勉強1
日付けまたいじゃったかぁ..
ま、続いたし良しとしましょう。
「少年、そろそろ起きたまえ」
ようやく掴んだ睡魔を振り払ったのは、
鼻孔を掠めた甘い花の香りとグラグラ揺する
無粋な手だった。
「うるさい」
「おっと。危ないなぁ、急に暗器を
飛ばさないでくれたまえ」
「うざいです」
「うむ、本日も快調のようでなにより」
ハハハハ、とわざとらしい高笑い。
体を起こしつつベットサイドの目覚ましを
投げつけるも、あっさり避けられ壁に
当たって砕け散った。
矢継ぎ早にあれこれ投げたが
全部避けられた。
「チッ」
「ふふ、僕はこっちだよ?」
「殺してほしいくせに」
「大変魅力的なお誘いだが、
生憎と痛いのは嫌いでね」
嘘だ。神に痛覚なんか存在しない。
昨日、あんたが言ったくせに。
「おいで」
無駄に整った顔に胡散臭い笑みの男が
ひらひらと手を揺らすのに誘われて
床に足を下す。
途端に空間が歪み始めたが
足場はあるのだから不思議なものだ。
「おや、もう慣れてきたようだね。
結構結構」
異常な現象は瞬く間に止み、
見覚えのない部屋へと様変わりしていた。
壁を覆いつくす本棚からして、
書斎のようなものだと予想する。
家具といえば、部屋の中央に置かれた
テーブルと二脚の椅子のみ。
「その通り!ここは僕の書斎だよ。
知りたいことがあるならここが一番さ」
「勝手に読むの、止めてもらえます?」
「僕が読んでるわけじゃないんだけどなぁ。
まあいいや、それも含めて今日は
僕たちについて学んでいこうか」
にっこりと笑う男の服装もいつの間にか
教師を模したものへと変化している。
自分も寝間着から見知らぬ制服姿に
なっていた。
「さ、座りたまえ」
こうなれば、逆らうだけ無駄だ。
席に着いた俺に差し出された一冊の本。
白紙だ。が、おおよその検討はつく。
「理解が早くて大変結構。僕の授業にも
ついてこられそうだね。じゃあまず、
君は自分のことをどう認識している?」
「僕は間違いなく死んだはずだ」
「うんうん」
「今の僕は精神体、のような感じ」
「うんうん」
「多分もう、人間じゃない」
「素晴らしい!ノーヒントでよくぞそこまで」
大げさな拍手と共にページに文字が
浮かび上がった。
知らない言語の文字、のはずが
「読める」
「これも神の特性の一つだよ。どんな言語でも対応可能だ。もちろん、書くのも話すのも可能だからね。まあ要約すると、神だから、ってことで」
「おい」
「この辺は感覚だから習うより慣れろってね」
めんどくさいだけだろ。
「まあね。で、次にこの読心についてだけど
これは才能の有無によるからなぁ」
ちらりと一瞥した後、パッと視界を塞がれた。
反射的に持ち上がった腕を制すように
声が上がる。
「あーごめんごめんちゃんと理由があるから
そう殺気立たないで」
「理由」
「うん。僕たち神は生まれながらにして神だからね。こういったものは無意識の内に理解していくんだけど、君は元人間。感覚がヒトに近いせいで力を抑え込んでるらしい。本来僕らに視覚なんて必要ない。見るんじゃなくて視るんだ。さぁ、僕を視てごらん」
視覚に頼らない。
見るのではなく、視る。
促されるままに隣にいる存在へ意識を傾けると
「ーーーっ!」
今のは何だ。
口にするのも憚られる『何か』が在った。
怖い?否だ。恐ろしい?否だ。
おぞましい(・・・・・)
「優秀過ぎるのも難あり、か。大丈夫かい?
神核にまで至るとは思っていなかったんだ。
ほら、落ち着いて深呼吸して」
なだめるように背をさする手に、
そこでようやく自分が椅子から
転げ落ちるほど焦っていたことに気づいた。
色を取り戻した視界でのろのろと
顔を上げると相も変わらず
笑みを浮かべた男がそこにいた。
「貴方は、何だ?」
「いいねぇ、さっきの今でそれを聞けるのか。素晴しい胆力と好奇心だね。ただ、生憎と僕はこう返すしかない。神である、と。だがまぁ、色々と複雑ではあるがね」
答える気はない、と。
いや、そう易々と他者に話せることではない
のかもしれない。
「そう悲しい顔をしないでおくれ。
必要になれば教えるつもりだ」
そんな顔をした覚えはない。
「一つ、教えておくならば..君が視たのは神核と呼ばれるものだ。まぁ神格というのもあるがこっちはまた次の機会に。そうだなぁ、簡単に言えば神を形創る核だ。弱い神は、これを壊されれば死ぬ。いや神に死は無いから消えるというのが正しい表現かな」
「神を、形創る」
「そう。将来君には僕の神核を壊してもらう
予定だからよろしくね、僕の死神さん」
無駄に整った顔立ちの神は嫌味なほど綺麗に
微笑んだ。