第二十二話 海より陸に吹きし台風
権之内貴一を知っているだろうか。
ここフラッシュコブラシティには、変人だって幾人か暮らしている。彼もその内の一人である。
今日は、そんな愛すべき我が街の変人に迫って行こう。
「こんにちはぁ~!」
「あっ!まなみさん、お久しぶりっす。いや~相変わらずやってんですね~。美・魔・女」
「え?おだててなんてないっすよ。見たままを言っただけのこと」
「ああ最近ですか?最近は海にいるばかりで、陸を踏むのが久しいって感じっすよ。あっコレ、そんな海より頂いてきたお土産です。新鮮過ぎて良い味出しますよ~。食ったら若返っちゃいますよ~」
「おっとそうだ!本来の目的があったんだ。相棒、いや、横にイコールを置いて、勇いますか?」
「…………」
「おい!探したぜ勇、いや相棒!どこにいたんだよお前!」
「うん?うんそう、ずっと家にいた?なるほど~」
「え!何?まなみさんのことを名前で呼ぶなって?だったらあの美魔女はどこの誰なんだよ?」
「ふむふむ、そうかそうか。でもさ、人類皆、素敵にして美しい名前をそれぞれ持ってるだろ?じゃあ呼ぼうよ!」
「なに?母親を下の名前で呼ばれるのには抵抗がある?何だよ~お前反抗期かよ、抵抗すんなよぉ~。悔しかったらお前も呼んでみろよ~」
「は?何で来ただと?この韋駄天の足で駆けって来たに決まってるだろ?」
「えっ、手段でなく理由を言えだと?そのボケはもう擦り倒した後だって?俺は擦った覚えなんてないよ」
「理由なら予想もつくだろ?ほら、行くぞ町内会対抗野球合戦だ!」
「え!微塵も予想が付かなかった?まあいいや、未来は教えたんだから、あとは秒でGOだ!」
「え、一世が来てる?みっちゃんもだぁ?」
「そりゃ丁度良い。賑やかしが一、ギャルの黄色い声援も一だ。皆連れてこい!」
「はっ?ゴライアス?」
「ゴライアスゥ……なんだったけなぁ……」
「あっ!あれか!読売軍のマスコットキャラだっけか!あのウサギのやつ」
「いいじゃん!いいじゃん!マスコットまでいるのか。町内会のおっさん共も喜ぶぜ。ゴライアスも連れて来いよ。ん?というかマスコットが家にいるってお前、どんな状況よ~はっは~!」
「うん?読売軍のマスコットキャラじゃない?全く似ても似つかない名前だって?じゃあ何なんだよそれ」
「転校生?転校生だって?」
「ふむふむ、俺がいない間に我がクラスに転校生?まぁ転校生でも在校生でも何でも良いや、まとめて面倒見るぜ!さぁ行こう!」
「待てだって?おいおい、海にいた俺を丘で待っていたのはお前の方だろ?次はお前が俺を待たせるだなんて、順番があべこべだぜ」
「はあ、そもそも待つ待たせるの間柄じゃないって?連れないこと言うなよお前」
「野球のことなんて全く聞いてない?そりゃそうだ、言ってないもん」
「この俺がどんな頭で動いて喋ってるかって?おいおい、お前程俺を知る男が今更何を言うんだ……自分でも分からん」
「まぁまぁ、そう大きな声するなよ」
「ユニフォーム?そんなもんいらん。あれは本来腕に通すものじゃない。心にこそ着せるものだ。で、お前はもう着たんだろ、心に。じゃあ何も問題ないさ、行こっ」
「それより今は異世界のことについて話し合ってる?はぁ、なんだそれ、どこの世界だ?」
「まあいいから、どこの世界にだって行きたきゃ行けよ。俺は止めはしないから。その代わり、俺へのお土産はマストだぜ!でも今はまず、俺と来てバットを振れ。旅行はそれからでも遅くないって」
「旅行じゃない?異世界っていう国のことじゃない?」
「ふ~む、分からん。考えるのも面倒だ」
「とにかく行こう!今日は俺たちでアメジストに旋風を起こしてやろうぜ!」
「え?ソレを言うならダイヤモンド?はは~、そうとも言うよな!」
こうして神名家を訪れた台風は、勇を連れてまた次の地へと移動するのである。




