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横流し
その日は、当然のように、何事もなく過ぎ去った。
残されたのは、ありえもしない期待をしていた自分への嫌悪と、
繁忙期の残業をねぎらうために 課長から皆に配られた机の上のチョコ菓子だけである…
ねぎらいにもらった菓子を手に持って席を立つ。
ちらほらと課員が残業しているフロアを通って、はるかの後ろ姿に声をかける。
「おつかれさまー、あげる。」
人にもらった菓子だが いまは自分で食べるより
こう使うことが、自分へのねぎらいになる。
「あ、ありがと。」
突然の声かけに すこし怪訝な顔をしつつ 受け取られる。
まわりに残っている者はいない。
「そういえば、小説読んでるよ。ちゃんと小説っぽくなってるね」
読んでもらえていたか、
「朝、信号待ちとかで読んでるよ」
はるかは車通勤者だ。
もう少し 丁寧に読んでほしいと思うのは、作者のわがまま だろうか…
「ま、どうなるか楽しみにしててください。おじゃましました。」
長居するような理由もないので、
そう言って自分の仕事へと戻ることにする。




