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第二十八話 人生はスタートとラストの繰り返し

 ダイヤモンドの一角を埋める走者の姿はどこにも見えない。盗塁の心配がないため、オーバーモーションを遠慮なく取っても、目の前の相手に集中できる。権之内は、ワインドアップから体重を乗せた全力の一球を放つ。


「くらえぇ!炎のラストボールだぁ!」


 一回裏からファイナル展開が敷かれた。

 強肩が繰り出せる最速にして最大威力の一球は、空気抵抗と重力を無効化したかのごとく、何の引っ掛かりもなく真っ直ぐ勇の構えたミットに向かう。

 すさまじい高速化を迎えた白き円形は、尾を引いた彗星のように見え、その尾は揺らめいているようにも見える。担任教師には、自分に向かってくる物が白き炎のように見えた。

 担任は投球のみに全ての気を集中し、動体視力の限界で自分に向かって来るものを見極めにかかる。

 担任の腕にぐっと力が入る。そこからバットが振り抜かれるまでもまた一瞬の出来事だった。

 閃光のスイングは白き炎をかき消した。

 バットが押し上げた球は、晴天に向かって伸びる。伸びる。

 グラウンドにいる一同が晴天を見上げる。


「ホームラン!」 

 終戦の一声が上がった。

 

「やったぁ!いや~打てたね~」

 担任は軽く流してダイヤモンドを一周する。

 権之内は、球が消えた方向を見たままだ。場外に飛んだ球は、手入れをしていない草むらに落ちた。これはまず見つけることが出来ないだろう。


「おい!」

 勇が権之内の肩に手を置いた。

「炎のラストボール、初回から無効化されちまったじゃねえか」

「ふふっ……」

 権之内は笑い始めた。

「はっはっは!俺のラストは次のスタートを兼ねる場所だ。今のは打たれちまったが、ラストボールは何度でも蘇る。不屈のラストを見せてやる」

「終わる終わる詐欺じゃん」

 投球一回ごとがラストであり、次へのスタートでもある。七回転んだら八回とは言わず九回でも起き上がる。そんなハートの強さが権之内の売りだった。

 その後、権之内は精神的にまいることなくしっかり立て直して奪三振記録を膨らませて行った。


 ゴライアスにとって勇達のいる世界は異世界になる。異世界文化を学ぶのに前向きなゴライアスは、しっかり野球を楽しむ気でいた。次にはゴライアスがバッターボックスに立つ番が回る。

「丸い球を木の棒で打つ。野球ってのは、シンプルなようで奥が深い趣ある競技だね。これは僕も打ってみたくなる」

 意気込んでゴライアスは素振りを始める。

「ゴラちゃん頑張って!球をよく見て、打ちごろなのが来たらスパーン、だよ」

 随分アバウトなアドバイスを送るみっちゃんだった。

「ふふっ、任せたまえ。向かってくるものを撃ち落とすのは僕の十八番さ。天界の射的大会では良いところまで行ったんだぜ」

「いいからとっとと振ってこいよ」

 勇に押し出されてゴライアスはバッターボックスに立った。


 龍王院散財ズのピッチャーは、ストレート一択の権之内と違って変化球も混ぜ込んだ攻略しづらいピッチングを行ってくる。

「ふむふむ、ああして手元で変化する球を投げるテクニックもあるのか。これは面白い。どんな球になるのか、その軌道を読んでこのバットとかいう棒に当てるのか」

 バッティング、ピッチングの駆け引きを分析してボソボソと口にするゴライアスは、一球目を普通に見逃した。

「おいっ、振らなきゃ当たらんぞ!」

「そうだ転校生!ぶちかませ!信じて振れば、きっとバットは期待に答えてくれる」

 一世、次いで権之内が言葉を送った。


「あ、これは打ちごろだ」

 二球目は実に打ちごろだと判断したゴライアスは、見事打ち返すことに成功した。

「やった、やった。ビギナーズラックだね」

 良い当たりとなり、ボールはセンター前に落ちた。


「タッチアウト」

 楽々べースを踏んだはずのゴライアスだが、内野選手にタッチされてアウトになった。

「え?なんで?打ったじゃないか」

「ここ、三塁ベースな。お前が目指すのはあっちだったの」言いながら男は一塁を指差した。


「あちゃ~やっちゃったよ!素人がやりがちな逆走。仕方ない、俺だって三塁に進んでた時期があった。戻ってこい転校生」

 権之内は手招きしてゴライアスを呼んだ。

「まぁあれは皆通る道だよね。この俺なんかは、何か気持ちよさそうと思って二塁に直行したこともあったし。ルールを覚えるまでは時間がかかるよね。どんまいゴライアス。バッティングは悪くなかったから次はツーベースでもスリーベースでもイケるって」

 ミスした仲間を一世もまた朗らかに迎え入れる。

「どんまいゴラちゃん。女子の体育でソフトボールをやっても、そっちに走っちゃう初心者の子ザラにいるから。良かったじゃん、素人時代でしか味わえない貴重な失敗あるあるを体験出来たんだから」

 みっちゃんも普通に迎え入れるのだった。

「皆、ミスした僕に優しい声をかけてくれんだなぁ。一人のミスは皆でカバーする、これもまた野球の精神、もっと広く言えば団体競技の精神というわけか。良いじゃないか、チームで共に汗を流す青春の時っていうのも」

 ゴライアスは感動していた。

「いや、そこまで寛容になれるくらいコレって当然のあるあるか?素人でも逆走するヤツはマジで稀だろ」

 勇はいつものペースを崩さす、おかしい事はおかしいとしか指摘しないのだった。

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