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第十六話 最強の両生類現る!『異世界迷宮ゴソソンユン 最恐レックス篇』

 昨日も今日も、いつだって目にするのが嫌になる程奥が深い謎迷宮、それがゴソソンユンだ。

 ドクターカタギリを相棒に迎え、本日も勇者ヨシノリ・ミツマメは迷宮に潜る。


「は!」

 ヨシノリは、敏感肌でそれを感じた。それが何かは、この後すぐ彼の口から明らかにされる。


「ドクター!ちょっとココ!立って見ろよ」


 ヨシノリに言われるがまま、カタギリは彼の言うココに立つ。


「なっ!分かるだろ?ココから床の色が変わっているんだけど、こっちとそっちで明らかに温度が違う。こっちは暑い、向こうはちょっぴりヒンヤリ。こんなに露骨に寒暖差があるなんて、ここの空調整備は一体どうなっているんだろうな?」


 未知なる地の未知なる施設の中でこんな発見をしたからには嬉しくて仕方ないヨシノリだった。そんなヨシノリを見て、カタギリはくすりと笑う。そして言葉を返す。


「だが、気をつけろ。温度差による環境の違いによって、ここからはモンスターの分布も異なるはずだ。寒い所で生きていけない強敵は暑い地に、その逆で暑い地で生きていけない強敵は寒い地に生息する」

 インテリらしく的確にモンスターの生息地を計算しての発言だった。


「へへっ、気合が入るってものよ」

 ヨシノリはその瞳に更なる緊張感と高揚感を宿すのだった。


 しばらくの探索を続けど、これといってモンスターにもお宝にも遭遇することはなかった。溜まる疲労感の中で、二人の緊張感もやや緩んだその時、状況を一変させる何かが襲来する。


 足音が聞こえる。ずしりずしりという重い足音。これがガリガリのもやしっ子のものだとは到底思えない。向かってくる何者かは、とにかく大柄だと確信出来た。そしてピリつく空気を察知することで、勘の良いヨシノリには、姿が見えずとも相手はデカイだけでなく強いということも理解出来た。


 ヨシノリとカタギリは、その場から動けず、ゆっくりと近づく敵をただ待つだけだった。

 やがて影の中からニュッと現れたのは、予想以上に大きな異形の者だった。凶悪な牙が目立つ口元が一番最初に目につく、次いで鋭い目つき。人間とは顔の骨格が違う。二足歩行をしているが、顔を見るに、これは昔見た図鑑やどこぞのブランドのマスコットにもなっているあの生物『ワニ』そのものだとヨシノリは理解した。


 それまで日本の田舎、それも山の中に暮らしていたヨシノリは、どこぞの大川に棲むようなワニを実際に見たことはない。だがこれは間違いなく二足歩行するワニの戦士だと思えた。ゲームなどに良く出てくるリザードマンというのがコレとイコールするのだろう。


「ワ、ワニ!?」

 驚きと疑問をこめたボリューム高めな一声がヨシノリの口から飛び出した。


「構えろヨシノリ!この見た目で味方な訳がない!」

 カタギリの指示は的確だった。だってこのワニ戦士は、魔王より勇者の抹殺を命じられし者だったからだ。何をおいても勇者ヨシノリを消すことがワニの目標である。


「俺は魔王軍団一の戦士最恐レックス」

 最恐レックスなるワニ男は高らかに名乗りを上げた。


「何!自分で最強を言うのか!同じく最強を自負するこの勇者の前でその図太さ、万死に値する!」


 こと最強の称号に於いて他者の追随を許さない最強勇者ヨシノリは、最恐レックスに飛びかかった。だがヨシノリは知らない。最強ではなく最恐だということを。


 勇者の剣『オロチカリバーマックス』が、最恐レックスの脳髄を割るまで残すところ数秒だ。剣を振り下ろした本人も、側で見ていたカタギリもそう思った。だがしかし、現実は二人の予想とは大きく異る展開を迎える。


 最恐レックスの頭に届かない位置で剣は動きを止めてしまう。なんと剣は、最恐レックスの大きな両手に挟まれて急激なる静止を迎えていた。いわゆる真剣白刃取りの形を取って、剣の運動能力は殺されていた。

 このような大きな図体のワニ男に、こんなにスピーディーにして器用なアクションが出来るとは全く予想してなかったヨシノリ、カタギリ両名は言葉を失うのである。


 勇者の攻撃の手が止めば、お次は透かさず最恐レックスに攻撃の番が周る。誰にも合図は出さない。最恐レックスの攻撃の手は高速にして重い。二撃目はなかった。光の速さで放たれた最恐レックスの拳は、ヨシノリの腹を貫通していた。


