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第百八話 待機

 権之内が魂の世界で戦う中、外の世界では権之内の大事な体を前に医療のスペシャリスト達が戦っていた。まだ若く可能性しかないこの命をここで終わらせるようなら、それは職業人として恥じるべきミスに繋がる。ドクター蒲田は、目の前の逞しき若者の体に、持てる医療技術の全てを叩き込んだ。ここまでやって死ぬなら、それはもう神より見放された悲しき定めと受け入れて大人しく死んでもらうだけだ。そう思えるくらいに蒲田はやり切った。それなのに、やることをやり終えた患者の体に未だ魂は帰ってこない。


「ドクター!ドクター!ゴンはどうなるんだ!なんかこの、医療ドラマとかでよく見る心臓の調子を波形にして映すモニタの波打つ感じが普通でない気がする。これってピンチなんじゃないのか!」

 魂が帰らない空っぽの権之内との面会がなんとか許された。権之内の体を前に、一世は喧しく騒ぎ立てる。


「一世うるさいよ。ここをどこだと思ってるの?」

 結華は一世に注意する。

「病院に違いないと思っているさ。承知の上でうるさく問うんだ。ゴンは、俺の友達はどうなっているんだ。答えてくれドクター……」

 一世の言葉の勢いは尻すぼみになっていく。そんな中でも喋って騒いでいないと、暴れる感情を抑えることが出来ない。一世の精神は追い詰められていた。友を失うかもしれない恐怖に怯える自分への対処が分からない。経験もなければ、これまで想定すらしたことがない窮地に立っていたのだ。


 兄は友を救うと断言したが、この状況を見ると結華も再び怯えてしまう。これが回復に向かう人間に見られる兆候だとはとても思えない。結華の念頭にもまた『死』の重き一文字が現れ、それはどっかりそこに居座って消える気配を見せない。


 みっちゃんは両拳を握りしめて押し黙っていた。


 勇くんは何をしている。これまで譲らなった異世界行きをしっかり譲るまでのことをしたんだから、絶対にゴンちゃんを救わなきゃ。でないと何の勇者か。


 みっちゃんは、権之内に残れされた僅かな死への抵抗力と勇の活躍に期待していた。この場にはもうそれしか頼れるものがなかった。


 ドクター蒲田は医師の務めとして関係者一同に残酷な現状報告を行う。


「出来ることは全て行いました。あとは患者の、彼の問題です。彼の生きる想いに賭けるのみです」

 無責任とも思えるその一言が、医師として全ての責任を果たした合図となった。

 

 もう外野に出来ることは何も無い。一同は祈って待つだけとなった。ただ待つだけのこの時間が、一同の精神を疲弊させ苦しめて行くのだった。

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