カメラ目線
4階の窓から身を乗り出してカメラをセットする。
空は 雲もややかかっているが、青空も垣間見える春らしい日和である。
下の広場には、ちらほらと社員が集まり始めてきた。
地上の整列や誘導は井田に頼んでいる。私は上から見て指示をして、カメラをまわす係だ。
集合の11時半が近づくにつれて、部署ごとにまとまって社員がやってくる。
上から指示をして、カメラの写る立ち位置に誘導していく・・・、
・・・この動画の企画の提案を受けた時から、ただその瞬間が怖かったのである。
広場に出てきた一団の中に 栗原の姿がみえた。
上から誘導の指示をしていたが、目に入ると反射的に胸が苦しくなる。
だが、何事もないように指示を続ける。
「はい、総務課のみなさん もう少し左で・・、はい!」
心を無にして、仕事の声の調子で 進めていく。
・・なぜこんな思いをしなければいけないのか・・。
窓からひとり身を出して、誰も見ないであろうビデオを撮っている私を、
栗原はどう思っているのだろう。
そんな事を思えて泣きそうになる。
・・もし今、ここから堕ちたら、いつまでも栗原の記憶に残ることができるだろうか。
そんなことを 頭の中心で考えながら、頭の片隅を使って誘導を進める。
・・・・・・、
「それでは、練習いきますー!3、2 ・・・、」
『お問い合わせ、お待ちしておりますーー!!』
そう皆で言って、カメラに向かって笑顔で手を振る。そういう演出である。
皆のタイミングを合わせる練習をしつつ、カメラの動かし方を考えいく。
「では いよいよ本番ですー!よろしくお願いします! 5秒前!・・3、2、、」
『~お待ちしております!』
揃った唱和のあと、、
「はーい、手を振り続けてくださいー!まだカメラ目線でお願いします!もうちょっと、、もうちょっとー、、」
そうして時間をかけて、カメラはズームをして、社員各々の表情をおさえていく。
・・皆、よく協力してくれている。ありがたいものである・・・。
そう内心 思いながら、カメラのフレームを社員の列に沿って動かしていく。
と、栗原が その画角に入った。
ズームレンズを通して見えた栗原の目線は、
明らかに 私のカメラのレンズからは逸れて、
関係のない方を ぼんやりとみている。




