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キャスト
「えー!会いに来てくれたのっ?!うれしぃー!」
本当に喜んでくれているとは到底思えないが、もしかしたら本心なのかもしれないと1ミリでも思わせることができるのが 営業のうまさなのだろう。
車をパーキングに置いて やって来たのは、1週間ほど前にもきた雑居ビルの薄暗い空間。
ゆりさん を指名するとすぐに横についてくれた。
「えー、今日は何飲みますか?」
「今日は車だからウーロン茶で…」
「あ、そうなんですか?! 忙しいのに来てくれたの?嬉しいなー!!」
そういって身体を寄せてくる。
気のない相手にこうする仕事は大変だろうにと思いながら、
それを避けるのも失礼なような気がして、状況を受け入れて肩を寄せる格好になる。
正直に言って 居心地が良くはない。
喫茶店でコーヒーを飲みながら小説でも書いている方がよっぽど良かった。
……、
…だが、こうして擬似恋愛に堕ちていくのも手なのかもしれない。
栗原にどことなく似ていて、名前が同じというだけの相手に 顔を向け、
世間話をしつつ その目を見て自分に言い聞かせてみる。
もし、そこで気持ちが落ち着けば 栗原さんにも はるかにも 迷惑をかけずに済むのなら… うまく自分を騙せるだろうか。




