はじめての
どうも皆さんこんばんは。
テスト期間中ゆえ大変遅くなり申し訳ない。
「大丈夫、バレやしないさ」
憎たらしい顔に、思わず手が投球の動作に入りそうだった。
何とか自分の立場を思い出して堪えたものの、手中の暗器はその圧に耐え切れずに消滅した。
「えらいえらい、よく我慢できたね」
「うざいです」
己の頭を撫でる手を叩き落とすが、生前ならば触ろうとした時点で叩き落していたことだろう。
ああ、自分が情けない。だってそうだろう?
「こら、そんな顔しないの。せっかくのお祭りなんだし、楽しまなきゃ損だろう?」
お祭りという言葉につられて、ついてきてしまう程度にはほだされてしまったのだ。
一応、仕事という名目ではある。
「久しぶりの人間世界だもんね?」
そうだ。俺は今、普段の姿よりワンサイズ縮んだ子供の姿で神に抱かれながら歩いている。
こちらも外見は変化しており、人好きしそうな風貌の男になっていた。
どこからどう見ても、祭りを楽しむ親子だ。
もっとも、きちんと見える者がいるならば、だが。
「ほら、好きなもの買ってあげるから機嫌直して?」
「子供扱いするな」
「はは、ごめんごめんついね」
生前見ることの出来なかった『お祭り』というもの。
人酔いしそうなほど、祭りは賑わっていた。
通常、こんな人混みを歩けばたちまち押しつぶされる。
それがどうだ、人の方が自ら俺達を避けていく。
見えていないのではなく、見えていても認識できないのだ。神と人では在り方が全く異なるので、当然といえば当然だが。
「うーん、今回もあるねえ」
そして、彼らが認識できて…いや、見えていないものがある。人によって差はあれど、頭上に浮かぶ黒い塊。
ある人は視認しずらいほど小さく、またある人は他人の領域を侵すほどに大きい。
「アレは?」
「『汚点』さ。ああいった類のものは人間がいる限り生まれないことはないからね。まあ、ないに越したことはないんだけどその辺は感情なんてもんあげちゃった時点で分かり切ってたことだしね」
この黒い塊は、恐らく人間の持つ負の感情が有形化したものだ。
汚い感情が作り出す黒点。なるほど、『汚点』だ。
人は楽しい時ほど、感情が表に出やすい。
そして祝い事なら大勢が一か所に集う。
だからこうして年に一度の大規模なお祭り期間を狙って
対処に来ている。
きっと、この黒い塊は、放置したら不味いものだ。
「分かってたのに、あげたんだ」
「だって、その方が面白そうだろう?」
神に、善悪など存在しない。
ゆえに、生み出し、殺し、与え、奪うのだ。
すべては、神の思うがままに。
人も、神々の暇つぶし用に造られた人形に過ぎない。
「さてと、本来は僕の仕事なんだけど…」
「どうすればいい」
「話がはやくて助かるよ。手を、」
習うより慣れよ、だ。
言われるがままに自分の手を神の手にに重ねる。
腕に抱かれたままというのがなんとも間抜けだが、
不思議と不快ではなかった。
「気負わなくていい。初めては誰にでもあるものだし、僕が失敗させない。君ならきっと、一度体験すればすぐものにできるさ」
過度な期待を寄せているわけではなく、ただ事実を述べているのだと言いたげな瞳だった。
正直、この神にここまで言われる理由が全くわからん。
「アリガトウ、ゴザイマス」
「あれっ?何で片言なのさ!?」
「はやく」
「はいはい、じゃあ始めるよ。今から君に干渉するけど、拒まないでね」
こくりと頷いた俺を見て、ふっと微笑んだ神は繋いでいる手を俺の眼前に翳した。
すると、触れている部分がほんのりと温かくなった。
「本来神気は不可視だけど、今回はわかりやすくする為に可視化してある。視てごらん」
俺達を青白い光が包み込んでいた。
神から発せられてる光がゆっくりと俺の中に流れこんでいく。
体の奥の熱を無理やり呼び起こされるような感覚に眉をしかめる。
そして何故か俺の体からも光が漏れ始めた。
「これが、神気?」
「そうだよ。僕がサポートする。さぁ、好きなだけ広げるといい」
命令にも似たそれに、抗うことなく身を任せた。
弾けた熱が四方八方へと広がっていく。
無鉄砲にも見えるそれらは的確に汚点を貫いていき、
貫かれた汚点は即時消滅していった。
「ほう、君ならこうするのか…」
「何か問題が?」
「いやなに、実に君らしい迅速かつ確実なやり方だと思ってね」
考えるのはいい、だが躊躇は駄目だ。
一瞬の遅れは命取りになる。
やられる前にやれ。
散々叩き込まれた思考は未だ健在らしい。
「もう終わったみたいだね。お疲れ様。初めての干渉はどうだった?」
「いや、なんか..ねむ...」
「あぁ、急激な神気の消費による反動だろう。このまま運んであげるから、ゆっくり休むといい」
何故だか、この神の言葉は抗い難い。
非常に不本意ながら、眠気には勝てずに意識を飛ばした。
「この様子ならあっちの発現も早そうだなぁ..」
誰に言うでもなく独り呟いた神は、意識の無い幼子の額にそっと口付ける。その眼差しはどこまでも優しく優しく、慈愛に満ちたものだった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。額へのキス、もし興味があれば調べてみて下さいね。