第十八話 異世界より帰還した時が第一歩のニューストーリー!『異世界から帰還した勇者は変わりすぎた世界にびっくらこく!~やり直せ!我が国~』第一話
「あ~淀んでいる!淀んでいるなぁ~。このいい感じに生ゴミ臭さや排気ガス臭が混じり合った空気が、全く好きじゃないのに、ザ・いつものって感じがして心地よい」
両手を広げ、河原崎則武は、淀んだ空気を肺一杯に詰め込む。
「これぞ日の丸大国ニポーネだ!このチープにして品のない町並みを見よ!」
汚い路地裏、誰が見てもゴミ出しのマナーの悪さが分かるアパートのゴミ置き場に目を向けて則武は言う。
そこらの電柱の下を見れば、品性の欠片だって持ち合わせていない中年層の弱った命が横たわっている。
「品性の無さは国民性にも見えると言うもの!だが、それゆえココは良い!悪いのに逆に良い!」
ついさっきまで則武がいたのは、不浄な存在を一切認めない清潔にして高潔なだけの国『スシュムナンド王国』だった。国名が気になって地球儀を回しても無意味だぜ。スシュムナンド王国は、異世界にある王国の一つなのだ。地球儀をいくら回したって一生見つかりはしない。
国土も国民も全部が美しい世界に則武はいた。だが、毒味が皆無な世界に則武は窮屈さを覚えていた。嘘をついたり、ちょっとの悪さもない世の中だと、人間同士のトラブルは確かになくなる。しかし、それで良いものか。もっと愚かなところがあって、そこを許して愛してを続けるのが、人間関係の醍醐味なのでは?ニポーネの生活を離れた則武は、そんなことを考えるようになっていた。だから、愚かしく汚いこの世界、そこに暮らす人間たちにこそ、逆に真実性を見て、愛着を持つようになった。
やはり自分が生きるのはこちらの世界だ。向こうの世界では、勇者だの英雄だのと祭り上げられたが、自分のようにそれまで自堕落なニート生活を極めていた者が、次元を越えれば超絶すごい超人扱いになるものか?それこそ嘘臭く、最も真実性に欠けることだと思っった。この際、綺麗や汚いは問題ではない。自分は自分らしくある真実が欲しい。則武はそんな悟りの境地に立っていた。
デコボコで質の悪い道路を則武は進む。角を曲がると、黒服の大男がこちらに歩いてくるのが見える。
「むむっ、見ない顔だな?」
大男が則武に声をかけた。
「そりゃそうさ。だって僕はあなたに顔を見せに行ったことがない。僕もあなたを見たことはない。僕達が顔を合わすのは初めてのことのはずだ」
則武は自分の記憶を辿る。そしてこれがお初の顔合わせだという答えに辿り着いた。
「なんだ?よく分からんことを言う奴だ。おいお前、ここの許可証は持ってるのか?」
「は?ここの許可証?なんだそれ?」
「許可証は許可証だ。ここ独立帝国『シゲオキングダム』の滞在許可証だよ」
「は?何言ってんだ?異世界から帰ったばかりなのに、また次の異世界からの使者か?もういいよ、僕はここニッポーネで慎ましく生きていくんだから。じゃあね」
訳の分からないことを言う大男をかわし、則武は歩を進めた。
「おい!待てこら!」
大男は則武の肩を強く掴んだ。
「何をするんだ。離さないか」
「いいや駄目だ。許可証を持たない奴の侵入は禁止されている。シゲオ様からのお達しだ。そんなふざけた奴がいたらぶちのめせってね」
「シゲオ?はて?誰なんだ?ちょっと待って、考える」
則武は考える。それは彼の得意とすることだからだ。
大男は許可証を求めている。だがそんなものは持っていない。そしてここが独立帝国とか言う謎の地であると言い、シゲオなる者がこいつのボスらしい。自分は昨日まで最強勇者をやっていて、ちょっとは武力も身についたはず。しかし、あくまでもちょっとであり、ここでこの大男と揉めてもまず力では勝てない。ここはとにかく大人しく出て、穏便に終わるようにしよう。
「許可証を持っていないルール違反者は、やはりシゲオという者の下に連行され、その後の処分が決まるのだろう?」
「ああ、まあな」
「よし、じゃああなたの仕事もスムーズになるだろうし、僕は抵抗しないから、シゲオ様の下に案内してよ」
奇妙過ぎる。がしかし、これは話が速くて良いと思った大男は、則武をシゲオの下に連行するのだった。
そしてところ変わって、ここはシゲオキングダムの王宮の最上階にあるシゲオの自室である。
