第十四話 勇、学ぶ
「勇、お前は異世界ファンタジーの良さを何も分かっていない。いいか、これは良いものなんだよ。俺は価値観の押し付けをすることは悪だと思っている。俺が良いと思うものは、他でもない俺自身が最高に楽しめたらそれで満足だ。他の連中にも一緒に楽しめと強要しようとは思わない。する必要と暇がない。だがしかし、今回のことはとにかく特別だ。勇は向こう様に勇者として選ばれたんだ。ならば、選ばれた者として、最低限異世界を理解すべく向き合うべきだ。行く、行かないの答えよりも前に、誠意ある態度で事に臨むことが大事だ。分かるよな?この俺もそう、あの転校生もそう、皆浮ついた心で異世界に向き合っているわけではない。本気で向き合っているのだ。そんな高潔な考えを、勇者に選ばれたお前程の男が軽んじていいわけがない!」
言っていることの整合性の是非については、たくさん喋るものだからよく分からない。そう思う中でも、とにかく熱い一世の態度に、いつものおふざけ要素が見られないことを勇は理解した。
「というわけで、まず勇には異世界を、そして勇者を学んでもらう。答えを出すのはそれからでも遅くはないはず」そう言いながら一世は、勇の部屋の押入れの中をごそごそと漁りはじめた。
「そうそう、確かここら辺に……あっ、あった!」
一世はお目当てのそれを見つけた。
「お前……いつから人の部屋にそんなもの持ち込んでたんだ?」
一世が見つけ出した物は、ファンタジーを綴った数多のラノベやマンガだった。
「うんうん、ここにその手のジャンルの入門編としてにちょうど良い名作がいくつかある。とりあえずこれを読んで勉強してくれ」
こうして勇は、ざっくり異世界ファンタジーについて、そして勇者について一週間みっちり勉強することになった。
一般的な高校生のそれとは思えない異質なやりとりを、ゴライアスはしっかり見ていた。それもみっちゃんの部屋からである。
「うわぁ、なんかすごいようでそうでもない変わった展開になっているね。あの一世という男、やはり只者ではないと思っていたけど、まさかこちら側についてくれるとはね。これは勇の説得も早く終わりそうかな?」
「さぁ、知らないけど。まぁ一世君に多くは期待しない方がいいんじゃないかな。だってあんな感じだし」
みっちゃんはグルメ雑誌のページをめくりながら素っ気なく答える。
「あの二人も幼馴染だよね?」
「うん。あの二人ってあんな感じで個性が異なるんだけど、ずっと一緒なのよね」
「ふむふむ。普通、相反する要素を持つ者同士なら反発しあって和解とはいかないものだ。だが、そのカリスマ性から心理の壁を砕いて人心を惹きつける。これも勇者のスキル。観察すればする程、勇者の素養が見えるじゃないか勇」
分析したことを全て口から漏らしてやる気に燃えるゴライアスだった。
「ゴラちゃんも乙女の自室に潜伏してべらべら言ってないで、もっと自分からアプローチかけて勇者派遣を円滑に進めれば?」
痛い所を的確に突く言葉の槍が飛ぶのだった。




