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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第21話 立ち上がれ! 5人の戦士たち!!
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21-1

 涼子が素手で窓ガラスを殴り割ると、喧騒に包まれていた室内は一瞬で静寂に包まれていた。


「全員、正座なさい。……あっ、車椅子の人はいいです」


 彼女の静かな怒気を感じ取ったのか、皆、言われた通りに床の上に正座する。車椅子の人と涼子、ラルメを除いて。もっとも涼子もラルメが言われたくらいで正座するとは思っていなかったが。


「……あ、あの、涼子さん。手から血が……」


 宇佐が恐る恐るといった様子で声を掛けてくる。

 宇佐の言葉は涼子を心配したものだったが、その表情にはハッキリと恐怖の色が浮かんでいた。まるで廃墟の街で初めて彼女と出会った時のように。

 その様子に思わず涼子はドキリとする。宇佐を脅かすつもりは無かった。むしろ彼女はいきなり蹴りかかられた被害者だ。


「あ、ああ、ゴメン。奥の救急箱を持ってきてくれるかしら……」

「はい……」


 パタパタと足音を立てて駆けていく宇佐を見送りながら、涼子は深い後悔に襲われていた。

 自身の手からはポタポタと血が伝わり、床へ落ちていく。ガラス1枚を割っただけで怪我をするような人間に宇佐は怯えているのだ。


「……あの、涼子さん。持ってきました。見せてください。自分の手だと絆創膏、張りにくいでしょ」

「ええ、お願いするわ。悪いわね……」

「いえいえ!」


 涼子の言葉に宇佐はいつもの笑顔を取り戻したように見えた。それが安心によるものか、作ったものかは分からない。


 絆創膏を数枚、張ってもらい。さらに絆創膏が剥がれにくいようにテーピングをしてもらう。


「あ、そんなにブ厚くしないでね」

「大丈夫ですか? ちょっと動きが鈍くなっても厚く張った方がよくないですか?」

「大丈夫よ。それに皆を待たせるわけにもいかないでしょ?」

「はぁ……」


 涼子自身も宇佐の言う事がもっともだと思う。

 あまり傷口なんて見たいものではないがガラスでの切り傷だ。本当は医者に縫ってもらわなくてはいけない怪我かもしれない。

 それでも涼子は自身の動きが阻害されることを忌避していた。

 何故かは分からない。

 ただ、何か侵入者たちとは違うピリついた空気のような物があって、それが涼子を警戒させているのだ。


(そういえば、泊満さんはハドーの連中の攻撃に気付く前から「嵐」だの、ただ1回の爆発音を聞いただけで「風」がどうとか言ってたわね……)


 さらに言えば、自分は何故、利き腕ではない左腕で窓ガラスを殴ったのだろう?

 この右手の人差し指が引鉄を求めるようにヒクついているのとも関係しているのだろうか?

 まあ、そんなのは後回しでいいか。




 宇佐が慎重に自身の毛が血で汚れるのを厭わずに手当をしてくれるのを見ながら、涼子は覚悟を決める。先ほどの混乱はガラスを割った音で静まり、今も皆、正座したり車椅子に座ったまま大人しくしている。

 だが、それも今だけだろう。

 何かまたあれば先ほどのような喧騒に覆われる事になるだろう。

 そうなる前に話を進めなければならない。


 先程、4人の侵入者たちはラルメが施設利用者たちを洗脳していると言った。彼女の事をテロリストとも。だがラルメ自身は違うと言う。ただ彼女のクルーザーを奪ったのがテロリストだと言う。その辺で何か誤解がありそうだ。

 だが、まずはその事に関係無さそうなことからだ。


「あ~、静粛にして頂いてありがとうございます。皆さん、いい歳した大人なんですから落ち着いて話をしましょう……」


 一同が「(窓ガラス)に当っておいて何を言う」といった表情で涼子を見るが、努めて気にしない事にする。


「……まずですね。この宇佐は確かにハドーの獣人です。ですが警察に勾留された後でウチに引き渡された立派なウチの従業員です!」

「はあ?」

「……んなアホな……」

「ホントですよぉ! ホレホレ!」


 涼子の説明にも納得しない侵入者たちに、手当の終わった宇佐がストラップに入れて首から下げた社員証を自慢気に見せつける。


「マジかよ……」

「……なんか、ゴメン。蹴ったりして……」

「分かってくれたらいいんです!」

「え? 介護って資格とかはいらないの?」

「7月から初任者研修を受ける予定ですよ」

「そうなんだ……」


 意外にもすんなりと宇佐が天昇園の職員であると信じてしまった侵入者たち。さらに宇佐に謝罪して、宇佐も快く謝罪を受け入れた。

 良い兆候だと涼子は思った。

 人間、ずっと頑なでいることは難しいものだ。一度、自分の非を認めてしまえば、これからの話し合いはスムーズに進むのではないだろうか?