「なんだコレ!なんだコレ!あの地味なニッポーネに、なんつう王宮を作っているんだ!ビックリだ!おかしいなぁ。これじゃ昨日までいた異世界並にファンタジックじゃないか。僕が帰ってきたのは本当にニッポーネなのか!」
お縄についてもなお口は自由なものだから、則武はたくさん喋る。
シゲオの衛兵であるたくさんの黒服は、頭がおかしい奴が捕まったと思って則武のことを見ているのだった。
「お前が侵入者の異世界勇者か?」
見るからに高級そうな椅子に座ってそう尋ねたのは、ここのボス、シゲオだった。
「部下から話は聞いたぞ。なんでも勇者をやっていたとか?」
「うんうん。まさにそう」
「ふふ、はっっは~!なんて面白い奴が捕まったんだ!」
シゲオは笑い飛ばした。
「よし、勇者、お前はここの参謀になれ。部下からの聴取報告によると、どうせ仕事もないのだろう?」
「うん。仕事はないよ。僕は会社を求めず、会社も僕みたいな者は必要としないだろう。社への忠誠心がゼロだからね。僕が社長だったら、こういう人間とは働きたくないって自分でも思うよ」
その通り、則武は社会との繋がりを一切求めず、繋がりを必要とする人間でもなかった。これまで社会の中で労働したことがなく、この先だって労働先を探す予定はなかった。
「うんうん。それは良かった。ここでは労働しない者は、首から上を吹っ飛ばすか、首から下を吹っ飛ばすかして始末をつけるんだ」
シゲオがそう言った時、衛兵がまたお縄にされた者を連れてきた。
「シゲオ様、この者は、日がな電柱の根本でゴロゴロして命と時間を無駄にする不届き者です!如何様に処分しましょうか?」
「首より上か下、お前の好きな方を選んで吹っ飛ばせ」
「はっ!それでは首より上をふっ飛ばすことにします!」言うと衛兵は、汚く弱った命を繋いだロープを引いて退室した。ロープに繋がれたのは、先程則武が街で見かけた顔と同じだった。
そして則武は思う。「どうせふっ飛ばすのなら首から上も下も一緒じゃね?」と。
「ははっ、これまた素晴らしく気持ち良い政策を進める国なんだね」
「まぁな。良い国を目指して頑張っているから。という訳でお前は我が国の参謀に決定した」
「しかし君、それでいいのかい?僕の前職は勇者だが、それを除けば唯のニートだよ?」
「お前は異次元の文化も知る貴重な人材じゃないか。自分を低く見るではない。その知識は我が国で役立ててもらおう。なに、どこの社畜だって、始めてそれをやる前は皆無職だっただろ?お前は学生を人の半分だけ経験し、会社員を一切やらず、人の数十倍ニートをし、誰もやったことがない勇者をやった。これからはちゃんとしたポストについて仕事をする。そこに行き着くまでの過程で、お前は人とは違った経験をしているんだから、その分お得だとも考えられないか?俺は今日までのお前の人生を何も否定しやしないさ」
「ふむふむ。シゲオの言うことも一理ある。僕は唯のヒッキーやニートとは一線を画する。なにせ異世界で勇者を経験しているのだから」
シゲオが自分の経歴を信じ、そして称賛すらしてくれたことが少し嬉しかった。
「ところでシゲオ、教えてくれ。僕はしばらくこの世界にいなかった。君が新しい国を作ったなら、前の国、つまりニッポーネはどうなったんだ?」
「なくなったよ」
「え?」
「だからなくなったんだよニッポーネは」
「本当!なんで?」
「本当だ。ほら、これが最新の地図だ。もう名前がないだろ?」
シゲオは先日刷られた新しき地図を投げた。それを見た則武は驚愕する。以前と同じサイズ、同じ列島が見えるが、ニッポーネの名前はそこから消えていた。
「まずは国がなくなったのが本当だってことが分かっただろ?」
「うん」
「次にだが、そうだなぁ……今はすっかり最新式に換えたけど、その昔俺は、ゴミが溜まったら中のパックを新しいものに取り替えてまた使うタイプのボロい掃除機を使っていたんだ。ゴミが溜まりまくったパックは、その後どうなると思う?」
「そりゃゴミ箱行きだろ?」
「正解!この問と答えをそのままシフトしたら、それがニッポーネのなくなった顛末と合致する」
「え……?」
則武はまだ混乱している。
