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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第22話 「虎の王」と「鷹の女王」
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22-4

 アカグロに奪われた銀河帝国の8脚型大型ロボット。

 我らが天昇園戦車隊2号車は果敢に戦いを挑むが、銀河帝国ロボットの技術力は凄まじくチハは行動不能の状態に陥ってしまう。

 果たしてこの状況を打開する手が彼らにあるのか?

 戦え涼子! 負けるな西住涼子!!




 チハの左は履帯は切れ、残った右の履帯だけで車体を回そうとするが虚しく採石場の地面をえぐるだけだった。

 涼子も無理だと分かりながらも何度も砲塔旋回ハンドルを回すが動かない。

 チハは車体こそ敵に正面に向けているものの、砲塔は右を向き、主砲を敵に向けられないでいた。

 敵ロボットは勝利の余韻を味わうようにゆっくりとビーム砲のチャージをしている。


 ラルメと場所を代わった宇佐も車長用砲塔旋回ハンドルに手を掛けて涼子に協力しようとするが、宇佐が力を込めるとハンドルはポッキリと根本から折れてしまった。


「と、取れた~!」

「な、何やってんのよ!?」

「ふむぅ、さっきの『びぃむ砲』で跳ねた石コロが砲塔と車体の間にでも挟まったかのぅ……」


 島田も砲塔内に顔を出しハンドルに手を掛けて調べていた。

 だが彼の長い経験においてもこんな事は初めてだった。戦時中、チハは機能不全になるよりも先に撃破されていたのだ。


「あ~、あかんな……。3人ともワシが機銃で牽制するから逃げたらええ……」

「島田さんまで何を言ってるんですか!?」

「逃げる事は恥じゃない。ここは逃げてもまた別の戦場が西住しゃんを待っとるさ……」


 島田さんまでラルメのように自分に逃げろと言う。涼子はふざけるな! と怒鳴りつけてやりたい気持ちを押さえながら彼に返す。


「敵前逃亡はオヤツ抜きですから! それに敵さんの機銃が残ってなけりゃとっとと逃げる事もできたんでしょうけどね! ふんっ!」


 話ながらも砲塔を回そうと何度も試みるが無駄だった。それでも涼子は諦めるつもりは無かった。

 何度も何度もハンドルを回そうとする涼子に宇佐が声を掛ける。いつもの笑顔ではなく、真剣な表情だった。


「涼子さん?」

「なに? ふんッ! 悪いけど後にしてくれる? ふん!」

「いえ、今がいいです」

「何よ? フンっ!」

「砲塔さえ動けば……、主砲さえ使えればアイツを何とかできますか?」

「なんとか? あんなポンコツ、私がぶっ壊してやるわよ!」


 だが敵ロボットの底面も側面もチハの主砲は通じなかったのだ。そして敵の装甲が最も薄いという後部は岩壁に向けてこちらに見せる事はない。こちらに向けている正面装甲はもっとも装甲が厚い場所だろう。


 それでも宇佐は涼子の言葉を信じた。

 宇佐は友人の言葉に命を賭けるべき価値があると思ったのだ。

 宇佐には涼子がどうやって8脚型ロボットを倒すつもりなのかは分からなかった。それでも友人の必死で砲塔を回そうとする様子に自身も賭ける事にしたのだ。


「ちょ! 宇佐!?」

「お、おい!」


 涼子とラルメが止めるのも聞かずに、宇佐は砲手兼装填手ハッチを開け放ち、外に飛び出して車体の上に降り立った。

 そして車体に足の爪を立てて踏ん張り、砲塔を押し始めたのだ。


「ふんっ!!!!」


 涼子には正確な重量は分からなかったが、それでもチハの砲塔は数トンはあるハズだ。だが僅かに、しかし確かに砲塔は動き出す。


 車内から飛び出した宇佐に対して、敵ロボットも脅威を認め、機銃で宇佐を攻撃する。

 天昇園の機銃徹甲弾はハドー獣人に対して無力であったというのに、敵ロボットの小口径高初速弾は宇佐の生体装甲を易々と貫き、そしてその衝撃で宇佐は車体の上から吹き飛ばされた。


