第百五話 最後のあの川で会いましょう
目を開ける。おかしい。おかしいぞ。最初に視界に入ったのは、星と月と太陽。これら三つが一度にこうもくっきりはっきり見えるものだろうか。おかしいな。まだ夢の中かな。
そして謎の浮遊感。見える景色がゆっくり動いている気がする。いや、俺が動いている?
服にじっとりと水が染み込む。冷たさが肌を伝う。
「わぁ!なんじゃここは!」
慌てて手足に力を入れて立ち上がる。下は水浸し。お漏らしじゃないよ。当然のことだ。ここは川だ。
浅い川、ふくらはぎの半分も水が来ない。
「え?何で川?なんだココ?どこの一級河川だろう。なぁおっさんよぉ、ここはどこだい?」
知りたいことがあり、それを聞きたい誰かがいる。そんな時、渡りに船、いやマジで船を漕ぐおっさんが前を通りかかった。
「はぁ?何言ってんだお前?ここがどこかだって?おいおい、水に浸かりすぎてバカからカバになっちまったのかい?」」
「ふっ、バカだカバだはよく知らねえが、とりあえず濡れ濡れ状態で水も滴るナイスガイになったことはそうだろうな」
おっさんが冗談混じりにバカを飛ばすので、こちらも出来る限りおしゃれかつウィットに富んだ感じで返す。
「やっぱりカバになってらぁ。ここは三途の川だろうが。お前何泳いでんだよ。渡し船ってのがあるんだから、泳げてもここは通行料払って船で渡ってもらわんとな。商売の領域ってのがあるんだ。ほら、渡るんなら金払えば乗っけてやる。払わないってんなら、あっち側に帰れ」
おっさんが指差す方に乗り場がある。次に乗る連中が列を作っている。おっさんの後ろにはたくさんの客が乗っている。
「うん、じゃあ帰るか」
水をジャバジャバ蹴って俺は陸を目指す。
ここにいる奴らは皆白い服を着て、不景気な面を下げている。まるでこの世の終わりのような顔をしている。
列の中の一人に声をかける。またおっさんだった。
「おいおい、そんなこの世の終わりみたいな顔して、一体全体皆はどこに行こうっていうのさ?」
「はぁ?当たり前だろうが、あんた何言ってんだ?ちゃんと終わった人間しかここにはいないよ。この世の終わりを迎えた者が、コレに乗ってあの世に行く乗り場がココなんだぞ」
「え?この世からあの世……」
あれ、なんだろうコレ。確かじいちゃんに昔聞かされたことがある。死んだ人間は、船に乗ってとある川を渡り、そんであの世に行くとかなんとか……
「え?これってあの船?あの川?」
「心の中で何を答え合わせしてんのか知らないけど、おそらくそれで正解だろうさ」
正解をくれると、おっさんは歩き出し、列全体が動いた。
「ふっふっふ……」
土手で笑っている者がいる。白ばかりの軍団を横に、土手に座っている者は全身真っ黒。黒いローブを身にまとい、俺を見て笑っている。
「あ、あんたは、星を見ていた時に会ったじいさん」
俺は男の前に歩み寄った。
「なんだ、お前さん鈍いな。それともこの状況を前にしてもなお図太い男なのか」
男は立ち上がる。
「紹介がまだだったね。私はこういう者だ」
男はローブのフードを脱いだ。
フードの下からは、黒い服装だからこそ目立つ真っ白な顔が飛び出す。その顔はよく見るまでもなく歪。人の顔にあるはずの皮膚がまったくない。ガイコツ男だった。
「うお!どうしたんだ!あの世に行くための場所っていうけど、あんたは格好から準備良すぎないか。そんなにしっかり落とすもの落として船に乗らんでもいいだろう」
「どこまでおバカさんなのか。私は死者でも生者でもない。お前さん達とはまったく別物の死神って者だよ」
「何!死神!コレが!そうか、コレが話に聞く死神かぁ……スイカとかめっちゃ好きなんだろ?一世の持っている漫画で読んだぜ」
「いや、むしろメロン……」
「そうかそうか、俺もメロン派だぜ。それより写メいいか?いいよな?死神も肖像権が何とか喧しいことは言わないよな。死神と写メなんて自慢になるぜ。新時代のバエは肉を削ぎ落としたニューフェイスだよな」
権之内は勝手に死神の横に並んで写メを撮る。
「じゃあいくぞ~、854の12乗は~全然わから~ん!」
「ら~」の大きな口を開けたまま二人はフレームに収まった。
「頂きベストショット!」
権之内の写真の腕はピカイチだった。
「いや、お前さん、どんな育ち方をしたらこんなことになるんだい?」
死神の方がびっくりだった。




