規格外の子は規格外
ちょっと遅れたけど許して..
俺はまだ、正しい神気の使い方など知らない。でも、神気の使い方は何となく、体が覚えている。だから、
「見つけた」
神の神気を辿ってきた。
自分の事なのに、他人に言わせようとする、
ずるい神の所に。
変化は、瞬きの間だった。
気づけばそこは見知らぬ広間で。
その場には、複数の神気が。
つまり、ここにいる全員が、神だ。
「「「!?!?」」」
「課題は終わったみたいだね」
そんな中、悠然と椅子に腰掛けたままの神は。
全てを見透かしたように微笑んでいた。
「コレ、返す。煩い」
「ちょ、もうちょっと優しく握って!?」
「あははっ、すごいミニサイズじゃないか」
「元のサイズだと運ぶの面倒だったから。戻す?」
「んー、じゃあ願いしようかな」
パッ、と宙へ放り出されたセイドは瞬く間に膨らんでいき、床に転がる頃には元のサイズに戻っていた。軽く涙目だがまぁ気にしない。
「いったぁ、二人揃って扱いが酷いよ…」
「「「!?!?」」」
「じゃ「待った」」
「おいで」
にっこり笑顔。勝手に来たのを怒っているのだろうか。いや、これは悪いことを思い付いた時の顔だ。
反射的に一歩引くと、何かに背がぶつかった。
「逃がさないよ?」
声の主は、振り返るまでもなくつい先程まで椅子に座っていたはずの神で。ガッチリとホールドされ、そのままずるずる引きずられる。こっそりと、忍ばせておいた暗器を背後から放ったが、あっさりと砕け散った。
「はいみなさん、ちゅうもーく」
言うまでもなく注目されていたのだが。
注がれる視線は、お世辞にも好意のみとは言い難かった。
「この子が、さっき話していた僕の第二子だよ」
ジリ、と肌を焦がす感覚。
あぁ、これは明らかな敵意だ。
神に撫でられながら、俺の中で『何か』が首をもたげた。
現状で動作は無意味。
ならば、同等をもって返そう。
「「「――――ッ!!」」」
俺と神を除く全員が、見えない何かに押し潰されるようにその場に膝をついた。そう、それでいい。
無抵抗の方が、楽で良いから。
「こらこら駄目だってば」
なのに、せっかく浸透させた神気が別の神気によって掻き消された。と同時に支配から解放された者達がその場に倒れ込んだ。その呼吸は細く、顔面は蒼白だ。
「何で」
「確かにいきなり礼を欠いたのは彼等だけど、一応僕の部下達だから。無闇に消そうとしちゃ駄目。わかった?」
「わかった」
「素直でよろしい」
のほほんとした会話とは裏腹に、当の部下達は未だ床に転がったままだ。その様子を見て、彼等に手を翳す。また何かされるのかと部下達が体を強張らせた所で、
「おお、神気操作もほぼ完璧だね!」
嬉しそうな神の声と、拍手。
そこでようやく部下達は己の状態の変化に気付いた。先程までの体を蝕んでいた恐怖が消えているではないか。
どういう事かと元凶へ視線をやると、代わりに保護者が口を開いた。
「君達の状態は、謂わば『神気酔い』だよ。一気に許容量以上の神気を浴びたことによる精神錯乱状態。効果はそれぞれだったみたいだけど、一度その神気に恐怖を覚えるとその感覚は中々消えないものだ。周囲にその神気が含まれているだけでかなり辛い。だからこの子はこの場に残存する己の神気を全て自身に戻したのさ」
すらすらと語られた内容は、一度で理解するに難く。僅か反芻した後、彼等の絶句を誘った。彼等とて、この場にいる以上かなりの実力者だ。当然、神格も、神気も段違い。そんな彼等が、神気に酔い、恐れた。
端から聞けばなんて事無さそうな、しかしその実並の神では理解すら不能な領域だ。ましてや、生後一週間程の子供がそれを実行するなんて、あり得ない話なのだ。
「うん、じゃあ自己紹介タイムにしようか」
とことんこの神はマイペースだ。
周りの反応なぞ気にも留めず、さっと一振り。
気づけばそこは談話室。
一人一脚、円状にソファが並んでいる。
「みんな表情が固いよ、気楽に気楽に」
手をひらひらさせながら神が言うので、とりあえず隣に腰を下ろすと、何故か凝視された。
「何?」
「僕に対する遠慮の無さに驚いてるんだよ」
「されたいならするけど、されたいの?」
「全然。君はそのままで良いよ」
知ってた。思わず素で突っ込んだ時とか、嬉しそうな顔するから。だからなんとなく使ってた敬語も止めた。
「御上が、甘い...」
「糖度高め。胸焼けしそう」
「やれやれ、噂以上の子だね」
「「父上、あんな顔もするんだね」」
「規格外の子は規格外だな」
「これが単なる馬鹿ならあれだが、まぁ」
「「「先程のご無礼、お詫び申し上げます」」」
「「「そして、十二神の名に懸けて」」」
「「「若様を御守り致します」」」
どことなくデジャヴ。
というか、あれだ。
神って切り替えが凄く早い。
次回はほぼ登場神物紹介になるかと。