自己紹介2
夏休みだとどうも気が緩むんですよねぇ
「「次は僕らだね」」
パッと手をあげてみせたのは、十二神の中で一組目の(・・・・)双神だ。ふわふわと水色の癖っ毛が揺れる。
「僕はアルテミス、狩猟と貞潔の神。序列は六位」
「同じくアポロン、 芸能と芸術の神。羊飼いの守護神でもある。序列は六位」
「「見ての通り双子だよ。よろしくね」」
同じ顔が、同じ声で、同じ仕草をする。
双子とは言いつつも上下について触れないこと、序列が同列であのは、つまりそういう事なのだろう。
普通なら判別するのが困難なほど酷似している双神だが、神気が全く違う。よって、見分けるのは容易だ。続いて声を上げたのは、緑青の髪を一つに結い上げた女神。
「では、私も。アテネと申します。序列は五位。知恵と芸術、戦略を司る神ですわ。御上の補佐官も務めております。どうぞお見知りおき下さい」
丁寧な言葉遣いと所作からアテネの人柄が滲み出ている。白地に金の刺繍が施されたワンピースは両サイドに深いスリットが入っており、万人には目の毒だろう。
更に続いて、軽薄そうな顔が...否、瑠璃色の髪を軽く遊ばせた男神が口を開いた。
「じゃ、ボクも改めて。私はポセイドン、序列は四位。海と地震を司っています。御上の秘書官も務めております。どうぞ気軽にセイドお呼び下さい」
口調と共に雰囲気と表情が変化した。そう、黙ってさえいれば、普通にイケメンと呼ばれる部類なのだが。普段の態度が魅力を大きく損なうのだ。
ここでようやく、というか順番的には自分なのだが。
「俺、自分の名前すら知らないんだけど..」
そう、つい先程己の出生について知ったばかりで、他人に語れるような事など何一つ無いのだ。
「「「え!?」」」
「あれ、教えてなかったっけ?」
「聞いてない」
「ごめんごめん忘れてたよ。じゃあ代わりに僕が紹介しよう」
口では謝罪を告げながらも、反省の色はゼロ。確信犯だ。俺がこうして膝の上に座らされたのも、つまりはこの時の為だ。
「この子はパランゲリア。序列は三位、死と生を司る秩序の神だよ。色々あってこの間ようやく神化できたんだ。精神は発達していても身体は未熟だから、みんなサポートしてあげてね」
「「「御意に」」」
「パラン、ゲリア?」
「そう。それが君の神名だよ。長いから、愛称はリアにしようか」
パランゲリア。再び心中で反芻してみると、成程、しっくりくる。役目の通り、秩序を冠する名だ。自分が何者であるのかをようやく理解しつつあるようだ。がしかし、完全とは言い難い違和感があった。
「さて、次の子についても、僕から説明しよう。序列は二位、ハデス。死者の王であり冥界の管理者でもある。彼は少々特殊でね、滅多に神界には来ないんだ。そして、リア、君の双子の兄でもある」
双子の、兄。ハデス。死者の王であり冥界の管理者。未だ顔も知れぬ相手だが、その存在を知覚した途端に言い得ぬ違和感が消失した。
「うん、いい顔になったじゃないか」
満足げに頷いている。
全部お見通しって訳だ。
透き通るような金髪が動きに合わせて輝く。この神、髪色をころころ変えるくせに何故今日に限って金髪なのか。無駄に眩しい。
「最後は僕だね。最高神ゼウス。全知全能の力を持つ創造神だ。序列は一位、神界の管理者でもある。好きに呼んでくれて構わないよ。なんならパパと...」
「断る」
「..わかっていたとも」
一瞬、神気が揺れた。案外傷つきやすいのだろうか。
「全員、顔と名前を覚えたね?彼らとはこの先顔を合わせる機械も多いはずだ。神としての経験も豊富だ。学ぶことも、助けられることもあるだろう」
ここで一旦話を区切ると、この場にいる全員に言い聞かせるように一人一人と視線を合わせていく。
「時間はある。新しい仲間と存分に友好を深めてほしい。以上だ、今日はこれにて解散とする」
珍しく真剣な表情でそう締めくくったかと思えば、
「帰ろうか」
嬉しそうな顔をして手を差し出してくるから、俺に、その手を取る以外の選択肢は無かった。
緑青は、俗に言うエメラルドグリーンです。また、主人公のパランゲリアはギリシャ語で秩序を意味します。