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第百六話 魂ファイティング!

「いや~のどかだねぇ~」

 権之内は、土手に寝っ転がって月と星と太陽が同時に光る珍しい光景を見ている。


「お前さん、危機感は?死神が来たんだぞ」

「そうだな。死神ってのは命を取るんだったな。でも俺はあの船に乗って川を渡るつもりはないぜ。だって生きることは素晴らしいことだもの。まだ未成年、これからやりたいことはたくさんだ。命を終えるにはまだまだ早い。人生に疲れを覚えることも知らない内からもう命の店仕舞いをするようじゃ勿体ないぜ」

 権之内は、死にません宣言を行った。


「ふっふっ、そういうこと。我々死神協会がお前さんに目をつけた理由がそこにある。自分でネタ明かしをしてくれたね」

「えっ、俺は死神のターゲットなのかい。それは光栄なのか。迷惑なのか。どうなのだろう?」

「それはどちらとも取れるだろうさ。まぁ魂の質として上物と判断されてのことだから、そこは光栄に思ってくれよ。今お前さんが言った人生に疲れまくった命なんかに用はない。自分で証明したね、未成年で元気一杯、命を終えるにはまだ早いピチピチだ。だからこそターゲットになった。そして、我々のターゲットになるということは、大体の人間から迷惑がられることさ」

「そうかい。で、どうするよ?悪いけど、この魂は誰にもくれてやるつもりはない」

「ふっふ、抵抗しますかい?何にせよお前さんはピンチだよ。こんな所にいるってだけで、現世に残した体は瀕死状態。この死神を退けるってなら、魂はまず疲弊するね。元々弱った体、その上疲弊した魂で体に戻る旅となると、さぞ苦労するだろうに。魂が体に帰れないならおしまいだよ。抵抗は自由だが、お前さんのミッションコンプリートは、こちらがミッションコンプリートするよりずっと骨が折れるよ」

「ごちゃごちゃとワケの分からん魂トークを始めやがって。骨を折りやすいよう肉も皮もないじいさんがよく言うぜ。俺の骨は厚い筋肉でコーティングされてんだ。あんたこそ、俺に骨を折らすってなら相当しんどい目を見ることになるぜ」

 権之内は立ち上がる。


「船も川も無視したところで、権之内貴一、お前さんの魂は狩る。魂を狩って安らかな死を与えてやろう」

 死神は胸の前に両手を出す。開かれた両の掌は天を向いている。虚空から舞い落ちる何かを受け止めるような動作に見える。しかし、どこまで天を仰いでも何も無い。

 次の瞬間、死神の胸の前に閃光が走った。光の中から大鎌が現れる。死神はそれを両手でしっかり掴むむと大きく一度素振りした。大鎌の一振りが巻き起こした旋風は、権之内の頬を殴った。

 大鎌の長さは1メートルを越えている。柄の先には、見るも恐ろしい鋭利な刃先が光る。この見た目で切れ味が悪いとはとても思えない。


「ふっふ、400年ローンで購入した業物だよ。さぁ、狩ろうか、いや刈り取るのか」

「これはこれは……やっぱり仕事道具はそれか。にしても、恐ろしく切れ味が良さそう……」

「実際に良いんだよ、コレが!」

 死神は、細身の骨の腕に宿るとは思えない怪力で勢いよく大鎌を振り上げる。上げたものはすぐに下ろすに決まっている。下りるスピードも高速なものだった。


 権之内は、間一髪をそれを避ける。

 

「あぶねぇ!!」

「ふっふ、確かに危ない」


 権之内の右肩から青白い風船のようなものがスーと浮き上がり飛んでいく。その瞬間権之内は右肩を押さえ、片膝をついた。


「え、何?なんか体からスーと抜けて……力が……」


 痛みはない。だが、わずかに大鎌がその箇所をかすったのだ。魂からの出血はない。ただ、魂が傷ついて漏れ出た分は、死神の収穫物として持って行かれるのだ。

 肩から出た青白いものは、漏れ出た魂の一部。それは死神の腕に吸収される。


「ああ、こいつは極上だ。人間の血液で言うと数滴分のものでここまでとは……あんたの魂全部を頂いて持って帰れば、それはもうとんでもない出世コースを歩めるだろう。すごい、こんな上物は4000年のキャリアの中で初めてだ」

 キャリア史上最高の仕事が目の前にある。それゆえ死神は興奮状態にあった。


「ふっふ、権之内貴一よ。私の出世に一役買ってもらうぞ」

「知るかよ。出世は一人の力でやりな」


 死神の第二撃が飛ぶ。次はひらりと上手く交わした。権之内の動体視力は、一般学生のそれを遥かに越えて野生じみたものだった。


 次に権之内は、片足で大地を蹴ると、いとも簡単に重力に逆らったように体をふわりと浮かせる。


「くらえ!」


 もう片足で、丸太でも粉砕するかのような重たい蹴りを放った。

 それは死神の頭蓋骨をぶち抜く。死神の頭の骨はぶっ飛び、船を漕ぐおっさんの頭にヒットした。そして川に沈んだ。


「ああっ、白きナイスガイと呼ばれた私のナイスな頭がぁ」

 頭が飛んだ状態の本体から声がする。発声器官はまだ下の方だったか。

 攻撃の手を休めることなく、権之内はすかさず腹に掌底を打ち込む。いくらカルシウムでコーティングした丈夫な骨だろうが、大砲並の一撃を喰らえば防ぎ切ることは出来ない。死神の胴体に集まる骨は、四方に飛び散った。


「信じられない。この丈夫な死神の体を、こんな人間が吹っ飛ばすなど。ああ、肋骨の数本など粉砕され、これじゃ復元できやしない」

 そんなことを言う間に、死神の逞しい修復能力は発動し終えていた。

 飛び散った骨は勝手に集まり、肋骨の一部以外は元通りだ。


「ふぅ~。簡単には行かないと思ったが……これは、骨が折れそう」

 権之内は構えを解かない。


「先に人の大事な骨を折ってくれてよく言うねぇ。これはこちらも折り返さないと割にあわない」


 三途の川をバックに、大一番が展開する。

 船に乗る順番を待つ終わった命達は、それを見物するのであった。

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