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(この辺の戦闘シーンは戦力分析で何度も見返したし、早送りにするか)
こんばんは。俺は明智元親。
現在、視聴中のDVDは「復讐の死神デスサイズ」。所謂、ヒーローのドキュメントビデオの一本だ。
それというのも、俺がこの春から入学したH第2高校のクラスメイトの一人というのが、デスサイズこと石動誠だからだ。
去年から面識はあったものの当時とはだいぶ印象が異なる彼は、その事を「荒んでいた」の一言で済ませている。しかし、彼が1年足らずの期間に経験した出来事はそれで済ませられるのだろうか?現に彼は感情に起伏が異様に激しい。その点が気になった俺はドキュメントビデオの確認している。
場面は超巨大空母の艦上で激闘を繰り広げるデビルクローとデスサイズ。やはり早送りしよう。結末を知っていても、知己の二人が本気で、しかも片方は相手を本気で殺そうしているのを見るのは辛い。殺そうとしている方が洗脳されているなら尚更だ。
Pi!
『▷▷▷ 早送り』
そろそろか?
「いい加減に目を覚ましやがれ!!」
デビルクローが破損し帯電する拳をデスサイズの顔面に叩き込む。のけぞりながらも倒れることなく殴り返そうとするデスサイズだったが、急に両手で頭を抱え叫びはじめる。
「う、ぐ、あ、ア、アアアアアアァァァァァァァ!!」
「どうした!誠、誠ォ!!」
それまで戦っていたのが嘘のように弟の肩を抱きとめる。やがて叫びは静寂へと姿を変える。
「……………………」
「誠!?」
「…………あ、兄ちゃん?」
「ああ!そうだ兄ちゃんだ!」
「…………」
「どうした?どこか痛むか?」
「ううん。僕は兄ちゃんに酷い事をしてしまった。酷い事も言っちゃったね……」
「細けぇことは気にすんな!」
ARCANAに拉致され離れ離れになっていた兄弟の本当の意味での再開。肩を抱き合い再開を喜ぶ二人。だが……
「……ッ!!」
急に弟を突き飛ばした兄に幾条もの赤紫のビームが襲い掛かる。ほぼ全てのビームが直撃すると、デビルクローもこらえきれず海へ吹き飛ばされる。海中で連続した爆発が起きる。
「…………」
突き飛ばされた姿勢のまま茫然とするデスサイズ。やがて何が起きたのか理解すると慟哭する。
「うわあぁあああぁああぁあああ!!兄ちゃ~~~ん!!!!」
「ふん、一人で殺るというから任せてみれば……おい!デスサイズ!お前は精神調整を受けろ!」
甲板上にいつの間にか姿を現してしたのは大アルカナの一体であるスカイチャリオット。彼がデビルクローを海中へ追いやったビームの射手である。
「おい!もたもたしてんじゃねぇ!!」
非情なるARCANAは少年に兄の死を悼む暇すら与えてはくれない。
(死んでなかったけどな……)
「…………」
無言で立ち上がるデスサイズ。
先の戦いで手放した大鎌を手元に転送し、スカイチャリオットに向けて構える。
「……おい、それは何の真似だ……」
「見てわかんないの?」
「上等だ。デスサイズ、お前は破壊することにする」
「そう……、僕の名前はデスサイズ! お前の……お前たちにとっての死神だ!!」
(これが誠のヒーローとしての第一歩か……)
スカイチャリオットはその名の如く空中戦車から上半身だけを出した改造人間で、2門のビームカノンはそれぞれ戦車の両脇に搭載されている。そのビームの威力は凄まじく、しかも連射性能も高い。見るからに装甲の薄いデスサイズにとって一発の被弾がそのまま致命傷となりかねない。
スカイチャリオットの上空からのビーム射撃に甲板上は既にささくれだらけ、複数個所からの炎上が確認できる。
デスサイズはイオン式ロケットブースターの推力も利用しながら縦横無尽に甲板上を駆け回る。デビルクロー同様に空を飛ぶ機能はあるのだが、空中戦車の機動力には及ばないとの判断ゆえだ。もちろん、ただ攻撃を避け続けているだけではない。狙うは一瞬……
「クソっ!ちょこまかと!!」
兎の跳躍を思わせるデスサイズを追うスカイチャリオッツ。ある場所に誘導されているとも知らずに悪態をつく。
「……!」
駆けるデスサイズの右前方に島型艦橋。後方にスカイチャリオット、直線軌道で追ってくる。
急転回で艦橋の死角に飛び込み、ブースターフル稼働!一気に艦橋を駆け上る。
「ハッ!隠れられると思ったか!!」
デスサイズを追うスカイチャリオットがそう叫んだ直後に見た物は、空を飛ぶ自身の真横から斬りかかってくるデスサイズの姿だった。大鎌の刃が不吉に赤い。
「この瞬間を待っていたんだァァァ!時空間絶裂斬!!」
斜めに両断されたスカイチャリオット。上半身は海中へ、空中戦車は甲板に激突して大穴を開ける。程なくして二つの大爆発。断末魔の叫びすらない。
(何度見ても背筋が凍るな。一般人の認知度こそ低いものの、業界人なら誰もが知る。一騎当千の大アルカナを一撃とは……)
しばらく天を仰いでいたデスサイズ。が、巨大空母の破壊のため艦内に侵入する。取材ヘリのカメラが彼の姿を捉えられたのはそこまでだった。