 ………………

 …………

 ……


「え~と、お互いの言い分はとりあえず聞いてみたわけなんだけど……」


 涼子が思った通りに話はスムーズに進んだ。スムーズに話が進んだからといって、それで話が解決するわけではない。


「え~、とりあえず……」


 ・侵入者4人の言い分

 ラルメは銀河帝国の巡洋艦から脱走したテロリストで、その軍艦がラルメを引き渡さなければ地球を爆破すると言ってきているというもの


 ・ラルメの言い分

 ラルメは銀河帝国の皇女様で、行幸中のクルーザーをテロリストに奪われ、自身は家臣の助けで小型艇で地球まで逃げて来たというもの


「……見事に食い違ってますね」

「ちなみに姫様?」

「なんじゃ?」

「彼らの言う『赤い黒点』なる組織については?」

「知っておるも妾のクルーザーをハイジャックしたのがそやつらよ! ……じゃがなあ……」

「どうかしましたか?」

「奴らをテロリストと言うのも、『赤い黒点』と言うのも奴ら自身だけじゃぞ?」


 ラルメはまるで興味が無いような表情で涼子たちを見ながら話す。興味が無いというのとは少し違う。その表情は母親が子供の遊びを見るような顔つきだった。「遊び」には興味が無くとも、「子供」には関心があるような。


「奴らは主義主張なんぞありはせん。犯罪を業務とする営利目的の商人よ。故にテロリストとは違う。故に宇宙の皆は奴らを軽蔑して『アカグロ』としか呼ばんし、そう呼ばれるようになって数千年。妾のように博識な者でもなければ奴らの正式名称なぞ知らんじゃろ?」

「よっ! さすがは姫様!」

「ついに真実が明らかになったようじゃな!」

「太ぇ奴らだ!」

「ホント、悪い奴らだよ!」 


 高齢者たちの喝采を受けてご満悦なラルメ。だが、ふとその表情が曇る。


「ただのお……。口惜しいが、妾にはそれを証明する手段がないのだ」

「大丈夫です!」

「証明なぞせんでもワシらが姫様を信じます!」

「うむ。貴公らの忠義、有難く思うぞ! 苦しゅうない」

「「「うおおおぉぉぉ~~~!!! 姫様~~~!!!」」」


 勝手に盛り上がってるラルメと高齢者たちは一先ず置いて、涼子と宇佐は4人組の方と話をする事にする。


「貴方たち、分かってます?」

「ん? 何がだ?」

「あそこで騒いでる浮かれポンチがテロリストだったらいいですよ、ただやってくる巡洋艦だかクルーザーだかに引き渡せばいいだけですから。逆に……」

「実は本当にお姫様だった場合はマズいよなぁ……」

「ですよね! 引き渡さなければ地球を破壊されるし……」

「銀河帝国ってのは帰化異星人の話じゃ地球を破壊するって言いだしても信憑性があるような国なんだ。その国の皇女をアカグロとかいうのに引き渡してしまったら……」


 結局は今週末に地球が破壊されるか、数ヵ月後に破壊されるかの違いしかないのかもしれない。


「あっ! 私、いい事を思いついちゃったかも……」


 突如、涼子が電流に打たれたように飛び上がる。


「なんだ?」

「ブレイブファイブに連絡しましょう! 彼らのスーパーブレイブロボなら軍艦1隻ぐらいなんとかしてくれますよ!」


 涼子はハドー総攻撃の際に見ていた。

 ハドーの陣形を組んだ空中艦隊を相手に七色のビームやミサイルを撃ちながら戦い、単機ながら敵艦隊を東京湾に引き込んでいたのを。

 最初、海の方へ引いていくブレイブロボを見た時、涼子は逃げているのだと思った。だが実際は違ったのだ。後になって新聞記事を見ると、東京湾には海上自衛隊の「きい」「おわり」を主力とする第1護衛群と米第7艦隊が手ぐすね引いて待ち構えていたのだという。

 ハドーを相手にあれほど見事な陽動を見せてくれた彼らだ。例え銀河帝国とやらの物であろうと1隻の宇宙船くらいなんとかしてくれるに違いない!

 握り拳を作って興奮する涼子に、宇佐まで瞳を輝かせる。


 だが4人組の表情は暗い。全員揃って俯いてしまっている。


「ん? どうしたんですか? 名案じゃありません?」

「ん~……。いい案だとは思うんだけどね……」

「そのだな……」

「ブレイブロボ、修理が終わってません……」

「は?」

「オマケに、その、ブレイブファイブは今現在……」

「なんですか?」

「4人ほどグルグル巻きにされて捕まってます……」


 眩暈を感じて崩れ落ちる涼子を宇佐が受け止める。


「お、おい! 大丈夫か!? 姉ちゃん!?」

「……うこは……」

「うん?」

「証拠はありますか? 貴方たちがブレイブファイブだという証拠は……」

「我々全員の手首にあるのが変身ブレスレット。それから浮かれポンチがいるテーブルの上にあるバッグの中に専用端末のブレイブデバイスと昼食のブレイブベントーが入ってます」


 宇佐が涼子の元へボストンバッグを持ってきて中を改めると、中にはブレイブマークと防衛省のロゴのついた見るからに耐衝撃性の強そうな6インチタブレットと、人数分のレトルトカレー、パックご飯、プラスチックスプーンが出てきた。


「へ、へぇ~……、私も冷たいレトルトカレーをご飯に掛けて食べるの好きよ……」

「…………意外と美味しいっスよね……」


 思わず現実逃避するしかない涼子にロッカー風が相槌を打ってくれた。


 だが、涼子を現実に引き戻したのは爆発音だった。それも極近くの。

 涼子が割ったまま窓枠に残っていたガラスが衝撃で床に落ちて割れる。

 割れていない窓ガラスも太鼓に張った皮のようにビリリと音を立てて震えていた。

 窓越しに見えるのは所長が買い替えたばかりだという高級セダン車が爆炎とともに宙を舞う姿だった。

 さらに弾丸のような物が涼子たちのいる室内に飛び込んできて花瓶を割る。


「うひゃあ!?」

「な、なんだ!」

「どうなってんだ、こりゃ!?」

「B-29か?」

「な……、なんなのよ……」


 事情が分かっているのはラルメだけのようで、彼女は椅子に腰かけたまま笑いながら言う。


「どうやら我が帝国軍を騙って貴公らをけしかけた連中が、貴公らが簡単に捕まってしまったのを見て逸って仕掛けてきたようじゃぞ。ん? どうする? 地球の勇者たちよ?」

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