 それでも宇佐は立ち上がり、よろめきながらも車体の上に立ち砲塔を押す。

 そして再び加えられる機銃掃射。

 宇佐から飛び散った血が開け放たれたままのハッチから車内に飛び、ラルメと涼子の顔にかかった。


 頬から垂れて口の中に入った宇佐の血を涼子は自分の血と同じ味だと感じた。

 それはラルメも同じだったようだ。


「…………妾も海賊も血液の味は同じか……」


 その言葉に何を思っているか、装甲越しにいるであろう宇佐の方向を見詰めているラルメの表情は見えない。


「地球人の血の味も同じよ」

「……そうか」

「皆、同じ血の味。命の価値も皆、同じなのかもね。それでも宇佐は友達のために自分の命を掛けた。貴女の友達のマスティアン星人だかも多分、宇佐と同じ……」

「…………」

「だから貴女も自分の命を真面目に使いなさい。その事をじっくりと考える時間は私と宇佐が作ってやるわ!」


 機銃掃射の音に負けじと宇佐が叫ぶ。


「これが私の『海賊魂』だァ!!!!」


 渾身の力で砲塔を押し、そのまま宇佐は力尽きたように車体の上に倒れてしまった。

 ついに砲塔は十分に回り、チハの主砲が敵を向いたのだ。


 涼子が砲架に飛び付き、肩当で主砲を微調整。狙う「目標」はすでに決めていた。

 視界が曇って視界がボヤける。

 袖口で涙を拭って深呼吸を1つ。


(負けるな涼子! 私はヒーローだ! 私の事を泊満さんは「鷹の目の」って言っていたじゃないか!)


 もう一度、涙を拭って猛禽の目を取り戻した涼子の視界はクリアになっていた。

 鮮明に脳内に刻み込まれる世界に涼子の思考も加速する。

 狙うは1点。

 タイトな狙撃だった。だが、その1点でなければ敵は倒せないだろう。


(この距離で徹甲弾の弾道は……良し!)


 ついに引鉄が引かれる。

 だが発射された47ミリ砲弾は敵ロボット上部のビーム砲の右脇を通り過ぎて岩壁に当って弾かれてしまった。


「お、おい! 外れたぞ!」


 ラルメが慌てて次弾を取り出して装填しようとする。

 それは彼女が今日、初めて自分の意思で行動した事であった。

 だが涼子は彼女の手に自分の手を被せてそれを遮る。


「……大丈夫。終わったから……」


 そして涼子はハッチから出て宇佐の元へ。


 宇佐は車体の上で目を閉じて横たわっていた。

 茶色の毛も制服のポロシャツも血で黒く染め上げ、総務から作ってもらったと喜んでいた社員証も無惨に機銃弾で打ち砕かれていた。

 車体に降りた涼子は宇佐に膝枕して彼女の頬を撫でてやる。


「…………頑張ったわね……」

「……涼子さん、どうして? どうして外したのに……、どうして弾は外れたのに敵は沈黙しちゃったんですか?」


 敵ロボットのビーム砲の冷却器であろうファンは次第に回転数を落とし、目標を走査し続けていた正面カメラの動きも止まっていた。8本の足も姿勢を維持していた圧力が抜けたのか次第に胴体の位置は沈んできていた。

 そして今、後部から火を吹いて炎上を始めたのだ。


「外してないわよ?」

「……?」

「昔、『日本一のガンマン』って言われるヒーローがいたの。その人は私と同じただの地球人だったんだけどね。その人はリボルバー拳銃片手に怪人をバッタバッタと倒していたと聞くわ。ただの人間用の拳銃でどうやっていたと思う?」

「どういう事ですか?」

「宇佐、貴女、『跳弾』って知ってる? 何かに当って跳ね返った弾のことなんだけど……」

「まさか……」

「そ! 後ろの岩壁に当てて跳弾させた砲弾を、装甲がもっとも薄いっていう後部に当ててやったわ!」

「……さすが涼子さん……」

「貴女のお陰よ……」


 弱々しく笑顔を作り涼子の健闘を称える宇佐に涼子も微笑みを返す。

 上手に笑えているだろうかと不安になる。

 この怪我では宇佐は長くは持たないだろう。結局、また自分は無力だったのだろうか?

