第十二話 情報を制した者が勝利を掴むとは言い切らないものの、少なくとも勝利した者は情報を制していたはず
あんな物語にもこんな物語にも、メインどころを外れた脇の方には、べらべらと説明を行う役がいるはず。そう思ったゴライアスは、昼休みの教室から説明役たる人物を探す。戦を勝するなら情報集めが大事。まずは勇に関わるあれこれを調査だ。
「もし、そこの君……いや、情報通の安達さん」
こいつだと当たりをつけた相手にゴライアスは話しかけた。安達なる人物は、メガネをかけた大人しそうな女子だった。しかし、大人しそうという第一印象はこの後すぐ崩壊することになる。
「どうして私が情報通だと?」
人さし指でメガネをくいっと持ち上げながら安達が答えた。
「そんなの簡単!……と普通はいかないが、僕の洞察力を持ってすれば説明がつく」
「ほぅ、聞こうじゃない?」
「この騒がしい昼休みの教室の中で、君はどの集団にも混ざらずクラスの端に一人座っている」
昼休みの教室内を見れば、あちこちに数名で固まった生徒のグループが確認出来る。一人で座っている者の方が珍しい。
「うるさく情報が飛び交う中だ。楽しくお喋りをする訳でなく、君は一人耳をすましておくことが出来る。集団の中央で忙しく仕事をしたり喧しく喋る者ってのは、それに忙しいばかりに意外と集団全体が見えていなかったりする。君のように、端から静かに見ている者の方が、一人一人と関わっていないようで、その実邪魔がない分全体の人間関係がよく見えたりもする。そして興味を持ってそれを行うなら君程クラスの状況がよく見える者はいない」
「ふふっ、凄まじい洞察力ね。転校して来てまだ半日、その段階でそこまでクラスの人間関係を観察し、考察するあなたもまた情報通になりえるわね」
「まあね。上司にも言われているんだ。戦を勝するのは、分かりやすく強大な武力と分かりやすく聡明なココだってね」と言いながらゴライアスは人さし指で自分の頭を突いた。
「そして決定打となるのは、君のようなうら若き乙女が、昼休みのお供とするには違和感がかなりあるニュースペーパーなんかを読んでいたことさ。これで情報集めに興味がない訳がないってね」
「ふふっ、さすが異世界からの遣いね。あなたの言っていることは全部正解ってところね」
安達はそれまで読んでいたニュースペーパーもとい日本式に言うと新聞紙を畳んで机に置いた。
「で、この私から一体何を聞き出そうって言うの?」
「もう知っての通り、僕は勇をこの世界から連れ出すために送られた遣いだ」
授業の間の休み時間になると、勇やみっちゃんを前にして自分の仕事のことを大声でべらべら話すものだから、転校初日にしてゴライアスの身分はクラス全員に割れていた。勇者を連れて来るこのお仕事には、これといって機密事項がないようだ。
「そうだな、まずは勇の友人関係とか、クラスでの立ち位置みたいな?基本の情報を何でも教えてよ」
ゴライアスは雑な申し出を行う。だが知っている情報をひけらかしたい欲がたっぷりな安達はノリノリで答えるのだった。
「じゃあまずは友人のことね。クラスの三変人を知ってもらいましょう」
「変人の話かい?それは興味深い」
「まずは一人目。あそこに、ニヤニヤしながら可愛い女の子の絵が表紙の本を読んでいる人がいるでしょ?」と言って安達は、窓際列一番前の席に座る少年を指差す。
「彼は前田一世。あなたが転校の挨拶をした時にブラボーとか言って手を叩いてた変人ね」
そう、あの時の変人が前田一世である。
「どこかの大家の人みたく名字にプラスして『~世』とついてるけど、別に前田家の一世ではないの。彼の家にある家系図が記された巻物を遡って見てみると、彼は二十四世になるらしいわ」
「へえ前田二十四世かぁ~、で、あの本は何かな?」
「あれはラノベっていうジャンルの本で、私は読んだことがないのだけど、まぁあなたみたいなファンタジックな人達がぞろぞろ出てきてお祭り騒ぎをするみたいな感じのものね」
「へぇ~あれが例のラノベね。話には聞くが、まだまだ実物には触れ慣れないな。日本人はやはりファンタジーが好きなんだね」
「まぁファンタジーといえばそうなのでしょうけど、内容はワケワカメなものもあれば、教訓になるありがたいお話もあったりで、質を見ればピンからきりまであるジャンルだって聞くわ。まぁ読んだことないからよく知らないけど。その手のジャンルが大好きなオタッキーな変人なの。言動にも予想のつかないものがあって謎ね」
「へぇ~どこの世界にも変わった人っているんだね」
「そうね、あなたが言えた義理じゃないと思うけど」
軽快にディスりを入れる安達だった。
「それで次は?」
「次はね~今日は来ていないの。ていうかしばらく来ていない人で、権之内貴一って人がいるの」
「どうしたんだ彼は?病気か怪我でもしたのか?」
「いいえ、病気も怪我もしない。ウイルスが嫌がって逃げて行くくらいの健康体よ」
「じゃあなんで学校に来ないんだ?」
「うん、なんかね『すごく良い波が来ている。波が、海が、いや無限の青が俺を呼んでいる』てほざいて海に行ったきり帰ってこないの。彼、趣味のサーフィンをはじめ、あれこれの競技を楽しんでいるの」
「すごいな。学校という若者のライフステージに組み込まれたスケジュールを簡単に無視するんだね」
「まぁ変人だから。一般人の常識と体内時計では生きていないのよ」
「そんで三人目は?」
「それがあなたの選んだ勇者よ」
「なんと!勇も入っていたのか。有名人じゃないか。……で、具体的に勇の変なところとは?」
「いや、彼って一見普通なのよ。成績優秀だし皆からの信頼もあるわ。顔も……結構良いじゃない?」と言った時の安達の顔はやや赤らんでいたような気がする。
「おい、安達さん、続きは?」
「はぁ!そうそう、それでなんだけどね、そんな普通な人なのに、先に上げた二人は彼を中心に動いているのよ。言っちゃ悪いけど、他の変人二人は、悪い人間ではないけどやっぱり変だからって理由で、皆が積極的に関わっていくことはなく、ちょっと引かれてるの。そんな二人が彼に懐き、彼もなんなく接している。変人と普通に接することが出来るっていう点で、彼も特殊なわけなのね」
「なるほど、変な奴とたくさん付き合いがあれば、実際はどうであれ勇も変な人スキルがあると」
欲しい情報が手に入った。今日のところは満足である。
勇の人間性は、やはり勇者に適している。今時の勇者が、一昔前のRPGのように一人旅を貫徹することは稀だ。どこかで仲間を迎え、チームで魔王討伐に向かうのはまず必至。生まれも育ちも違う個性的な面々で構成されるパーティーを統べるリーダーシップがあることは、勇者として大きな強みになる。クラスの中で浮く変な奴でも問題なく扱えるスキルは、やはり勇者向きだ。
間違いなく勇は選ばれし者である。ゴライアスは確信を持ってそう思えた。ゆえに、勇を異世界に連れて行く使命により燃えるのであった。




