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題二十九話 聖戦、終わる

 勇は振り抜いたバットを地面に落とした。

 勇の打ち上げたボールはやがて場外に落下する。


「ホームラン!」


 アンパイアの野太い声が広場にいる全員の耳に突き刺さる。


「ゲームセット!」


 同時に聖戦が終わった。

 4対5でキングスエヨシーズの大逆転勝利となった。


「やったぜ!勇ぅ~この野郎、美味しいところを持って行きやがって」

 権之内は勇を抱きしめた。


「勇、諸々シーンカットされても、やっぱり勇者らしくラストはお前がズバッと決めちゃったなぁ!」

 一世も勇を抱きしめた。


「ははっ、なんだか分からないけど勝ったみたいだし、ノリで僕も真似ちゃえ」

 ゴライアスもノリで二人を真似て勇を抱きしめた。


「暑苦しんだよお前ら。離れろや!」

 男三人に囲まれて暑い上にウザいので、勇は三人を引き剥がしにかかった。


「勇君、ナイス。今日のヒーローだったね」戯れる男共からやや距離をおいてみっちゃんは言葉を送った。

 勇は、みっちゃんこそ来いよ!と思わずにはいられなかった。


「よしよし、よくやったぞガキ共!」

 スエヨシのオヤジのお出ましだ。

「ゴンの字が連れてきたガキ共も良く役に立った。ベンチには華も添えてくれて男臭さも軽減されたしな」と言ってオヤジはみっちゃんも見る。

「えへへ、華でした~」みっちゃんは右手を後ろ頭に回して照れ笑いを浮かべてみる。

「そうだな。みっちゃんは花だな。野っぱらで風に揺れるチューリップとかだな」

「馬鹿だなお前。そっちの花じゃないっての。華の方な。それに野っぱらにチューリップ?」

「え?だから花だろう?あってるだろ?」

 発音で言えば同じな言葉を用いて、権之内と勇は不毛なやり取りを行う。


「せんせ~い!」みっちゃんは先生に駆け寄る。

「やぁ、負けてしまったね。応援団の差が出たようだね」

「へへっ、応援ならそっちにだって綺麗なお嫁さんがいるでしょ?」

「ああ、でもあれは僕専用の応援団から、チーム全体の指揮を上げるってのなら機能していないよ」

「先生、それって特殊な入りののろけ話?」

「ははっ、そうかもね」


「先生、今日は負けたよ。結局あの後も先生にヒットを打たれて三振を取れなかったな」

「権之内の投球はすごかったね。先生も心だけ随分と若返ったよ」

 勇と権之内は忘れていない。勝負時の担任の目は、貪欲に勝利を貪る獣のようだったことを。


 担任は土手の上を見る。妻と幼い我が子がこちらを見て微笑んでいる。

「じゃあ僕はこれで。この後も予定があるんだ。君たちも気をつけて帰るんだよ」

「お嫁さんとデートですか?」とみっちゃんが尋ねる。

「ははっ、おませさんな質問だね。まぁそんなところだよ」

 担任は土手を登ると、妻が運転する車に乗って広場を去った。


「よく分からんところのある先生だけど、家庭ではちゃんと良き夫、良き父をしているみたいだ」一世はうんうんと頷きながら去っていく車を見ていた。


「何!話が違うではないか!」スエヨシのオヤジが怒鳴る。

「そりゃそうだ。途中で話が変わってきているのだから」龍王院散財ズの主将マサカドが応戦する。

「おいおい、オヤジ達。気持ちよく共に汗を流して聖戦を繰り広げたんだ。それが終われば肩を抱きあい、微笑みあって、仲良く帰ろうぜ」権之内が仲裁に入った。

「そうはいかねぇ。これは商売がかかっていることなんだよ」スエヨシの声が響き渡る。

「とにかくだ。話は途中で変わってるんだ」マサカドが話し始める。「そっちとこっちの商工会同士の戦いってことだったろ。そっちは4人も外部の者が入ってるし、動ける高校生だぞ。そりゃ戦力差も出るってもんだろ?」

「おいおい、そっちはそのガキ共をここまでに育てたもっと強い先生を引っ張って来ただろうが!それはどうなるんだよ」

「あの先生は社長の身内だぞ。であれば、俺達とは一蓮托生、魂を共にする同志ってわけさ。文句あるか?」

「ありありのありよぉ!そんならこいつらだって」スエヨシは高校生の男子共を指差す。「こいつらだって学校を出たら揃ってウチで働くってことになってんのよ。言うなれば身内も身内ってわけだ」


「おい、何言ってんだこのオヤジ。いつ俺達の進路はオヤジの店に決まったんだよ」勇は権之内に耳打ちする。

「唐突に決まった進路だな」権之内は腕組して言った。

「まぁ何か今後の事業展開のことで揉めているが、商売の世界において淘汰されるものは、されるべくしてそうされるってことは確かだ。オヤジには悪いが、こうして野球で打った走ったところで、店は無くなる時には無くなる」

「権之内、お前急にリアリストだな」

「まぁそういうことだ。オヤジを手伝うっていう義理は果たした。後はおっさん同士にまかせて、俺達は撤退だな。よし、ラーメンでも食いに行くか。オヤジから助っ人の小遣いはもらってるから」

 こうして一同は、揉める商売人共をその場に置いて広場を後にするのだった。


「こっちの世界ではああして商売の面倒があるんだな。野球という面白い競技と共に勉強になったよ」

「ゴライアス、お前、本当にこっちでの生活を楽しんでいるよな」

「まぁね。どんな状況下においても、そこでの楽しみを見つけるべし。これが諸々の成功への道だ。ウチの上司がよく言うことさ。それよりもラーメンってのは何だい?」

「ああ、練った小麦粉を細く切って茹でてスープに沈めて食うっていうソウルフードだ」

「ふむふむ、そうか。じゃあ、我らが統括するネオゴチャラティでいうところのナガチョウバニュルスと同等のグルメってところだね」

「え、ナガチョウバって日本語入ってんじゃね?」

 勇とゴライアスは、こっちの世界とあっちの世界のグルメ談義を行いながら歩を進めるのだった。

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