 一体何が起きたのか、脳内を整理して理解するまでに時間がかかった。ヨシノリよりも先に事態のヤバさに気づいたのは、頭の回転速度が常人を遥かに上回るカタギリだった。


「ヨシノリ!」

 やることはたくさんあり、かける言葉ももっとある。だがまず口から飛び出したのは勇者の名前だった。


 ドサッと重い音を立て、ヨシノリの四肢が床に落ちる。床は即座に真っ赤に染まる。赤はどんどん広がり、床が最初何色だったのか、もはや分からない。


「ヨシノリ!しっかりしろ!傷は浅いぞ!」


 カタギリは回復魔法を発動させる。間に合うのか、回復させたところで、ヨシノリの体力消耗の速さを上回る自信がない。それほどにヨシノリの負傷の程度はヤバいものだった。


「ハハッ、バカかお前……こんなにデカい穴が空いてんだぞ……これで傷が浅いって、その眼鏡、ちゃんと度が入ってんのか……」


 精一杯のジョークを飛ばす。どんなに空気が読めないバカでも、これが空元気であることは一目瞭然だ。

 ヨシノリの顔が一気に青くなる。明らかに血液が足りていない。医療経験のないバカでも明らかに分かる人体の異常が起きている。


 友人を一撃で討った強敵は、目の前1メートル以内にまだいる。再び拳を振り下ろされた時、パーティーの運命が終わる。そんな危険を分かった上でも、カタギリはヨシノリの応急処置以外の全てを無視した。四の五のを考えて言う暇もない。今は目の前の負傷者の回復を行わないことには、次の一手を講じる段階にさえ繋がらない。


 腹に大穴が空いている。ちょっと怪我をしたから縫って貼ってで治せるなんて域を出ている。そこに詰まっていた臓器がない。最恐レックスの拳により、それも床に飛び散っていた。散った臓器をかき集めて詰めることで治すなどというおもちゃの修理のようなことは出来ない。

 もう自分は駄目だ。ヨシノリはそう思わずにはいられない絶望の中にあった。その絶望はカタギリにも伝染する。次にはカタギリの顔までが青くなる。


「目を開けるんだ!閉じるな!大丈夫だコレくらい……」


 死に瀕した友を元気づけるための一言だったはずが、襲いかかる恐怖により、途中からカタギリの声は震えていた。


 死ぬ。目の前の勇者は自分が下した攻撃により確実に死ぬ。逞しき視力を宿した最恐レックスの瞳には、消えゆく生と同時に、訪れる死がはっきりと見えていた。

 舞い降りる死の下で友人を生かすために必死な医者がいる。最恐レックスにはこの構図が儚く虚しいものに思えた。


「こんなものか……」

 あっさりと使命を終えたことへの感想がこれだった。


 抹殺命令が下った対象は勇者のみ。こんな医者までも殺して拳を再び鮮血で汚すことはないだろう。勇者を失えば、医者ごときが一人でここを戻るも進むも出来やしない。きっと他のモンスターに狩られて終わりだ。これで自分の仕事は終わった。

 最恐レックスは一行に背を向けた。最恐レックス程の戦士に油断はない。彼が相手に背を向ける時は、二度と再び反撃がない時。つまり全てが終わった瞬間だった。再び大きな足音を立てて最恐レックスは歩み出す。



 それからしばらく。

 魔王の座の前についた最恐レックスは、勇者を討った報告を済ませる。勇者を亡き者にしたことで、魔王はご満悦な様子を示す。


「約束の褒美だ。何でも願いを言うが良い」


 勇者の首を取った暁には、何でも一つ望みを叶える約束があったのだ。


「では魔王、この俺の名前をなんとかしてもらいたい」

「へ?」

「この最恐レックスという名前、そのなんというか、名乗るのに恥ずかしいこともあり……多くの者は自分で『最強』と言っていると勘違いするし、それに安易というか、レックスという点を見ても、その手の種族の総称といった感じがして、俺だけを示す独自性がいまいち感じられず……」

「な、何を言うのだ最恐レックス。お前は戦士として最も強く、恐ろしい。この俺だって明日からお前が敵に周るというなら、それこそ震えが走る。強さと怖さを合わせ、そして恐竜っぽい、この全ての情報を詰めたザ・お前感がある名前が最恐レックスではないか」

「いや、だからその方向性ではない新たな名前を……それだけが願いだ」

「……ダメ」


 その願いは却下。これが魔王の答えだった。魔王は自分でつけた最恐レックスの名を気に入っていたのだ。


                                         続く

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「なるほど。静と動、ガチとコミカル、テンションの切り替えの幅が広いことも、娯楽性溢れるラノベ特有の魅せ方なのか。しかし最恐レックスのネーミングセンスは……これはナイスなものとして評価出来ないな」


 勇は分析に入り、納得したりツッコんだりする。


「なぁ、お前の世界にもいるのか?最恐レックス」

 机に向き合っていた勇は、振り向いて質問を飛ばした。


「んや?いないよ、そんな間抜けな名前のモンスターなんて」

 ボリボリと煎餅を食いながらゴライアスは返した。いつの間にか勇の自室に入り浸るようになり、彼もまた暇潰しと勉強を兼ねて一世が置いて帰った本を読んでいた。


「はっは~、なんだよコレ!結局最後はニートに逆戻りするのか~」

 ゴライアスは、先日勇が読破して床に投げたままだった『長井鈍作の異世界勇者紀行』の最終巻を読んでいた。

 本作は、アニメ、ドラマCD、実写映画と広くメディア展開されたこの手のジャンルのヒット作である。

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