第二十三話 我々がバットとグローブを手にする理由
そんなこんなで一行は、川辺の広場に到着した。これからここで熱き一戦が繰り広げられる訳である。
「いんや~気持ちいなぁ~」
9月上旬のお昼の陽光を浴びながら、権之内はストレッチを始める。
「てかお前、本当に強引にして豪快にして、あとはおバカだよな。一つ前の話、間髪無くベラベラ喋るお前のセリフを羅列しただけで終わって、俺のセリフがオールカットになってるじゃないか」
勇は仕方なくバカな友人に付き合って決戦の地にやってきた。一世、みっちゃん、ゴライアスの仲間達もセットで同行した。
「セリフ?何いってんだお前。俺の、いや俺達の戦いの物語は、いつだって一発撮りだぜ!用意されたセリフなんてありはしないさ」
「お前こそ、たまには自分が何を言ってんのか省みることをした方がいいぞ」
「ふふっ、とかなんとか文句言ってもさ、勇、お前だって滾ってんだろ?勝負師の血ってのは、息ある限りそうあるもんだ」
「誰が勝負師だよ!」
広場は丘の下にある。ゴライアスは丘を半分下った地点に尻をついて座っている。
「こりゃまた豪快な仲間が登場したね。あれが三変人の最後の一角、権之内貴一か」
「うん、そう。ゴンちゃんはいつも思いつきで生きてるって感じの奇っ怪極まりない謎男だよ」
同じく腰掛ける少女みっちゃんが答えた。
「ゴン、こりゃまたどういう騒ぎだ?」
「おう一世、相変わらずオタクライフ満喫中か?」
「もちろんさ!ゴンも元気だね」
「これはきっと一世だって好ましい展開だぜ!」
権之内は、野球合戦勃発までの経緯を話すのだった。
「向こうのチームだが、あっ、龍王院散財ズのことな」
数メートル先には、向こう側陣営が集まってミーティングを行っている。どこか見た目に品がある中年達が集まっている。
変なチーム名の由来だが、まずはこの街でも手広く商売を行っている龍王院グループ傘下のや野球チームであること。そして金持ちの特権である「散財」と、日が昇る現象「サンライズ」を賭けて「散財ズ」という怪しげなネーミングになったという。
「なんつ~名前だよ!ブルジョワ的的嫌味を感じるぜ」
「ははっ、勇の言うことも分かる分かる。そんな金持ち軍団の奴らを、俺たち町内会チーム、キングスエヨシーズが討伐にあたるってわけさ。コレはただの合戦じゃない、各々の未来がかかった聖戦だ」
「また大げさだな。おっさんが集まって草野球するだけのことじゃないか?」
「甘いぜ勇。バットを握り、グローブはめ、太陽の下で白球と戯れる。それが必ずしも楽しい遊戯であるとは限らない。勝負ってのには、どうしても勝利する意味があるってもんだ。同時に負けられない理由ってのもある。それについての詳しい説明は、我らがボス、スエヨシのオヤジに話してもらおう」
ここで権之内は、スエヨシなるおじさんに語り手をチェンジする。
「紹介に預かった。ワシがスエヨシだ」
大柄の中年スエヨシが、勇と一世を向いて話し始める。
「俺たちキングスエヨシーズメンバーは、皆フラッシュコブラシティの商店街で商いを行う商人だ。そして向こうの龍王院ってのは、金持ちグループである。川の向こうから来た奴らは、デカイ商業戦略を展開し、早い話が俺たちのテリトリーを飲み込んで手広く商売をしようとしている」
「なるほど、小規模の商店街の近くにドカンとショッピングモールとかを建てて、客を、なんなら店だって取っちゃうみたいな現代に近づく程あるあるな商人業界の悩みってわけだね。そしておじさん達は、商業戦略の方針について向こうと揉めた。揉めた問題の決着は、この聖戦で付けようってわけだ!」
察しの良い一世が問う。
「まぁそんなところだ。俺たち商人ってのは、商人である限り、店を構えたその土地で、店を守るために戦い続けなければならない。これは侵略者を追っ払うための戦いでもある。俺たち商人の戦争には、銃も剣も核も用いはしない。ただバットとグローブを手に最後まで戦い抜くんだ」
「何か熱くていいことを言ってる感じがするけど、スポーツ用品店でもなければ、バットとグローブで戦う商人なんていないだろうが」と勇は思ったままに鋭いツッコミを入れた。
「ゴン、この研ぎたての日本刀みたいな切れるツッコミを入れる坊やは?」
「ふふっ、そいつは神名勇と言って我が相棒でもある。そして今回に限っては、この聖戦用に手配した傭兵でもある」
「何ぃ、傭兵?本来の部隊メンバーだけで戦うのが戦士の意地ってもんだろうが!」
ここでスエヨシは、荒れた口調で権之内に言い放った。
「だとは思う!外部からの協力者無くして勝てれば確かにそれが良い。だがな、意地よりも肝心なのは、勝利の栄冠を勝ち取ることだ。そいつは間違いなく軍団の力を底上げする。軍団を盤石にするための手札であれば、ザコからジョーカーまで全て切って挑むべきだ!そうだろスエヨシのオヤジ」
「ふふっ、それもそうだ。言うようになったじゃねぇかゴン」
「ふふっ、俺をそこまで言えるように鍛えたのは、他でもないあんたじゃないか」
二人の戦士は、気持ち悪くほくそ笑みあう。そして、これまで戦いを共にしてきた者同士特有の空気感の中で分かり合っていた。
「この街は本当に変な奴しかいないのよ……」と言いながら勇は、横にいる一世を見た。
「いいなぁ~なんかいいなぁ~。同志の、または師弟の間柄だからこそ互いを分かり合って協力している。この関係性には、なんか燃えるものがあるよな。な、勇?」と一世は聞いてくるが、勇は無視した。




