンツとうるさいので、勇は二回目の愛あるゲンコツを一世の頭に喰らわせるのだった。


「お前なぁ、小さい子に混ざって何してんだよ」

「ふふっ、ガチャ課金者にガキもおっさんもない。これっぽっちの小遣いを握りしめてこんな寂れた店のガチャを回しにきた者同士、戦利品を共に味わいたいっていう人情がお前には分からないのか?」

「分からん!いいからサイコクイーンはしまっておけって」

「そうだな。よし、みっちゃんにも今度見せてあげよう」

 勇は一世を連れて再び噴水前に戻った。

 

「で、権之内、こんなところに三人集まって何をするって言うんだ?」

 前回の野球がそうだったように、権之内が誘いをかける時はいつだって急である。そして内容を先に言わずにどんどん話を進めてしまう。そのため、勇は呼び出しに応じたものの、この先何をするのか全く知らない。


「ふふっ、まぁ青春を謳歌しようってのが今日のテーマであってな。それをするのにこの三人が集まれば向かう所敵無しなわけだ」

「確かにな。日本の桃園三兄弟なんて呼ばれたのが俺達三人だしな」

 いつも通り適当なことを言って権之内の話に乗ってきた一世だが、適当しか言わないゆえ、そんな風に呼ばれた過去は一切ない。


「何が言いたいんだよ。バカのくせに長尺喋ろうとするな」

 勇は確信をついて話の簡略化を要求する。


「まぁ早い話が、というか遠回りする余地もない簡単な話なんだが、それって言うのがナンパな」

「はぁ?ナンパ?お前が?俺が?」勇は権之内と自分を交互に指差す。


「なるほど!硬派な俺達だが、真に青春を謳歌するなら少々のハッチャケも必要。そのためには華、横にイコールを置いてギャルをハントしにいかねば!そういうことだねゴン」

「お前はこういうことになったら頭が回るよな一世」

「ははっ、まあね。楽しいことを考える時に一番フル回転するのがココってね」と言って一世は、少ない脳みそが入った頭をコツコツと指でつついた。


「しかし、硬派な俺達が軟派だなんて……ぷぷっ、これ如何に!」

 一世は吹き出した。それに合わせて権之内もデカイ笑いを飛ばす。


「お前らの頭の中どうなってんだよ?」

 勇はどうにもならない彼らの頭の中の事情を思い浮かべた。


「よし!お誂え向きにギャルの群れがいち、に、さんっと」

 権之内は噴水前から見えるギャルの群れを端から指差してゆっくり数えた。


「よし、じゃあ俺は右端、一世が左端、残った真ん中は勇。それぞれに突っ込んで、収穫物を連れてまたココに集合。じゃあ早速GO!」

「しゃあ!GO!サイコクイーン越えカモン!」

 権之内と一世は駆け出し、それぞれが左右のギャルの群れに突っ込んだ。

 当然このノリについて行けない勇は、一人噴水の前で待ちぼうけを食らうのだった。


「はぁ、ロクでもないなアイツらは……」勇から納得の独り言が聞こえた。


 ここで勇は、自分が向かうべく設定された真ん中のギャルの群れを見た。そして群れの一人と目が合った。


「ん?あれ?」

 見たことがある。そのギャルはこちらに近づいて来た。


「勇くん、何してるのこんなところで」

「みっちゃん!」

 みっちゃんだった。


「何と言われても……何をしているのか、しないといけないのか、謎なんだよ。あのバカ共のせいで……」

「ああ、一世くんとゴンちゃんもいるんだね?」

 バカ共というヒントで二人が一緒なことを当ててしまったみっちゃんはさすがである。二人がどこかにいるようだと知ったみっちゃんは辺りを見回した。


「勇ぅ~、ちょっと変わったことになったよ」

 権之内が収穫物、つまりはナンパしてきたギャルの手を引いて戻ってきた。


「なに権之内?タピオカご馳走してくれるんでしょ~」

 連れて来られたギャルはタピオカのことで頭が一杯だ。


「え!結華ゆか!」

「あ、お兄ちゃん」

 なんと権之内が捕まえてきたのは勇の妹の結華だった。唐突に新キャラ登場である。


 そしてもう一方でも収穫物が上がった。

「お~い皆ぁ~スゲェーぞ!マジでスゲェ~ぞ!見てよ見てよ」

 一世もまたギャルの手を引いて集合場所に帰ってきた。

 一世が掴んでいるのは、細く白い手首だった。だがおかしい点がある。細く白い手首より先は、天に向かって伸びている。連れてきた相手は宙に浮いていたのだ。


「な?スゲェだろ!こんなところで可愛い女神様を捕まえたよ!」

 可愛い女神様と呼ばれるその者は、背に白い翼を生やし、フワフワと宙に浮いていた。一世が手を離せばそのまま風船のように舞い上がってもう地上には戻ってこないかのように思えた。背の向こうには後光が射していて、明らかに通常の人間には見えない。


 こんなどうしよもなくファンタジックな女を見てやや混乱した勇の第一声がコレだった。

「元いたところに返してこい!」

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