お礼
普段の仕事に加えて、感染防止対策 が喫緊の課題となってきた。
年度が開けた日から 毎日が慌ただしく過ぎていく。
走り出して余計なことを考える暇もなくなると、むしろ気持ちとしては少し楽である。
・・・・・・、
新人社員向けの研修会が対面でおこなわれることになった。
会場設営を担当するため、数日前に配属された木下さんと荷物を持って会議室へ向かう。
消毒のために急ごしらえされた”次亜塩素酸水”のスプレーボトルを入れた紙袋は、小柄な木下さんが持っていると重たそうに見える。
「・・大丈夫?重くないー?」
「はい 大丈夫です!」
手を貸して 代わりに全て持つこともできるが、気安くそうするのも どこか失礼な気がして、軽く声をかけるまでにする。
歩きながら、木下さんに一つ”お礼”を言いたいことがあった。
「・・そういえば、こないだの夏 同期飲み会の時、木下さんに教えてもらった ”日常 ”ってアニメ、めっちゃ面白かった。ですよ」
ここで語尾選びに迷う自分の慣れてなさが苦しい。
機会があったらお礼を言おうと思っていたのだが、
言われた方は唐突感があるかなと 言ってから一瞬思
う
「奥さんと一緒にみて、すごい楽しみましたよ」
そう続けて畳み掛ける。
ちょうど会議室の前に着いたところで
「えっ、そんな話 しましたっけ?」
言った方が覚えていないのはままあることだ。
覚えていたことが少し恥ずかしいが、言いたいことを言えてよかったとする。




