第二十一話 ゴライアスの異世界討論答え合わせ
ゴライアスは勇のベッドに腰掛け、床に座る現地民達にアンサーを言い渡す。
「まぁ君達がああだこうだと言い合って実にハッスルしたことについて、異世界を一番良く知るこの僕が、出来る範囲の答え合わせをしておこう」
「ほう、コレは良いぞ!そういや転校生は、生で異世界をしゃぶり尽くした貴重な存在じゃないか!貴重な意見もたくさん聞きたいぞ!」
一世は話を聞きたくて仕方ない様子だ。とてもうるさい。
「おい、一世!煎餅を口に入れたまま喋るな!口からも飛ぶし、あとお前普通に食い方が下手なんだよ!見てみろやコレ!」と言って勇は一世の足元を指差す。煎餅のカスがたくさん落ちていた。
「お前、ゴミ箱の上で食えや」
勇は一世の前にゴミ箱を置いた。
「おっと、これはすまんすまん」
一世はゴミ箱の上にボロボロと食いカスを落とすのだった。
「君たち、本当に良いコンビだよね……」ゴライアスは呆れて言うのだった。
「ハハッ、二人に一人には言われるよ」と返す間にも一世は口から煎餅のカスを飛ばすのだった。
「それでだね。こういった絵空事がたっぷり書かれた本についてだが、まず主人公のことだ」
ゴライアスの異世界講習が滑らかにスタートした。
「一世が置いて行った本に出てくるろくでもない主人公達、勇者鈍作、ミツマメ、男願、則武、コイツらは揃いも揃って日本ではニートとヒッキーの二刀流を決め込む困った連中だった。でも、原作一巻のかなり速い段階で異世界に行って勇者になった」
「そうそう、そういやコイツらが異世界に行くまでの流れも雑っていうか。何で行ったのか、その理由がはっきりしないのもザラにあるよな。なんか寝て起きたら入りこんでいたとかさ。とにかく異世界に行きたがって、そこまでの流れがテキトーなんだよ。ついでに行った後もな」
勇が痛い点にツッコミを入れる。
「ああ、良いんだよそれは。これは文学ではなく、オタク共が楽しむラノベなんだから。ラノベにはそういうしっかりした流れとかいらないの。まぁ言うなら、さっさとハイライトに入って、またそれの連続っていう美味しいところ取りの構成で良いんだよ。過程を大事にする物語性も確かに良いけど、ラノベってのは、そんなに集中力がない奴でもサクッと読める良さが武器なんだからさ。堅いことは言いっこ無しで、サクサクと謎だって飛ばして行けばいいの。剣と魔法のバトル、そんで可愛いヒロインと萌え萌えキュンキュンでムフフな展開だけ羅列していけば、皆笑顔で無事裏表紙まで辿りついてくれるってもんなの。いいか、もう一度言うが、文学青年の頭でラノベを考えて語るな。これは極限まで頭を空っぽにして楽しむ娯楽なの」
ラノベはこうあるべきという基礎が一世の口から語られた。
「一世、お前……言いたいことは分かるけど、自分の趣味なのに、それはディスりにも聞こえてこないか?」
「ああ、もう!君たち、また討論に入って行きそうな流れを産むんじゃない。とりあえず納得してもらえるであろう異世界の真実だけを僕が話すから」
二人がごちゃごちゃとうるさいので、仕切り直してまたゴライアスは喋り出す。
「で、はっきりと真実の答えを言っておくが、この手の主人公が勇者に選ばれることはない!」
「え!そうなのか!じゃあ無職のヒッキーが勇者になるってのは、現実ではまるっきり嘘話になるのか?」
一世が勢い良く問う。
「いや、無職やヒッキーがどうのではない。こちらでも勇者を選ぶ基準ってのがある。誰でもなれたらそれはそれで問題だろ?別に無職だろうが社畜だろうが、放浪者だろうがヒッキーだろうが、そのラインを越えていれば問題ないのだ。ただ、人柄ってのはどうしても重要視する」
一世と勇は集中して聞いている。
「勇者を決めるにあたって、知能の高さ、そして運動能力の高さが締めるウェイトは大きい。そして人柄。強く、賢くても、それを悪事に使う奴じゃ世界を平和に導くことなんて出来やしない。勇者ってのは、やはり良い人間でないといけない。一世の寄越したラノベに出てくる奴らは、まず根暗だろ。そして人より能力が劣るくせして、どういうわけか自分よりも能力の高い者を下に見たがる。無駄にマウントを取るのに必死な、矮小にして下卑た奴ばかりだ。そしてコミュ障と来ている。これらの要素は何も勇者に限らず、日本でサラリーマンをするにも向かないだろ?それからとにかく僕は根暗な奴が嫌いなんだよね。皆そうでしょ?これから魔王を退治に行くのに、勇者が根暗って、だったら他の仲間も嫌がるでしょ?」
一世と勇はやや難しい顔をする。確かにゴライアスの言っていることは正しく、分かりやすい。だが、改めてそんな悲しい人間の特性を説明されると、気の毒にもなってきて、やはり良い気分はしないのである。
