第百四話 これが二人のあり方
「いいかい。君は完全無欠のスーパー勇者だ。マジでチート並に強く、向こうに行けばサックリとミッションをコンプリート出来る。君の旅が安全でスムーズになるよう惜しみなく協力することを約束しよう。約束するが、物事に100%はない。これ、分かるよね?99.9%は無事に全てが終わって帰って来れるだろう。でも、数えるまでもない微々たる残り0.1%に潜む魔というものも確かにある。この0.1%を回避することまでは、いくら僕といえども約束出来ず、君という勇者の力を持ってしてでも潰すことが出来ない。いや、安心してくれていいんだよ。ここへ来て君の中の不安を育てて脅かすつもりはない。ただ、そういうこともあるから、ちょっとの魔が潜むこともあることをゆめゆめ忘れないで欲しい。というわけで、残り少ししか時間はないが、後に悔いることがないよう出来る範囲でやり残しは潰した方が良いことを勧める。僕はセピアと共に、勇者を迎え入れるための準備に取り掛かる。僕が声掛けをするまでに、君はかけがえない自分の時間を大事に過ごすといい。こんな事を言うともう帰って来ないみたいに聞こえるが、そこは大丈夫だから。どうせ帰ってくるけども、まぁそれでも今の内にやっておいて悪くないかってことを見つけてやっておいてくれ。それじゃあ」
くどくどと諸々の事情を説明した後、ゴライアスは準備に取り掛かった。
勇は、こちらの世界を旅立つ前に残された僅かな時間をどう過ごすか考えてみる。だが、ベストな答えが出てこない。
病院の屋上に出ると寒い。そんなわけで、勇はとりあえず中に入る。最上階の窓の外を見る。外は真っ暗だ。ゴライアスが言うには、この夜が明ける前にも自分はこちらに戻ってこれるとのことだった。よその世界から勇者を招くのなら、勇者が安心して帰れる場所と時間の確保を行うのが自分達のマナーであるというのが、ゴライアス達勇者派遣協会のやり方だった。向こうでいくら過ごしても、帰ってくる時間は今日の内になるよう色々と設定してくれるらしい。
「帰ってきたら私がおばさんになってるなんてことはないから安心だね」
「うん……」
隣にはみっちゃんがいるだけだった。結華と一世は、温かいコーンスープが飲みたくなったため、階下に設置された自販機を目指してこの場を去った。
二人きりになった。何を話したものだろうか。二人揃って外を眺めるばかりで会話があまり進まない。これがお互いにらしくないと思ったので、二人はとりあえず何か口から発しようと努める。
「これで最後になっちゃうかもなんだよね」
「ならないよう努力するけど」
みっちゃんは思い切って仕掛ける。
「最後になっちゃうかもしれないんだぞ。だったら、なんか言っておく事とかないの?」
「ええ!言っておくことか……う~ん、でもこういうのってさ、先に言ってから旅立つと、一世のよく見てるクソアニメなんかに出てくる死亡フラグってのになるんじゃ……あ、後で言う宣言がそうだったけ?」
「もう、何言ってんだよ!」
みっちゃんは勇の腹を小突く。
「まぁまぁ、言うことがあるなら尚更落ち着いた時に、落ち着いて話すのがいい。俺は絶対に帰るから、その時には、みっちゃんに話すことをしっかりはっきり話すよ」
「大事なことなの?」
「それなりに……」
「じゃあ待つよ。信じて待つのも女の度胸ってね」
「なんだそれ?」
みっちゃんは、勇が手にした物に目線を落とす。
「それは?」
「ああ、向こうに行ったら、自分達だと思って大事に持っててくれって。一世からは謎のラノベ、結華からは髪留めだ。……ラノベはなんとかならなかったのかな……嵩張るし、読む時間も無いだろう」
「え!あの連中がそんな気の利いた贈り物を!どうしよう、私からは何が良いだろう」
「どこが気が利いてんだよ。いらないだろうが、ラノベの方はな。まぁ良いよそんなのは」
「えっと、どうしよ……」
みっちゃんは何かないかとポケットを探ったりして気の利いた答えを捻り出そうとする。しかし、持ち合わせのアイテムがない。
「あっ、どうだろうか、脱ぎたての下着なんかをお守りに持っておくのは」
「バカ、何言ってんだよお前は。ノーパン、ノーブラで帰る気か?」
「……上下セットで考えたの?片方ではなく?」
「え?」
「え?」
二人して何を言ってるんだろうと思う。謎の時間の中でなぜか恥ずかしくなり、互いに顔を赤くする。
気まずい空気を打ち破るべく、勇は指で頬をかきながら話す。
「……で、どっちかならくれんのかよ?」
「勇くんのスケベ野郎!」
腹にみっちゃんの重めのパンチを食らった。
「ぐへっ!」
みっちゃんは回れ右すると、廊下を走リ出し勇と距離を取る。
「勇くんのエロゲー主人公~」
謎の言葉を残した。やがてみっちゃんの姿は見えなくなる。
「ふぅ、見てらんないね。間抜けで無様だ。これを挽回する続きは、帰ってからゆっくりやればいい。勇、時間だ。行くぞ」
ゴライアスは音もなく勇の背後に現れ、残された時間終了の合図を送った。
「痛い……まぁ、餞別はこのパンチってことか……うん、じゃあ行こう」
なんだかおかしな最後になったが、自分達の関係なら別れ方はこれで良い。勇は納得し、笑顔を見せた。これで覚悟は固まっった。勇は異世界を目指す。
廊下の端まで来ると、みっちゃんは立ち止まり、両手で顔を覆った。
なんだか色んな想いが複合した結果、猛烈に恥ずかしくなってあの場を去りたかったのだ。
「おい、みっちゃんさんよぉ。あげるものが無いっていうんなら、ハグかチューの一つでも送ればいいもんだろうが」
コーンスープの缶を片手に、一世がガラ悪く詰め寄る。
「やっぱりアンタじゃ勇者のお兄ちゃんの相手は荷が重いんじゃない?これを機に今後のことでも考えたら?」
結華もまた、コーンスープの缶を片手にガラ悪く詰め寄る。
コーンスープをぐびりとやる二人に挟まれた状態で、みっちゃんは心を静める。
「うっさい!良いんだよコレで。コレで良くなかったはずがない。これで私達なんだよ」
勇ましく言い返すと、みっちゃんはスタスタと廊下を歩き始めた。




