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自分の在り方2

何度か下書きが消え、心が折れそうになりました。

「本当に、君は良い子だね」


ぽつりと溢された一言。

がしかし、次の瞬間には元の笑みを浮かべているだけだった。


「方法は至って簡単、『君自身』をその身体から分離させる。だが君は、僕の神気を介してしか己の神気と触れあっていない。ゆえに、完全に分離されると同時に君の崩壊(・・)が始まるはずだ。だからその前に、君は自分の神気に順応し、身体を生成させる必要がある。つまり、」


「そこから先は俺次第」


「そう。仮に君が耐えきれずに消滅してしまった場合、 もちろん僕は再び君を造り出す事が可能だ。ただし、そこに芽生える自我(いし)は君ではないけれど」


ああ、確かにこの男は神だ。

無情であり多情。

選択肢を与えておきながら、その実始めから選択の余地など無いのだ。


「もし俺が俺で無くなったなら、それは俺が弱かっただけ。あんたのせいじゃない」


だから、さっと始めてくれ。

そう思いつつ見つめ返せば


「うん。わかった」


カミは静かに頷いた。俺に向けられた手の平へと、常時俺の身体に在ったカミの神気が吸い込まれていく。それに応じるように、俺の意識も薄れていく。


なぁ、もし、もし俺が戻ってこれたら、あんたが俺の名前を呼ばない理由もわかるのか。




――――――――――――




そこには何もなくて

自分が何であったか

自分という意識さえあやふやで

視覚も聴覚も触覚も聴覚もない

何しろ手足の感覚が無いのだ

霞がかった思考では何も捕らえられなかった


いったいいつから自分がこの状態なのかもわからない。例えるならそう、宇宙に意識だけ漂っているような感じだ


(あれ、何で俺こんなとこにいるんだっけ)


果てには、記憶すら無くなっていく

そこから先は、地獄だった



1日経ち、10日経ち、1ヶ月経ち、1年経った


時計もなにもないというのに、時間の流れだけはやけにはっきりと認識できた。それが余計に辛い。

意識はあるのだ。ただ、意識だけがあるのだ。人は、眠りという休息を必要とする。食事で栄養を補給する。しかし、今の自分は何も出来ない(・・・・・・)

いっそ、気が狂ってしまえばいいのだ。

がしかし、それすらも許されない。


意識を手放そうとすると、

段々と息苦しくなってくる

何かが纏わりついてくる

じわじわと締め付けられていく感覚。

眠ることは許さないと言わんばかりに

藻掻くことすらできないまま、

無抵抗で受け入れるしかない。


10年が経ち、100年が経ち、1000年が経った


未だ俺は俺のままだった。

己が何であったかも覚えていないというのに。

どうして狂うことすら出来ないのか、

今の俺の暇潰しと言えばこれぐらいだ。

とはいえ意識がはっきりしている間はさして長くもないのですぐ自分が何を考えていたのかわからなくなるのだが。


眠くなると、思考に霞がかる。

意識があやふやになってしまう。

すると、途端に『何か』が襲ってくる。

見えないし触れない、物理的接触もない。

だが確実に俺の意識を叩き起こそうとする。


(眠りそうになると、『何か』が邪魔をする。もし仮に、邪魔をする理由が俺を苦しめる為じゃないとしたら。他にどんな理由がある?)


そう、もしも前提が逆だったなら。

俺が欲する眠りから、『何か』が護るために邪魔をしているとすれば。眠ることが俺にとって不味いことになるから、邪魔をしているのだとしたら。ふと、脳裏にとある一節が浮かんだ。


ー眠りは死にもっとも近いとされるー


眠ることで、死に相応する何かが起こるとしたら。

俺は神気に守られていたのだ。

ここにあるのは神気そのもの。

いや待て、しんき?神気とは何だ?

何故俺はここにあるのが神気だと認識できた?

可笑しい、いや可笑しいのは俺か。


なぜ体が無いことに疑問を持たなかった?

なぜここにいることに疑問を持たなかった?

始めから答えはそこにはあったのに。


1000年も無駄にしてしまったのだ。

気が遠くなるような時間のなかで、

俺が得たものは何もない。


何もないのが俺だ(・・・・・・・・)


中途半端で未発達。

そもそも俺という存在は確立されていない。

まだ何も成していない。

だから俺には何もない。

これが答えだ。


そうはっきりと自覚した途端、

急速に周囲が歪み回転し始めた。

あれだけ拒まれ続けた眠気も襲ってきた。

もし次に目が覚めなければ、その時はその時だ




――――――――――――




誰かに撫でられているのを感じ、ゆっくりと意識が浮上してきた。心地よい眠気に後ろ髪を引かれながらも渋々目を開くと小綺麗な顔が視界いっぱいに映り込んできた。


「お目覚めかな、眠り姫」


「何、その呼び方」


「とても気持ち良さそうに寝ていたからついね」


しかも、今の自分はカミに膝枕をされている状態だった。慌てて体を起こすと、カミが小さく笑いを溢した。


「そんなに慌てなくてもいいのに」


「俺は、」


「あぁ、そういえば良い忘れていたよ。おめでとう、そして無事に帰ってきてくれてありがとう。だからどうか泣かないでほしい」


伸ばされた手が、すり、と目尻をなぞった。

そこで初めて、俺は自分が泣いていることに気が付いた。長い、長い夢を見ていた気がする。内容は覚えてないし、涙の理由も、この胸に燻る感情が何なのかもわからないけど。


「ただ、いま」


返すべき言葉があると思った。



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