「勇者はもちろん強くないといけない。弱かったら殺されて終わりだからね。旅の途中で新たな仲間を迎えることもあり、途中では宿屋、道具屋、防具屋、武器屋、協会にだって寄る。それらの場合には、コミュニケーション能力は大切なこととなる。人と関わる基本ができなきゃいけない。その点を全て踏まえて見ていくと、勇は合格だ。勇は学業成績、身体能力は常人のそれを突破している。そして、異世界からの使いが来たって激しく動じない、一世のような変な同級生とだってやりあう術も持っている。コミュニケーション能力も抜群だね」
褒められたけど、なんだか微妙に嬉しくない勇だった。
「こちらの世界ではダメだったけど、異世界ではやり直しの物語を!なんてテイストの物もラノベにはあったね。でも、これもまた現実を知る僕から言うと、現実的ではない。日本でダメなら、異世界に行ってもダメ。厳しいけど、何をやってもダメな奴ってのはいるんだよ。これもはっきりさせておくけど、日本よりも異世界こそ、生きていくにはより厳しい。階級制度をうるさく言う地域もいくらかあるし、無秩序に命を狩ることを本能とする怖い魔物が日々うろつく世界でもある。弱い人間がもっと暮らしにくいのが僕らの世界だ。あちらの世界だって素晴らしいが、日本と比べると、強者にも弱者にも厳しい。それを思えば、日本は質を問わず人間とつくものにはかなり優しい世界だよ。異世界は楽が出来るなんて大きな間違いだ」
「へぇ、夢の世界とばかり思っていたけど、すごいシビアなんだなぁ」
そんなに厳しいと聞くと、異世界大好きの一世は複雑な気持ちになるのだった。
「ラノベに出てくるチート能力みたいなのを現実で使えるのは、それに応じただけの能力がある者だけだよ。少なくとも、日本で日々暗い部屋に引きこもっているような者じゃチート能力並の技を出すのは無理。まず体力がないだろ?毎日家にいて運動しない奴が、いきなり走って飛んで最強技なんて無理なの」
ここでゴライアスは一世を見る。
「しかし、面白いと思えるのは一世、君だ。君は激しくオタクだが、相当動けるね?頭も切れる。そして、実にべらべら喋るユニークなスキルも本能から身について、多分死ぬまで忘れないだろう」
「そうだそうだ。動けるオタクだからなオレは!」
「うんそれは分かったから、いい加減君は、こぼさず煎餅を食べる能力の開発に勤しんだ方が良い」
一世はやっぱり食べ散らかしていた。
「なぁ勇がダメなら俺で良いじゃん?俺ならすぐ行っちゃうよ、夢の異世界冒険にすぐ行っちゃうよ」
一世は勇者交代を申し出た。
「実を言うとね一世、君だって勇者の適正として申し分ないのだよ」
「ええ!そうなの!じゃあ勇者交代しようぜ!」
「まぁ聞け。でもダメなんだよ。勇者は、一度に複数存在しない。勇者として決定された者は唯一人のみ。もしもの候補なんてのも立てない。勇に決まったらもうずっとそれ一択で行くの」
「ええ?何で先に勇で決定したんだよ?」
「ふ~む、それはな。まぁ総合的な点で言うと、勇の方がより勇者向きだったとは思う。でも、大差なく良い感じに勇者向けな者が複数出てきたら、その場合には誕生日が早い順で決まる。一世、君よりも勇の方が生まれが速いね」
「あぁ!そういやそうだ。勇の方が一週間生まれたのが早いんだ」
一世は残念がる。
「でもね、一世。これだけは絶対の真実で、君に嬉しい話もある」
「なんだ!」
「絶対に異世界の方が美人が多いってことだ!」
「キャホーイ!」
一世は騒ぎ出した。
「まぁここ一週間ちょっと、僕がこちらで暮らした経験からものを言わせてもらうよ。こちらの世界では、そうだな……街で20人にすれ違えば、一人か二人は美人が見つかるって割合かな。そこへ来ると、異世界なら3人に一人はまず間違いなく美人がいる」
「方法!やっぱり異世界ってのは萌えヒロインホイホイなんだな!」
「何を言ってるのか謎だが、まぁたくさんの美女がいるのは間違いない。勇と一世の好物である胸部がふくよかな美女エルフもたくさんいて、簡単に出会えるよ。あと男だって綺麗なのがたくさんいるよ」と言ってゴライアスはみっちゃんを見る。
「最恐レックスはいるの?」とみっちゃんは返した。
「うん、それはどうだろう。多分いないと思う」
「やっぱり、異種族ハーレムだけはちゃんとあったんだ!ラノベの中にだって真実がある。スケベなことばかり考えてこれを書いている作家共に教えてやりたいぜ。お前達の頭の中にある花咲きまくりな楽園は確かにあるってな」
一世は感動していた。
「それはおすすめしないね。イマジネーションの力は、時に物理の力を凌駕する。腕っぷしはなくとも、イマジネーションを武器にする戦士が作家だ。そこはあえてアンサーを与えない方が良い。現実を知ったことで、彼らの武器であるイマジネーションに靄がかかるかもしれないからね」
答えを探している奴に、親切に答えを教えることが必ずしも善行であるとは言えない。そんな微妙な駆け引きを語って聞かせるゴライアスだった。




