a fighter
すべての人は戦っています。
「まもなく道場、道場。お降りの方はーー」
駅員のアナウンスが響く。自分以外誰もいない車内でぼんやりと聞いた。
ああ、と思う。
結局俺は帰って来てしまったのかと。
あれだけ、しばらくは帰るまいと思っていたというのに。
「道場、道場。」
その声が背を押す。煌々と照る照明を背に降り立った。
久しい故郷。のどかでのんびりとした空気を感じさせる反面、どこか置いていかれたような気持ちを感じさせる町。
空気は冷たく澄んで、川のせせらぎも広い田んぼと山々に吸い込まれていく。
その中を列車が突っ切って行った。
ああ、と思う。
ちょうどそう、あの列車のように走ってきたんだ。ただ真っ直ぐに。
不器用は承知だった。
浪人して、留年して、努力が足りないだけだと言い張った。
親しい同期達が周りからいなくなる中、一人でも走った。
暗闇でようやく見いだした夢にも呆気なく敗れて。
心で泣きながら、それでも走った。
何度も失敗しながらやっとのことで就職して。
遅れを取り戻そうと、ただ、ただ走った。
走って、走って、走ってきた。
そして、走れなくなった。
ああ、と思う。
あの列車もいつかは走れなくなるのだろうか。
今は力強く、闇を切り裂くあの列車も、いつかは。
いつかは電池が切れたように、ぱったりと。
無人の改札を出る。人工の照明から離れると、ぼんやりと月の光が照らした。
頼りなくもその輝きに手を伸ばす。伸ばした手の中にぽつり。
落ちた雪の欠片は何も言わず、すっと手の中で消えていった。
ぽつりと一粒。ぽつりと一人。
ああ、と思う。
社会から逃げ帰ってきた俺に、兄はなんて言うだろう。
ただ一人。俯き佇む青年が一人。
そこにスッと光が差した。
視界の端に滑り込むハリアー。
情けなさに顔も上げられない俺に、衝撃と暖かい腕の中。懐かしの低い声。
弱さを表に、涙を流したのはいつ以来だろう。
なんや、そっか。俺、がんばってたんや……。
ただ、つらつらと。
想いを綴る私です。
ADHDに伴う、うつ病と社交不安障害。
きっとどこにでもありふれた一人の私です。
生きることはいつの時代にいても苦しい。
でも、生きねばなりません。