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第三十二話 ドブジル城の人々

「マユミ、勇者の動きはどうなっている?」

 魔王ドブジルは、見るからに高級な椅子にふんぞり返って秘書に尋ねた。


「はっ、この闇の美人秘書マユミの捜査網によると、勇者の姿は未だこの世界に確認されていないとのことです」

「何?それってお前の捜査網がゆるゆるだからでは?」

「何をおっしゃいますかドブジル様、あなたが選んだこの闇の美人秘書に抜かりがあるものですか。こちらが見落とす、見つけられないのではなく、そもそもこの世界に降臨していないのです。つまり、動きも何もあったものではないのです」

「え?魔王が力をつけたら、それに対抗する勢力として勇者も誕生するものでは?」

「おっしゃる通りです。でないと、ドブジル様のようなワルワルマックスな支配者がいる意味がない。まぁ、少々の時間のズレがあるのでしょう。待っていればその内出てくるはずです。この闇の美人秘書の読みが外れる可能性なんてわずかしかないので、もうそのわずかを数えて口にするのも面倒です」

「いや、面倒がらずちゃんと数値化しろよ」


「ふふ、闇の美人秘書の読みも果たして当てになるものかな?」

 暗闇からヌッと姿を覗かせたのは、魔王ドブジル四天王の一角ダークネス向井だった。

「なっ、ダークネス!この闇の美人秘書を愚弄する気ですか?」美人秘書はオコである。


「ハッハッハ、その美人秘書という肩書も世間で認めるところかどうか。なにせお主の美人度を測る尺がない」    

 次なる声は天上から聞こえた。一同が顔を天上に向けると闇夜に光る二つの点と目が合った。

 天上に足をつけて静止している異形の者は、名を怪鳥人トリヒコーヌという。大きな翼を持つこの者もまた四天王の一人である。

「なにを言うの!鳥なんかに世間一般の美が、いえ私の美が分かるはずがない。そうでしょうドブジル様。闇の美人秘書で間違いないですよね?ねぇ?」

 闇の美人秘書マユミは、一生懸命に主からの同意を求めるのである。


「ああ、うむ。お前は十分肩書に恥じぬだけのものを持っている……と思う」

「ほらごらんなさい」


「ピポピポ……ガガガ」

 また新たな音が闇から生まれる。それも機械音のようだ。謎の機械音はゆっくりと一同に近づく。

「ピピ……照合完了。マユミ・サナダの美人度、だいたい中の中……」

 機械的音声を発した主は、大きな液晶の顔を持ち、その上にポリバケツを乗せている。鉄の胴体を伸ばし、人で言う足にあたる部分にはキャタピラがセットされている。

「ほほう、ピコットミコットのデータなのだから、信用できるな」ダークネス向井が頷く。

 このロボット戦士もまた四天王の一人、いや一体である。数多のデータがインプットされたことで情報面においては全ての哺乳類を凌駕し、パワーにおいてもまた岩をも粉砕する規格外のものを備えている。知力と武力に長ける電脳戦士、それがピコットミコットVer.8である。待っていればその内9や10にアップデートされるかもしれない。


「こんなちょっと進んだガラクタに品定めされても納得できませんわ。それと本名で呼ばないで」美人秘書はぷんぷんである。

「まぁまぁ、全てのランクの中で完全に真ん中にいるってこともそれはそれですごいではないか。普通であることは難しいこと。ゆえに需要もあるというもの」とかなんとか苦しいフォローをして部下への気遣いを忘れない魔王ドブジルだった。

「そうですか。ドブジル様がお求めとあらば、この闇の美人秘書マユミ、いつまでも甘んじで普通の女であり続けましょう」


 ここで血生臭さが一同の鼻を刺激する。入り口からまた新たな大きな影が近づく。

「魔王様、なんですかいこれは?こんな箸にも棒にもかからない連中を集めて何のお祭りをしようっていうんです?」

 悪態をつきながら現れた影は、この部屋のだれよりも大きなものだった。

「おお、来たか夢笛むてきザウルスよ」

「来ましたよ。しかし魔王様、その夢笛ザウルスって名前なんとかならんのですかい?」

「ならんさ。お前は聴けば夢心地になる美しき笛の音を奏でる我が四天王の音楽家でもあるのだ。お前の腕を尊敬して送った名前を撤回する道理などない」

「まぁそれは光栄の極みではありますが……」

 夢笛ザウルスは、筋骨隆々で大柄な見た目からイメージしがたい繊細な音楽センスを持ち、笛の奏者として随一な腕を持っていた。名前については、自分で「無敵」と言っていると勘違いされがちなことから、なんとか変更できないかと考えていた。でもそれは無理な話である。


「それよりもお土産ですよ魔王様」

 霧笛ザウルスは、大きなイノシシのような謎の魔物を引き摺ってここまで来た。

「こいつを食ってしっかり世界征服の準備をしてくださいよ」

「まったく、魔王様の土産に精のつくものを献上する心得は分かるが、そのような醜い姿のままで食材を持ち込むとは、無礼な奴だ。血が臭いのだよ」礼儀にうるさい紳士のダークネス向井が指摘した。

「だからその綺麗に食材として捌くのが俺には出来ないから、ここのお抱えの闇の料理人フジシロにまかせるために重いのを一生懸命引き摺って来たんだろうが。しかし、お前のような気取った似非紳士をスッパリ捌くのなら、この俺の斧でサックリ済ませることが出来るのだぜ」

「何を言うかオオトカゲが。我々の種族はトカゲだって食材にするのだよ。と言っても、ゲテモノ料理にあたるがね」

 霧笛ザウルスとダークネス向井は睨みあう。


「まぁ待て。今日は世界征服、そしてきたる勇者に備えての会議を行うのだ。勇者の登場を待つ前に四天王同士で争って数が減られても困る。フジシロにそいつを美味しく調理させるから皆で食べようではないか。まずは腹を作ろう」

「うむ。ワシも腹が減って仕方なかった。さすが我が魔王、ナイスな提案だ」

 天上から肯定の意見が聞こえる。霧笛ザウルスは天上にぶら下がるトリヒコーヌを見上げた。

「うむ、焼き鳥も悪くないかもな……」

 同僚を見て涎を垂らす霧笛ザウルスだった。

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