第三十一話 異世界を巡る塗り人 ペインターイソロク
※ちょっとだけ注意点
今作に登場する「エターナルモシャリシャス」とは、地球でいうところのトウモロコシにあたる植物である。そして「シャイニングパチコン」とは、地球でいうところのポップコーンにあたる食料である。
世に悪が蔓延ることを正義がいつまでも看過しているはずがない。魔王が力をつけた時、勇者もまた誕生する。そうして世界のパワーバランスは保たれる。勇者様はきっと来る。魔王ドブジルを討伐するため必ず我らの前に現れる。
俺はネオゴチャラティのペンキ屋、人呼んでペインターイソロク。
普段は口うるさい親方の下でそこらの建物をペンキで塗りたくるというしがない商売に徹している。そんな一職人の下っ端に過ぎない俺だが、この世界の平和にために立ち上がろうと思う。ここは俺を育てた愛すべき場所なのだ。
今現在街々の状況はどうなっているかのというと、見れば即お分かりの通り真っ白。エターナルモシャリシャスが大量発生し、個々が異常に成長して伸びまくっている。大人の背丈くらいを越すのだって普通、元気な物は二階建ての家を越すくらいまで伸びる。これはまずい。我社で愛用している聖なる馬車「マクミラン号」が使用不可になってしまった。まず、タイヤがまともに回らないくらいに大地がモコモコになっているし、これを引っ張る馬共がエターナルモシャリシャスをハムハムと食べて仕事にならない。お抱えの馬共が、野生のエターナルモシャリシャスを食いすぎて太ってまともに走れない状況にもなっている。「馬車馬のように働く」なんて言葉があるが、ウチの馬車引き馬は、世間様の中で一番仕事をしない部類になってしまった。このままだと馬刺しだな、と親方も呟くくらいだ。まったく、こんな植物がたくさん生えて我々人間は困っているというのに、馬共は呑気に喜んでたくさん食べているのだ。やってられないぜ。
こうなったら俺だって呑気にペンキで建物を塗りたくっている場合ではない。魔王討伐を行う勇者パーティーに参加するために力をつけ、一刻も早く世界の回復を見るべく貢献しなければならない。
こんな俺にも少しばかり取り柄がある。それがペイントマジックだ。魔法でペンキを操ることで、物理的法則を無視し、一瞬の間に芸術を描くことが可能になるのだ。仕事現場においてこの能力は、作業スピードを速めることで重宝されていた。こんな能力が戦闘にどれだけ役に立つのか今の所は定かではない。ちなみに言っておくと、魔法の有無にかかわらず、俺の持つ色塗り技術と絵心はそんなに達者なものではない。親方からも、これで腕があればなといつもダメ出しを受けるのだ。
しかし、魔法というのは使用するたびに精度が上がるもので、いつかはもっと強力な効果が発揮されるようになると俺は信じている。ペンキ屋としてのスキルもきっと向上する。ペンキ屋で培った俺の能力が、恐怖の魔王を唸らせることになる。そうなれば誇らしいものではないか。一寸の虫にも五分の魂が宿るというのだから、一介のペンキ屋なら八分はいくのではなかろうか。そんな小さな力でもきっと役立ててみせよう。
現在俺は休業届を出して街から旅立った。ネオゴチャラティよりもっと大きな街「ホメコヌス」には、冒険者ギルドがある。そこでは、魔王討伐のため勇者パーティーを募っている。勇者様には届かぬものの、大きく引けを取らない猛者共がうようよと集まるはずだ。俺はこれに参加しようと思う。
安心してください勇者様。勇者様を支えるべくして腕を磨く猛者はいくらでもいるのです。この俺だってその一人になってみせます。
こうしてホメコヌスを目指す旅を始めたわけだが、そこで改めて思うことがある。いつだって旅ってのは長い。本当に長いのだ。
ケチな親方の財布から出て俺の懐に入る心許ない給料では、そう豪勢な長旅は出来ない。ホメコヌスまでの旅を行う内にも、路銀を稼がないといけない。
俺は旅の途中でも商売を行っている。忙しい。
親方が良く言う口癖にこんなものがある。「自分で何も産めないヤツは、舞い降りたチャンスは当然、ピンチだって拾ってものにしろ。チャンスはチャンスなのだから掴まぬ道理なし、そして時にはピンチだってチャンスに変えていける柔軟性あるヤツがいつの時代のどこの世界でも生き残る」
実に的を射た商売経験豊富な年寄りらしい意見だ。俺はこの教えを胸に、商売人として日々やって行くのだ。
そこで現在何のチャンスを掴んでいない状況下の俺でも、ピンチならたくさん拾えることに気づく。足元を見ればピンチだらけ。そう、大繁殖したエターナルモシャリシャスがそうだ。
こいつは放っておけば、シャイニングパチコンとなって大地から空に向かって美味しい味を飛ばす。異常なまでに大きくなったエターナルモシャリシャスから飛ぶシャイニングパチコンであれば、人の顎を割り、家の窓を割り、壁も割るという事故に発展することもある。この害悪めいた植物に俺は未来を見た。
現在俺は、シャイニングパチコンにペイントマジックをかますことで、実に色鮮やかなシャイニングパチコンを生成し、これを主にギャル共に売ることで懐を温めている。この自然災害と俺のペンキ屋の経験がマッチして新たな商売が産まれたのだ。
売上は好調。現在は稼ぎで移動車を購入し、津々浦々行き渡っての巡業を行っている。
ギャル達がカラフルなシャイニングパチコンを写真に取って見せびらかすことで、若者文化を盛り上げているという。ゴライアス様に聞くところによると、そちらの世界ではこの現象を「バズる」というらしいですね。俺は時代のバズりを産んだ第一人者となったわけだ。
そんなわけで、移動車入手によりどこでもスムーズに行けるようになったのですが、次は我が街に来てくれという依頼が多く入り込み、現状では巡業にストップがかけられません。魔王討伐だってもちろん重要案件ですが、仮にも商売人をやっている以上、顧客のニーズに答えることは最優先にしないといけません。勇者様しばしお待ち下さい。ホメコヌスへの到着はやや遅れますが、きっと参上いたします。このペインターイソロクが、勇者様の勇者道をもカラフルに塗りたくって進ぜよう。
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ここで映像が途切れた。
ゴライアスは、勇の自室の壁に、異世界より取り寄せたフィルムを映し出していたのだ。
「いや、もういいよ来なくて。ペインターには、もうそのままポップコーン屋を続けろって言っとけや」というのが勇の感想だった。
「何言ってるのさ。向こうの世界の人達は、我こそが勇の支えになろうってすごいモチベーション高く魔王討伐に臨んでいるんだよ。君がその度胸を買ってあげなくて誰が買うっていうのさ」
「知らん。買い手がないのに、そんないらないものを売るな」
「こいつは手厳しい」
「というかさ、コレお前が撮影してたの?」
「まぁね、撮影や動画編集っていう技術も、我々勇者特急派遣大使には必要なのさ」
「お前も、もう帰れば?」