 スラックスのポケットに飴玉が入っていたことを思い出し、取り出して左手と歯で包装を取って宇佐の口の中に放り込む。


(アンタ、甘い物が好きだったわね……。こんな飴玉なんかじゃなく、もっともっと美味しい物がいくらでもあったのに……。生きていてくれさえすれば……)


 涼子はまるで罪滅ぼしのような気持ちで宇佐の頬を撫でる。

 だが……。


(あっっっま)あああぁぁぁい!? 何です? 何なんですコレ? 涼子さん!?」


 宇佐はムクと体を起こしてしまった。

 両手を頬に当てて至福を味わうようにガリガリとミルク味のキャンディを噛む姿はとても死にゆく者には見えなかった。


「…………」

「どうしたんです? 涼子さん?」

「……平気なの?」

「メッチャ痛いですけど?」

「痛いって……、命の危険とかは?」

「2次装甲も骨格装甲も抜かれてませんので。この甘いのもっとくれたら痛いのも全部、すっ飛んじゃう気がするんですけど……」


 チラチラと涼子の顔色を伺う宇佐に、涼子はスラックスのポケットを漁ってみるがもう飴玉は残っていなかった。


「あ~、職場のロッカーまで行かなきゃないわね……」

「それじゃ、戻ったらもっとください!」

「いいけど……」

「ヤッター!!」

「えっ!? もしかしてハドー怪人が1人1袋とかキャンディ持ってたら、今頃、日本は征服されてたりする?」

「なんですか、それ?」


 自身が散々にヘッドショットを決めていたのも忘れて宇佐の回復ぶりを信じられない様子で見る涼子。

 だが宇佐の無事を喜ぶよりも前に山の尾根を越えて4台の大型ロボットが現れたのだ。

 先程の物と同様の8脚ロボットだが上部の砲はそれぞれに違う。

 だが涼子は負ける気がしなかった。

 また正面からケツに砲弾をブチ込んでやる。

 宇佐とチハがいれば何でもできる。

 涼子の胸中を万能感という自信が包んでいた。


「行くわよ! 宇佐、もう1働き頼むわっ!」

「甘いのいっぱいお願いしますね!」

「アイスもでしょ!」

「はい!」


 砲塔に飛び込んだ涼子に島田さんが告げた。


「ん? 西住しゃん、やる気になったのはいいが、援軍が来たからもう気張らんでもいいぞい!」

「……あら? でも誰が? あのロボット、結構、ヤバい相手ですよ?」


 あのロボットの装甲はチハ3号車やハ号では相手は難しいだろう。

 心配する涼子に島田さんは通信機のスピーカーをONにして、ヘッドフォンプラグを抜いて車内に通信が聞こえるようにした。

 そして島田さんの言う援軍とやらは照準眼口越しにハッキリと涼子の目にも見る事ができた。




「ブレイブハウンド!」

 青の猟犬、犬養葵。

「ブレイブ! ファルコンッ!」

 黄の隼、黄島隼人。

「ブレイブリザードォ!」

 緑の蜥蜴、渡嘉敷緑。

「ブレイブッ! ドルフィン!」

 黒の鯆、藤原入鹿。

 そして……。


「ブレイブ! ティィィィィゲェェェルゥゥゥ!!!!」

 黒鉄の猛虎、天昇園戦車隊1号車、六号戦車ティーゲルであった。


 採石場に飛び込んできた1号車の上に乗ったブレイブファイブの5人とキューポラから上半身を出した車長の泊満さん。


「えぇ……、ま、また見せ場取られた……」


 ティーゲルの車体上で憮然とした声を絞り出すのはブレイブタイガーこと大河であった。

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