「組織、地域、国家、そしてこの星だって同じことが言えるだろう。淘汰されるものは、されるべくして消えて行く。お前がいない間、大きな病気が地球を覆った。まぁ未曾有のことで誰もが麻痺して仕方ないとも思える状況だったが、それでも機能し続けなければならないこの国は停滞してしまった。政治が止まった。終わったんだ」
「それで、なぜ国家がなくなる?」
「国は、国民を守るべく動く。それをしないなら存在の意味はない。そしてニッポーネはその意味を無くした。必要なくなった掃除機内のパックはどこに行ったか、先程答え合わせをしたよな?もう国会も国家も全てが解散済みだ」
「え?総理大臣ってのがいたと思うけど、あれはどうなったの?何をしてるの?」
「政治が終わったならそんなのお払い箱さ。ニッポーネ最後の総理大臣は、現在動画配信者として活躍している。結構評判が良いって聞くぞ。いまだかつてない広範囲にトランプを並べて真剣衰弱をするっていう企画がバズってな。国境を越えてカードを捲りに行くんだぜ。すごいアイデアを思いつくよな」
「国境を越えて並べたカードを捲るって、それもう並んでいないじゃんか」
「世界地図で見れば並んでるって話だろ?」
則武は頭を抱える。元総理大臣は、頭のおかしくなる程広範囲に渡ってトランプの真剣衰弱をしている。そんな馬鹿げた世界になっているとは……。議員時代に稼いだ金の使い道としては、話題を呼ぶ上手いものだとやや感心もしたが、やはり嘆かわしい。
「勇者、いや参謀則武、お前には何か光るものを感じる。俺は独裁者や魔王なんかとは違う。もう終わったものは終わったのだから一回忘れて、これからは俺と新しい国を作ろう。国は無くとも、元国民達が、これからここの新国民になる人間が、この列島にはまだ生き残っている。これまで列島まるごとを囲んで『国』というコミュニティで繋がっていた者達が、皆『個』という単一の命へとバラけてしまった。だが、皆は属するコミュニティを欲している。それを作って確固たる次の国を大きくして行こう。まだシゲオキングダムは始まったばかりだ。協力者はもっと欲しい」
ふざけた王様だと思わなくもなかったシゲオの目には、強き光が宿っている。ボスとして君臨することに酔い、快楽を求める狂人の主ではない。シゲオには、大きな組織の頭を張るに適した他者への配慮と、人心を惹き付けるカリスマ性がある。則武は、シゲオの言葉と眼差しに人間の本気を見た。
「シゲオ、君はふざけた王様ではなかったのだね。失礼を詫びよう」
「え、そう思ってたんだ」
「まぁどうせ僕はニートだし、やることないし、もう勇者も飽きたし、そこへ来て次には国を一からやり直そうなんてすごい冒険が待っているんだ。これは乗ろう!それにここではニートをしていたら首より上か下を吹っ飛ばされるんだろ?」
「ああ、そうさ」
則武は一歩前に出た。
「見せてもらうじゃないかシゲオ!君が一体どんな国を作っていくのか。シゲオキングダムの創世記から完成までを、この勇者参謀が見届けてやろう!」
「ああ!やり直そう。この国を完成させよう。夢のシゲオキングダムを!」
シゲオは我が手を取れと言わんばかりに右手を差し出した。
「あのさシゲオ、その手を僕が取るためにも、あの大男に言って僕の体をぐるぐる巻にしているこの縄を解かせてよ」
「ああ、すまん」
こうして新たなる王シゲオと元勇者の参謀則武は、手を取り合い、新たな国を再びこの列島に打ち立て行く決心を固めたのである。
続く
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「異世界から帰ってきて始まるパターンなのか、これはちょっと新しい!」
次話に続くページを捲る手を止め、勇は第一話終了ページに栞を挟む。今日は疲れたのでもう読書は終わりだ。
「勇は安心して勇者をやるといいよ。君が異世界に行って帰る間に、日本が無くなるなんてことは絶対にありはしないからさ」
ゴライアスは今日も勇の部屋でラノベを読んでいる。
「はっは~そうきう来たか!異世界から帰ったら行方不明のお尋ね者にされている!しかし、これを読んだ人達は、異世界から来た使者は勇者の時間の都合を考えないダメな奴って思うだろう。僕ならこんなミスはしない。勇者が気持ちよく行って帰れるよう、時間の都合もなんとかするのが一流の勇者派大使だよね?」とゴライアスは勇に問う。
「知らん!」のみ返す勇だった。




